第4話 悪夢
ルマは銃声と共にその場に倒れこむ。
あまりに突然のことに理解ができないグイア。
「...ッ!?お前...なにしてんだよ!!」
徐々に怒りがこみ上げてきたグイアは男に駆け寄り、拳を思い切り振り上げて殴りかかった。
しかし、グイアの拳は男にはかわされる。
1発でだめなら2発、2発でだめなら3発と続けて攻撃するグイアだったが、男はそれを全てかわした。
「なっ...!?」
自分の拳がすり抜けるようにかわされているのをたった今見たはずのグイアだったが、怒りが収まらず、諦めることなくひたすら男を殴り続ける。
「どうしてお前はルマを撃ったんだ!訳がわからん!」
そんなグイアをまるで赤子をあやすように、攻撃を何食わぬ顔でかわし続ける男は不敵な笑みを浮かべて
「撃つ?あれは必要なことだったのですよ。ルマさんに試したいことがあったのです。お許しください。」
「試したいことだと...?そんな理由で許されると思ってるのか!友人を撃たれ、許せと言われてはいそうですかと言うやつがいるか!!!」
あくまで空砲だと言い張る男だが、グイアにはそんなことは関係なかった。
「そうでもしないと試せないことだったのですよ。扉がなぜ空いたのかを調べるためにはね。とにかく、そんなに彼女が大事ならまず彼女の心配をするべきでは?」
と、男はルマの方を指差す。グイアははっとして殴るのを止め、すかさずルマのところへ駆け寄る。
「おい!ルマ!大丈夫か!?頼む、返事をしてくれ!」
返事は無かったが、呼吸はしており、どうやらショックで気絶しているようだった。
それに加えて、ルマの体の周りには銀色の光が漂っていた。
「おい...なんだよ、これ...なぁ...?」
グイアは、訳のわからない状況を見て困惑する。
それを見た男は、
「あぁ、そうそう、これがあの扉を開けることができた彼女の能力の一部のはずです。」
と、何食わぬ顔でグイアに説明する。
「能力...?」
グイアは不思議に思う。
それを聞いた男は
「ええ、能力です。しかも珍しい。」
「お前...さっきから何を言ってるんだ...?」
「彼女がとても珍しい能力者だと言っているのです。あなたには理解できない話だろうと思いますがね。」
「なんだと...!」
そんな時、ルマが
「うぅん...」
と唸りながら突然起き上がった。
その声を聞いたグイアはすかさずルマの方に駆け寄り、
「ルマ...!お前、大丈夫なのか?どこか怪我は...⁉︎」
心配をする。
「え...?そうか...私倒れて...。多分大丈夫です。」
「そうか...良かった...。」
男はルマが目覚めたことに気づくと、
「おや、ルマさん。お目覚めになりましたか。先程は申し訳ございません。どうかお許しください。」
と、頭を深く下げて謝った。
「許してって言われても...。どうして銃を向けたんですか?」
ルマは立ち上がりながら男が銃を向けたことを聞こうとする。
それに対して男が話そうとするのよりも先にグイアが耳元で、
「能力が見たかったんだとよ、全く訳がわからん」
と囁いた。
「能力...?一体何の...」
驚いてつい声に出したルマ。
男はそれに対して
「あの扉を開けることができた能力です。」
とだけ答えた。
「コツとかの話ですか?それなら尚更銃を向けた意味がわからないのですが...」
「今はわかってもらわなくても結構です。そちらの赤髪の方は別として、ルマさんにはそのうちわかる時が来るでしょう。能力の意味も、その使い方もね。」
「はぁ...そうですか...」
男の話を全く聞き入れようとしないルマ。
「では、私はこれで。」
そう言って、先程開いた扉の奥へと男は進もうとする。
「おい待て、今度は何をするつもりだ。」
と、グイアは質問する。
「何って...この世界を拠点にするために乗っ取りに行くつもりですが、何か?」
さも当たり前のように説明する男。
「そんな夢や漫画みたいな話あるわけ......」
訳のわからないことを言い続ける男を哀れむようにルマは言った。
「それが有るんですよ、何と言ったってここは夢の中ですからね。あの扉の奥さえ潰してしまえば上書きするのも簡単なんです。」
男は立ち止まってそう答えた。
ルマはそれを聞いて疑問に思う。
「ここが夢……?そんなのあるわけないですよ、だって私にはここで生きてきた記憶があるんです!」
男はそれを聞くと笑いながら答えた。
「記憶?笑わせないでくださいよ、この夢の中でのあなたの記憶は作られた所謂偽物です。あなたの存在は本物ですが。」
そういえば、と男はさらに続けて話す。
「赤髪の方は残念ながら記憶も存在も偽物だ。有象無象でしかない。」
「夢の中...?お前今、この世界は夢って言ったか...?」
何か考え込みながらグイアは男に尋ねた。
「ええ、言いましたよ。やけに興味があるようですね。」
男のその言葉を聞いたグイアはにやりと笑って
「夢...夢か...。なあ、お前、ここが誰の夢の中か知ってるか?」
彼女の周りにはうっすらと赤い光が漂い始めていた。
「グ、グイアさん...?」
ルマは突然変化したグイアを心配する。
「能力とか何とかってのは本当にあるのを思い出したんだ。コイツは私が追い払うから、ルマ、お前は下がっててくれ。」
「は、はい!」
言われた通りに物陰に隠れるルマ。
「まさか...あなたの夢の中だったとは...」
男は予想外の事に思わず笑ってしまう。
「そんなヘラヘラしてる場合じゃないだ...ろ!!」
そう言いながらグイアはすごい勢いで距離を詰めて殴りかかった。
拳はそのまま鈍い音を立てて、男の顔面に突き刺さった。
「夢を上書きだがなんだか知らんがここは私の大切な夢の中なんだ。お前みたいなやつに乗っ取られてたまるか。」
ふらついてる男の元へ歩み寄り、今度は男の腹にパンチを喰らわせた。
殴られた男は腹を押さえ、その場にかがみ、グイアを見上げた。
「ぐっ...。これはついてない...。」
「そんなこと言う余裕もないだろ?消されたくなかったらアタシの夢から出て行け!!悪夢の真似事など全く面白くも無いぞ!!」
グイアは男の胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「悪夢...?あぁ...そういえば私たちはあなた方からそう呼ばれているのでしたね。」
くすくすと笑いながら男はもう一度銃を手に取り、グイアに銃口を向けた。
「どうやらあなたを潰してからでないとこの夢を乗っ取るのは難しいようですね」
「な...!?お前...!」
銃を向けられたグイアは掴んでいた男を咄嗟に地面に叩きつけた。
「まさかお前...本当に悪夢なのか...?」
「ええ、悪夢です。トラウマのヒュード。」
男は悪夢であり、自らをヒュードと名乗った。
「それじゃあ尚更だ、私の夢から出ていけ。もし残ると言うのなら今度は容赦しないぞ!」
グイアはもう一度拳を振りかぶった。
「いくら殴ったって私がこの引き金を引いてしまえばあなたの夢はもう終わりです」
そう言って引き金を引いた。
拳銃から放たれたのは銃弾ではなく、どす黒い煙だった。
「グイアさん!危ない!」
その煙からただならぬ恐怖を感じたルマは咄嗟にグイアを守ろうと物陰から飛び出そうとする。
「ルマ!駄目だ!近寄るな!」
グイアはヒュードをさらに力強く抑えながらルマに忠告した。
「でも...!」
「心配するな!こいつの腕は抑えてある!おまけに狙う場所も見当違いの下手くそだ、アタシには当たらん!」
煙はグイアから大きく外れ、出入り口の扉へと一直線に向かった。
煙はそのまま勢いよく扉にぶつかり霧散した。
「ヒュード、悪あがきもそこまでだ。このままお前を消してやる。」
「消えるのはどっちでしょうか?」
「この状況で言えることか?」
攻撃を外したはずなのに不敵な笑みを浮かべるヒュード。
ヒュードの目線の先には霧散したはずの煙が壁の中から這い出てきていた。
物陰に隠れていたルマもそれを視認しており、張り裂けるような声で
「グイアさん!!!逃げて!!!!」
と叫んだその瞬間、壁の隙間という隙間から黒煙が勢いよく飛び出し、グイアをあっという間に覆い尽くした。
「なっ……!?油断した……ッ!!」
「そうです!これで良い!」
そう言ってヒュードは高笑いをする。
グイアを覆い尽くした黒煙は濃さをどんどんと増していき、彼女の体を締め付けていく。
黒煙の周りには赤い稲妻が走っている。
「さあ、上書きを始めましょうか」
ヒュードは手に持っている拳銃を真上に向け、再び引き金を引いた。
銃口から放たれた何かは風車小屋の天井で
黒い煙を放出しながら炸裂した。
グイアの周りにまとわりついていた黒煙は、赤い稲妻を走らせながら炸裂した黒煙へ一直線に進み、そのままの勢いを保ちながら風車小屋の天井を貫き空高く登っていった。
そうして黒煙は澄んだ青い空に我が物顔で居座った。
「グイアさん!!!!!」
ルマは黒煙から解放されたグイアのもとへ駆け寄る。彼女が駆け寄った時、すでにグイアの目は輝きを失っており、虚空を見つめていた。
「グイアさん!!!返事してよ!!!!」
声を荒げ、肩を震わせ、泣きながらひたすらにグイアをゆすった。
「ル……マ……?」
ルマの声が届いたのか、グイアはかろうじて意識を取り戻した。しかし目の輝きは失われたままだった。
「ルマ……おまえに…これを託す……おまえなら……今度こそ……」
そう言いながらルマに何かを渡した。
「グイアさん、これは……?」
ルマは手のひらに乗せられた赤い雫のような石を見つめながら聞いた。
「とにかくそれを持ってここから逃げるんだ……それは……………」
グイアがルマに説明しようとしたところで彼女は再び意識を失ってしまった。
「グイアさん!!グイアさん!!!そんな……」
再びゆすり起こそうとするが返事がない。
それを見ていたヒュードがルマのもとへ近寄り
「おや、赤髪の方は寝てしまいましたか、まあ後でたくさん働いてもらうので大丈夫でしょう。」
と、グイアを再び利用すると示唆する。
ルマはヒュードの発言に不快感を覚え
「あなた…グイアさんにあんなことしといて何考えて……」
ヒュードを蔑むように睨んだ。
ヒュードはまた高笑いをしながら
「ここを作り直すのです。ルマさんはそのままここにいても大丈夫ですよ。あなたの力で怪我はしないでしょう。あなたの力は必要不可欠だ。私と一緒にこのまま空を見上げていただきましょうか。」
そう言ってルマの手を取ろうとすると、ルマは
「いやだ!!!さわらないで!!!」
と嫌悪感をあらわにし、手を振りほどく。
「誰もあなたの力添えをする人なんていない!!!」
そうヒュードに言い放ち、全速力で風車小屋の外へ飛び出した。
夢の光 南雲 @Nagumogu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。夢の光の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます