第2話 夢の身体
夢の世界への転送に成功をしたようで、銀の光は銀髪の青い瞳の少女へと変化していた。
バイスタンダーが説明をしたように、夢の光の時と、現実世界の記憶はこの世界では持ち込むことが出来ない。
つまり、今ここにいる少女はこの世界だけの存在であるため、この世界の記憶しか持っていないことになる。ただ、そんなことを彼女は知る由もない。
転送には成功したが、少し誤差があったらしく、少女は地面に倒れ、気を失っていた。
しばらく経って、その姿を見て心配に思ったのか一人の女性が少女のもとに急いで駆け寄って来た。
「おーい!お前、大丈夫かー?なんでそんな所に倒れてんだー?」
そう言いながら、女性は少女の顔を叩いたり、体を揺すったりして起こそうとする。
「う、うぅ...。」
うめき声をあげながら、少女は目を開いた。
「あ!目を覚ました!良かった良かった!死んでんじゃねえかと思ったよ!」
女は大笑いしながら、少女から離れる。
少女はその女が視界に入るなり、
「誰...?」
と、声を漏らした。
それを聞いた女は申し訳なさそうにして
「ああ、ごめん!こんなでかい声で話しちゃって...。道端に女の子が倒れてたんだ、そりゃ不安にもなるだろ?それで起こしてやろうと必死だったんだ、ごめんな?」
女は身振り手振りを大げさにしながら必死に謝った。
あたふたする女を見て、少女はなんだかおかしくなって笑ってしまった。
「そんなに謝らなくても大丈夫ですよ。心配して駆け寄ってくれたんですよね...?ありがとうございます。助かりました。」
笑顔でお礼を言う。
そして、少女は体を起こしながらさらに続ける。
「私の名前はルマです。ルマ・ウーネ。
あなたの名前を知りたいのです。どうか教えてくれませんか?」
少女の名前はルマと言い、少女は女の燃えるような赤い瞳をじっと見つめていた。
「あぁ、そういうことだったんだね、わからなくて悪かったよ。
アタシの名前はグイア・スエノだ。
グイアで良いよ。アンタはルマっていうんだね。ルマ、立てるか?」
と、1人笑いながら立ち上がった。
ルマは立ち上がったグイアを見上げ、彼女の背がとても高いことに気づく。
190cmぐらい、女性にしてはかなり大柄だ。
ルマがそんなことを考えていると、グイアは彼女に対して白い歯を見せて笑いながら手を差し伸べていた。
それにつられてルマも笑い、差し伸べられた手を握った。
グイアは手を強く握り返して持ち上げる。
「痛っ……」
その力のあまりの強さに、ルマは思わず顔をしかめた。グイアはそれに気づいていない。
「荷物も何も持ってないようだし、ひょっとしてこの辺に住んでるやつか?」
強く握られた痛みを紛らわすように手を揺らしながら、周りを見渡すルマ。
ルマはどこかの丘で倒れていたようだ。
「いえ、私はあっちの方の……」
自分が来た場所を伝えようとしてあたりを見回すルマ。
彼女が倒れていた丘の頂上と思わしきところには大きな風車小屋があり、すぐ側にはある程度舗装された道がある。その道を下へと辿っていくと、赤やオレンジ色の屋根の家が特徴的な街があり、そこからさらに遠くを見ると透き通った宝石のような海が水平線まで広がっていた。
「綺麗...」
と、その美しい景色にルマは思わず感嘆の声を漏らした。
しばらく口をぽかんと開け、景色に見惚れている彼女を見て、グイアは声をかける。
「ルマ...?どうした?」
声をかけられてはっとしてルマは我に帰る。
「あぁ!すみません!ここから見える景色があまりにも綺麗だったので...」
「ここの景色を見るのは初めて?」
「はい!こんな景色初めて見ました!」
嬉々とした表情でルマは答えた。
「そんな嬉しそうにしてくれるのはこっちも嬉しいよ。いつ見ても綺麗だから、アタシもお気に入りの場所なんだ。多分、この街のみんなも同じさ。観光客もよくここまで見にくる。」
「そうなんですか!あぁ、来て良かった...」
「ルマはこれを見るためにここに来たのか?」
「いえ...これを見に来たわけではなく、私はあっちの風車小屋を見に来てて...」
そう言って、頂上の風車小屋を指差すルマ。
グイアは指差された方向を見る。
「あそこか。なかなか良いところに目をつけたね。あそこからみる景色も絶景だ。最近はちょっと行きづらいけど...。」
グイアはさらに続けた。
「そういえばずっと聞きたかったんだが、ルマはどこから来たんだ?」
「フルールっていう街から来ました。」
「フルール?聞いたことない名前だけど、アタシが知らないだけか。荷物とか何も持ってないみたいだけど、どうしたんだ?」
「来る途中でカバンが破れちゃったみたいで...。捨ててしまいました。」
「水分や食べ物とかは?」
「捨ててからは一度も...。」
「そりゃ大変だ!ちょっと待ってろ!」
そう言って腰につけていたカバンから水筒を取り出し、蓋を開け、その蓋をコップがわりに飲み物を注いでルマに差し出した。
「食べ物は持ってなかったが、飲み物ならあった、とりあえず飲め、カモミールティーだ。水じゃなくてすまん...」
「いいんですか?ありがとうございます、いただきます。」
そう言って飲み物を受け取ると、まず一口、口に含んだ。
「甘い...美味しい...!」
一口飲んでからはよほど喉が渇いていたのか、一気に飲み干してしまった。
「蜂蜜を入れているんだ。えっと...そんなに美味かったのか?それとも喉が渇いていたのか...?」
「両方です!本当に美味しいです!喉も
ものすごい渇いていたし、助かりました!」
ルマはありがとうございます、と頭を下げ水筒の蓋をグイアに返した。
「ルマ、さっき風車小屋に行きたいって言ってたよな?」
と確認すると、ルマは笑顔で
「はい!私の住む街にはあそこまで大きい風車小屋は無いので一目見ておきたくて...!それに中も見てみたいんです!」
と答える。グイアとの話が終わればすぐにでもそこへ駆けていきそうな感じだ。
「さっき言おうか迷ったんだけど、あそこの風車小屋、頑固な爺さんがいてさ、何があったか知らんけど観光客を入れようとしないんだよ...。外からは見れるけど、中を見るのは難しいかも...。」
申し訳なさそうに話すグイア。
それを聞いて少し落ち込むルマ。
「そうなんですか...。せっかくここまできたのに...」
どうしたものかと再び唸るグイア。
「入れるかどうかわからんが、わたしもついっていってやろうか?地元の奴が1人ぐらいいればもしかしたら入れてくれるかもしれん。昔はそこのじいさんも優しい人だったんだ、きっと話せばわかってくれるさ。」
それを聞いて、ルマは目を輝かせながら食い気味で
「本当ですか!?ありがとうございます!」
とお礼を言った。
グイアは困り顔で
「そんな目するなって...。もしかしたら、だからな?確実ではないぞ?」
と念を押す。
そんなグイアの忠告をルマは聞く気は全くないようで、意気揚々としてただ風車小屋を見つめている。
グイアはルマの頭に手を軽く乗せて
「まあ、行くだけ行ってみような。」
と言って、側にある風車小屋へと先に歩き出した。それに続いてルマも後ろについて歩き始めた。ルマは興奮が抑えきれず頬が緩み、笑みがこぼれていた。
歩き始めて数分、彼女たちは風車小屋の前へとたどり着いた。
ルマが先ほど指差した時は小さく見えた風車小屋は、近くで見るととても大きく、まるでこの街のシンボルだと言わんばかりに堂々とそびえ立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます