夢の光

南雲

第1話

淡く白く輝くこの不思議な空間に、色とりどりに光り輝く、光の玉が浮いていた。

その光の中にたった一つ、たった一つだけ銀色の光が浮いていた。他の光が皆同じところへ向かって進んで行くのに対して、その光だけは周りに取り残され、あっという間にひとりぼっちになってしまった。


困ったように同じところを行ったり来たりしているその光はどこか助けを求めているようで、あたりを見回すように動いていた。

そんな時、光は何かを見つけ、そこへと向かっていく。


光が向かった先は受付のようなところで、そこでは黒服の男が座っていた。


光は男に迷ったことを伝えるため、『すみません』と話しかけようとした。しかし、男の耳には届いていないようだった。

光に気づかない男は突然、


「やはり夢は素晴らしい。色とりどりの光がまるで宝石のようだ。」


と、呟いた。


光はもっと大きな声で再び話しかけた。


"あの、すみません!ここはどこですか?"


先ほどのように声を出そうとしたはずなのに声が出なかった。

だが何故か今度はその男には光の声が聞こえたようで、光の方に体を向ける。


「...おっと、失礼しました。上の光に夢中になっておりまして...。

ようこそ、夢の港へ。

今日は何をされにきましたか?」


男は笑顔で語りかけた。


"すみません...ここがどこか知りたくて..."


光は申し訳なさそうに答える。

それに対して男は、


「おや、もしかしてこちらに来るのは初めてでしょうか?」


と、質問をした。


"初めてだと思います。"


「初めての方でしたか。そうであれば自己紹介とこの場所についての説明をしなくてはいけないのですこしお時間をいただきますね。すみません、規則ですので。」


と言って、男は自己紹介を始めた。


「どうも、始めまして。

自己紹介をすると言っても私には名乗るほどの名前はございません。

もし名乗るとするのならば「夢の傍観者」とでも言ったところですね。」


「夢の傍観者」

その慣れない響きにキョトンとする銀の光。


"夢の傍観者さん、では呼びづらいのであなたの本当の名前を教えてくれませんか?"


とその光はそう提案する。


「私達、いや私にとって、名前は命より守らねばならないものなのです。どうしてもこの呼び方が気にくわないのならば、そうですね...『バイスタンダー』はどうでしょうか?」


"バイスタンダーさんですね、わかりました。"


彼の提案を飲んだ銀の光。

笑みを浮かべたあと彼は再び口を開く。


「納得してくれたようですし、本題に入りましょうか。

あなたはこれから夢を見ますが、残念ながら、今ここにいる記憶と現実の記憶は夢に持ち込むことはできません。」


"つまり記憶喪失ってことですか?"


「それは夢の中の世界観にもよりますが、記憶的にはずっとそこに居たかのような記憶に書き換えられます。」



簡単な説明を終え、彼はまた笑った。


「何だか早く見せろ、って感じですね

でも、すこし図々しくないですか?

落ち着いてください、夢は逃げませんから。

それではこちらへどうぞ。

こちらの瓶の中へお入りください。」


そう言って彼はどこから持ってきたのか、薄い青色の瓶を差し出した。

ジャム瓶と大体同じぐらいだろうか、ちょうど光が入りそうな大きさである。


"本当に大丈夫なのですか?閉じ込められたりとかは..."


銀の光は出れなくなることを懸念する。


「まさか、先程から冗談が面白いですね。閉じ込められたりなんてある訳ないですよ。」


そう言ってまた彼は笑った。


「かなり不安みたいなので、今のうちに聞きたいことは聞いといてください。教えられることは教えますよ。」


"いえ、大丈夫です。大体のことはわかりました、ありがとうございます。"


「それではこちらの瓶へお入りください。」


言われるがままに銀の光は瓶の中へ入っていく。

自分から入るというより、吸い込まれていった。


「それでは、いってらっしゃいませ。良い夢を。」


そして彼は瓶の蓋を閉めて、瓶の底にあるスイッチを押した。すると、たちまち瓶は光りだし、夢の光を圧倒する輝きを放ちだした。


徐々に銀の光の視界は白くなっていき、ついには何も見えなくなった。



その30分ほどあと、輝きを放っていた瓶は少しずつ光を弱め、ついには光るのを止めた。

もう瓶の中には銀の光はない。


「よし、転送完了です。

やっぱりこの発光をどうにかして欲しいですね。」


そう言って彼はため息をつき、手にしていた瓶をカウンターの下にある棚へしまった。

そのあと、ポケットに手を入れ、携帯のようなものを取り出してどこかへ電話をかけた。

電話の相手はすぐに応答したようで、バイスタンダーは話し始めた。


「もしもし、あぁ...どうも。

そちらはどうですか、順調にやってますか?

....えぇ、そうですか。それは良かった。

え...?銀の光?ついさっき来ましたよ。それが何か?

......ほう、それは興味深いですね。

それでは私はそろそろ戻りますので...

はい、また今度。」


誰かとの電話を終え、仕事に戻る。

そして、また別の光が受付へとやってきた。


「ようこそ、夢の港へ。

今日は何をされに来たのですか?」


彼は笑顔で語りかけた。

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