第二章 ケニャン
第六話
最近ケニャンの様子が少しおかしいことにみんな気付いてはいたんだけど、それは博士に言わせると「第二次性徴の発現に伴う変化」というものなんだって。
この時期はホルモンバランスが大きく崩れて今までと体の感じが変わるから、精神的にも不安定になるって言ってた。
確かにメラとニグも十歳くらいの時にホルモンバランスが崩れたことがあった。破壊衝動が抑えられないと言ってサンドバッグを設置して貰ってた。
ケニャンにもその時期が来たみたいで、サンドバッグのあるトレーニングルームに入り浸るようになってたんだけど……ケニャンの場合はメラやニグと違って、とにかく力を持て余してる感じ。
発作的に破壊衝動が訪れるから、トレーニングルームまで間に合わなくてドアを壊してしまうこともあった。サンドバッグだってあっという間にボロボロになってしまって、中身がはみ出てくる前に新しいものを買わなくちゃならないくらいだった。
衝動が起こるとじっとしていられなくてその辺を壊してしまうから、トレーニングルームまでをピョンピョン跳ねながら行くんだけどジャンプ力が凄くて何度も天井に頭をぶつけてた。そのせいでシーリングにたくさんひびが入ってしまった。
博士は「ケニャンはマサイの遺伝子だからね、運動神経は抜群なんだ」と言って、その辺を壊してしまうのを咎めたりしなかった。でも正気の時ならいいけど、発作を起こしてる時は運動神経がいいのが災いして誰にも手が付けられない。
吊るしている鎖からサンドバッグを引きちぎった時、勢いで倒れた支柱の下敷きになって博士が大怪我をしたんだ。ケニャンはワンワン泣きながら博士に謝ってたけど、博士は「気にしなくていいんだよ」って笑ってた。
結局博士はサヤがお見舞いに行きやすいようにって、自宅近くの病院に入院してしまった。この研究所の病棟に居てくれたらケニャンもお見舞いに行けただろうけど、離れてしまったから彼はとても悲しんで毎日泣いていた。
何より「僕がお見舞いに行ったら、また博士に怪我をさせてしまうかもしれない」と言って落ち込んだ。気持ちはわからなくもない。ケニャンは本当に博士に会いたくて、何度でも謝りたいんだ。
だけど博士は最初から怒ってなんかいない。だから僕たちで必死に宥めるしかなかった。
この時、僕はまだ知らなかったんだけど、ケニャンの発作で怪我をしたのは博士だけじゃなかったらしいんだ。博士のは一番大きな怪我だったけど、それまでにも病棟のスタッフや研究員の人も何人か打撲や捻挫をしていたらしい。
それでケニャンは自分を一人だけの部屋に閉じ込めて欲しいって博士に頼んでいたみたい。その途中で事故が起こってしまったんだって。
だけど。一人ぼっちなんて寂しいに決まってる。暴れそうになった時だけ一人になればいいんだ。僕がそうであるように。
ただでさえメラが居なくなって寂しい思いをしているのに、みんながバラバラに生活するなんて考えられないよ。
そう言ったらエンドウさんが変なことを言ったんだ。
「このまま彼と一緒にいたら、ヴェルとソイは多分死んでしまうよ。ケニャンに殺されてしまうかもしれない」って。
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