第五話
もちろん最初は冗談だと思った。だけどそれが本気だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
ニグも僕と同じことを考えていたんだ。メラが居なくなって、次は自分の番だって。
そう考えるのは自然なことだと思う。メラはニグと同じネグロイドだったし(そもそも兄弟だ!)、メラが居なくなれば一番長生きしているのはニグだ。僕が彼でも「次は僕の番」って思うだろう。
そして多分、何も言わないけどヴェルも同じことを考えてる。ヴェルは僕と同い年なうえに、ネグロイドのように強くない。普通のモンゴロイドならまだしもアルビノだ。本来ならメラの方がヴェルより長生きするはずだって言われていたんだから。
だからニグは自分の番が来る前に、外の世界が見たいんだと言った。そして僕がサヤに会いたがってることを知って、一緒にと誘ってくれたんだ。
だけど僕は外に出る気はない。僕はきっと簡単に死んでしまう。僕は極端に紫外線に弱いんだ。この建物の完璧なUVカット素材の窓と天井に守られているから生きていられるだけで、普通の太陽光の下に出たら一発アウトだ。
Sol……太陽という名を貰ったのに、なんて皮肉なんだろう。やっぱり僕はソイで十分だ。
それにやっぱり僕にはヴェルを一人残していくことは出来ない。
僕がニグと一緒に外に出て死んでしまったら、ヴェルはきっと寂しい思いをする。メラが居なくなっただけでも、とても落ち込んでいたのだから。
かと言ってヴェルが外に出るのもほぼ自殺行為だ。まあ、そこら辺は僕と同じなのだけれど。
ニグは僕とは違って許可されていることがたくさんあった。彼はネグロイドだったから、いや、むしろ僕とヴェルがアルビノだからという理由で許可されないことが多かったと言うべきなのかもしれない。
僕らは利用施設が限られていて、そこから出ることは許されていなかった。『危険』という理由からだった。
僕たちスーパー個体は、スーパー個体専用の居住棟に住んでいた。ここは二階で、僕、ヴェル、ケニャン、ニグ、メラの五人が在籍していた。昨日まではね。
中庭を挟んだ対面は乳幼児の居住棟だ。そこには赤ちゃんと主に七歳児くらいまでが住めるらしい。なにしろ会った事が無いのだから何とも言えないけど、七歳になるとスーパー個体の居住棟に引っ越してくるからそうなんだろう。
スーパー個体居住棟と乳幼児居住棟を繋ぐのは研究棟と病棟だ。中庭に向かって左側が研究棟で、博士や他の研究者はみんなここにいる。反対側、右の方は病棟で、医師や看護師が在籍し、日常的な治療に当たっている。
メラとニグとケニャンは二階ならどこへでも出入りは自由だった。もちろん研究棟に行くと仕事の邪魔になることはわかっていたから、用もないのに行くようなことは無かったけど、それでも制限されているわけではなかった。
だから三人で乳幼児居住棟へ行っては、小さな子供たちと一緒に遊んだり歌ったり踊ったりしていた。それを僕とヴェルは中庭を挟んだこちらの窓から見ていることがよくあった。
僕とヴェルでも制限が異なっている。
ヴェルは太陽光を浴びていい時間が決まっている。あまり長時間浴びると体に負担がかかる。かと言って浴びずにいると元気がなくなって来る。微調整が欠かせない。
だけど彼女は研究棟や病棟に行ってもいい。乳幼児居住棟は制限されていた。負担が大きいらしい。
それにひきかえ僕は一切ダメだ。太陽光には極力当たらない方がいい。そしてこのスーパー個体居住区から一歩も出てはいけない。一歩もだ。病棟にすら立ち入ることができない。調子の悪い時はお医者さんがこっちに出向いてくれるんだ。研究棟なんか以ての外だそうだ。
とにかく僕はここから出られない。隣の棟にすら行けない。それをすることは『死』を意味するということも重々承知してる。
ネグロイドたちは自分たちがここから出られない理由がわからないと言っていた。この施設内ならどこへ行っても問題ないのなら、外へ出ても同じではないか。サヤと自分たちは何が違うのかがさっぱりわからないと言っていた。それは僕にもわからない。
だからこそ、ニグはそれを確かめたくなったんだろう。彼は僕が一緒に行かなくても、一人で外の世界を見て来ると言った。僕には止めることは出来なかった。もちろん一緒に行くことも。
だけど、ニグがそれを実行に移す前に、事件は別の形で起きたんだ。
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