第3話 風車の夢
「ここが、この街の風車小屋...!!」
ルマは風車小屋を見上げ、感激している。
「ああ、凄いだろう?中も入れるんだが、さっきも言った通り、管理人のじいさんがな...」
すまない、と呟くグイア。それに続けて
「...それでも、行ってみような!話せばわかるじいさんだし、可能性はゼロじゃない!」
そう言って、ルマの背中を叩く。
元気づけるつもりなのだが、グイアの力はかなり強いようで、ルマは叩かれるたびに痛い、痛いと声を漏らしていた。
「グイアさん…あの……痛いです」
グイアは、はっと気づいてルマを叩くのをやめた。
「ああ!すまん...!元気付けようとしたんだ!わざとじゃ無いんだ信じてくれ!」
と、謝るグイア。
「もう...そんなの言われなくてもわかりますよ...!励ますならせめて叩く以外でお願いします...」
自分の背中をさすりながらルマはそう言った。
ある程度痛みも引いたところでルマは再び口を開き、
「...とにかく!中の人に聞いてましょう!」
と少し怒ったような口調でグイアに伝えた。
そうこうして、2人はドアの前に立ち、ルマはドアをノックした。
「すみませーん!中を見学したいのですが、開けていただけませんかー?」
ルマは中にいるであろう人物に聞いた。
しかし、返事は無い。
「うーん...留守ですかね...?」
「あのじいさん、ここから出ることはあんまりないからもしかしたらアタシらが諦めて帰ると考えて居留守使ってるかもな」
「もう一度やってみます」
そう言って、ルマは再びドアをノックする。
「すみませーん!いませんかー?」
やはり、返事は無い。
「駄目みたいですね...」
「やっぱり駄目か...ごめんな、変な期待させちゃって...」
もしかしたら、と期待を持たせたことに謝るグイアだったが、
「いえ!そんなことはないですよ!こうしてついて来てくれただけでとても感謝していますし、風車はもう見れたので満足です...!」
と、グイアの行動に対して感謝し、見るものは見れたので悔いはないとルマは言う。
ルマの言葉にグイアは少しだけ安心したようだった。
「そうか...ならいいんだが...なんだかなぁ...。」
どうやらグイアはまだ諦めていない様子である。そんなグイアにルマは
「グイアさん...どうしてそこまで...」
と問いかける。
「それなりに遠いところから来てくれたんだ、やっぱりやりたい事はやらせてあげたいからな」
グイアはルマを想って行動していたらしい。
「どこかに中に入れる抜け穴でもないもんか...」
グイアは小屋の周りに入れそうなところがないか探しだした。
これを見てルマは罪悪感を覚え、
「ちょっ...グイアさん!それは怒られると思います...やっぱり普通に入り口から...」
と、勝手に入るのは良くないと忠告する。
「ん...?つまり入り口を突き破れって...?なるほどその手があったか!」
そう言うと、グイアは姿勢を低くし、入り口の扉を無理やりこじ開けようとし始めた
それを見たルマは目を丸くして
「違います違います!そう言う意味じゃないです!開けてくれるまで待とうって意味で...!」
と詳しく説明するが、
「開けてくれるまで待ってたら日が暮れちまうぞ?中見てすぐ帰ればバレないって!」
グイアはそう答えて、扉に力を入れ続ける。
かなり強い勢いでしているようだが、頑丈なその扉をはまったく開く気配がない。
「もし壊したら絶対怒られますって!やっぱり諦めましょうよ!」
どうしても止めて欲しいルマだったが、グイアは扉に力を入れ続ける。
そうしていると後ろから突然、
「あの...何してるんですか...?」
と、若い男に話しかけられた。
ルマは男に背を向けたまま、
(あの...グイアさん...どう言い訳するんですか、これ...)
と、小声でグイアに相談する。
(う、うーん...こりゃまずいなぁ...)
(とにかく謝ったほうがいいですよ)
何をしているのか、と言う問いかけに2人が反応しないので男は再び、
「あの...小屋の扉壊そうとしてましたよね...?」
と、先ほどより口調を強めて問いかける。
2人はほぼ同時に男のほうを向き、真っ先にグイアは言い訳を始めた。
「いやぁ...これには深ぁいわけがありまし...」
「ごめんなさい!私が中を見たいと言ったのが悪いんです!」
グイアの言い訳に被せるように突然ルマが謝った。
「ルマ...⁉︎お前...これはアタシが確実にわる...」
「本当にごめんなさい!ドアの修理代は私が払いますから...!」
再びルマはグイアのセリフに被せ、深く頭を下げて謝った。
それを見たグイアも、男に向かって頭を下げる。
2人に特に悪意がなかったことがわかったのか、男は頬を緩め、
「いやいや、そんな...お気になさらず...顔を上げてください...。」
と困った様子で2人に頼む。それに続けるように
「それで...あなた達は特になにかを盗もうとしてたわけではないんですね...?」
と、2人に質問する。
ルマ達は顔をを上げ、グイアがその質問に対して、
「ああ、何かを盗もうとは全く考えていない。ただ、中を見たかっただけだったんだ。本当に申し訳ない...」
と答えた。
「そうでしたか...扉をこじ開けようとしてたのでかなり驚きましたが、目立った傷もないようですし、弁償代はいりませんよ。 それより、あなた達はこの中に入りたいんですよね...?」
「え?あ、あぁ...!はい、この風車小屋に入りたいんです!」
ルマは男が全く怒りもせずすんなりと許してくれたことに拍子抜けしてしまい、気の抜けた返事をした。
「そんな事なら早く言ってくれれば良かったのに。今鍵を開けますよ。」
男は笑顔でそう言って、ズボンのポケットから鍵を取り出しながらドアの前へと歩いて行った。
その様子を呆然と眺めているルマの横で、1人唸りながらグイアは何かを考えていた。
それに気づいたルマは、
「グイアさんどうかしましたか?もしかして...扉開けようとした時に肩を痛めたりとかしました...?」
とグイアの様子を心配する。
しかしグイアは首を横に振り、小声でルマに話しかけた。
「なぁ、ルマ。アタシさっきここの管理人はじいさんだって言ってたの覚えてるか?」
「え?あぁ、覚えてますよ」
「もしかしてアタシの勘違いだったのかもしれん...こんな若い奴が管理人だとは思ってなかった...じいさんもしかして体調とか崩してるんじゃ……」
「もしかしたら親戚の方とか、息子さんかもしれませんよ、ひと段落ついたら聞いてみるのはどうでしょうか?」
「あぁ、それもそうだな」
小声で話していたため、男には聞こえていなかったようだった。
2人がそんな話をしている間に、男は鍵を開け終えていた。
「鍵を開けました。どうぞ中へ。」
男はそう言って扉を開き2人は中へと誘導された。
2人は言われるがままに中へ入る。
中に入ると、真ん中に製粉用の大きな石臼が小麦をすり潰していた。石と石が擦れる音が小屋中に響いている。
「これが風車の中...」
「良かったな、中が見れて」
「はい!」
風車小屋の中が見れたことで、ルマはとても満足気な笑顔を見せた。どうしてそこまでして小屋の中を見たかったのかはグイアには理解することはできなかったが、ルマの満面の笑みにそんな疑問は吹き飛ばされていた。
「どうでしたか...?風車の中なんてどこも同じような気がするのですが、あなた方はどうしてそこまで...?」
最後に男が中へ入り、ドアを閉めながら聞いた。
それに対してルマは何かを思い出し、
「...あ!そうだ!管理人さん、この小屋の中に地下扉とかありますか?」
と、なぜか地下扉の位置を聞き出そうとする。
「え?地下扉?小麦粉を貯蔵する地下倉庫の扉ならありますが...なぜ地下扉?」
男は不思議に思い、ルマに聞いた。
「すみません...私にもわからないんです...。でも、どうしても見たいんです!」
と、ルマは言う。
「ちょっと変わったやつなんだが、どうにか見せてもらえないかな...?」
「ええ、いいですよ。すぐ案内しますね。」
男はそう言って、二人をさらに奥にある地下倉庫の前まで案内した。
頑丈そうな扉を男は開けようとするが、全く開きそうな気配がない。
その後、何度か開けようと試みたが開くことはなく、男は諦めて扉から手を離した。
「あれ...開かないみたいですね...?」
ルマがグイアの後ろから扉を覗き込む。
「鍵でもかかってるんじゃないか?」
そう言って扉に近づき、鍵穴を探す。
その間男はうつむいて何かを考えていた。
「鍵穴みたいなもん、無いみたいだぞ?こりゃもうこじ開けるしかないか...?」
鍵穴が見つからなかったようで、力づくで解決しようとするグイア。
「グイアさん!お願いですから...もっと別の方法考えて...」
そんな彼女を行動させないように止めようとするルマ。
その隣で考え込んでいた男は何かをハッと思い出して話し始めた。
「そうだ!昨日何かの拍子に扉が歪んでしまって開かなくなってたの忘れてました...!」
「扉が歪んだって?やっぱり力づくしかないじゃないか、私にやらせてみろ」
そう言ってグイアは扉を開けようとするが、やはりピクリともしない。
「本当だ、開かないなこれ...」
グイアと男が困っていると、ルマが後ろから
「あのー、私もやってみていいですか?」
と、面白がっているのか、名乗り出てきた。
「え?ええ、どうぞ。」
とても力があるようには見えないルマが名乗り出てきたことに驚く男。
「いやいや、流石にお前は無理だろ?」
そう言ってルマを小馬鹿にするグイア。
男もやはり困り顔でルマを見ていた。
ルマは扉に手をかけ「えい」と気の抜けた声を出しながら扉を開けようとした。
驚いたことに、グイア達が力づくで開けようとしても開かなかった扉が何事も無かったかのように開いた。
「あ、開いた。」
ルマが何食わぬ顔で扉を開けたのを見た男とグイアは2人揃って開いた口が塞がらないようだ。
「すごいなルマ!どうやったんだ...?」
「...普通に手をかけたらこう...スッと...」
ルマは手振りをつけてグイアに説明する。
「ルマさん、どうもありがとうございます。実を言うと私も中に用があったのです」
「いやぁ、お役に立てて何よりです...」
そう言って男の方に顔を向けると、拳銃の銃口がルマに向けられていた。
「え」
ルマは頭が真っ白になる。
「ええ、本当に。大活躍でしたよ。」
男はそう言って引き金を引いた。
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