第四話

 メラが死んだ。

 ここでは仲間が死ぬことは割と日常だ。一ヵ月に一人は死んでいるんじゃないかな。赤ちゃんのうちに死んでしまう子が多いけど、もちろん二歳の子もいる。少し前まで五歳の子がいたけど、その子も結局死んじゃった。

 そう考えるとメラはかなり長生きだったと思う。十五歳、僕らの中では一番年上だった。

 メラが死んだことは、僕たちにとってそんなに不思議なことじゃない。僕らは『長く生きられない子』たちで、だからこそここにいるんだし。

 だけど、やっぱりメラは一緒にいる時間が長かったせいか、いなくなってしまったことが残念だった。メラの歌も踊りもとても好きだったし、もっと一緒にいろいろなことを経験したかった。

 メラはネグロイドっていう人種らしい。肌の色が黒い人の事。ニグもケニャンもネグロイドだ。

 他に、博士のようなモンゴロイドと、もっと色白のコーカソイドもいる。僕とヴェルは博士のDNAを持っているから元々はモンゴロイドだけど、二人ともアルビノに生まれついてしまった。

 アルビノっていうのはメラニン色素を作る遺伝子情報が欠損して、色素欠乏になった個体の事。だから僕はコーカソイドよりも色白で、髪もプラチナブロンド。瞳だって僕はブルーグレーでヴェルはグリーンだ。

 一番年上のメラが居なくなってしまって、今の時点で最年長なのはニグの十三歳。サヤと同い年だ。僕とヴェルは十二歳、同じ日に生まれたから二番目が二人。四番目は十歳のケニャン。その次はずっと離れて二歳のコーカソイドの子がいる。でもこの子はスーパー個体じゃない。七年以上生きてやっとスーパー個体と呼ばれるんだ。

 四番目と五番目の間がなぜ八歳も間が空いてるかって。もちろんたくさんいたんだけど、みんな死んでしまったから。逆に、ニグとケニャンとヴェルと僕が普通じゃないんだ。

 ネグロイドは一番強い。皮膚が黒いとメラニン色素がたくさんあって、体に有害な光をブロックしてくれるんだって。だからメラとニグとケニャンは長生きするだろうって言われてた。

 僕とヴェルのようなアルビノは割と簡単に死んでしまう。それがどうだ、十二歳! とんでもなく長生きしてる。

 僕らがスーパー個体と呼ばれているのは、そういう理由からなんだ。

 だけどメラがいなくなって、スーパー個体は四人になってしまった。僕らもいつ死んでしまうかわからない。

 その前にサヤに会いたい。

 僕はサヤが大好きだった。サヤが博士に連れられて来る日が待ち遠しかった。彼女がお家に帰る時、いつも寂しくて「次はいつ来るの?」って聞いた。そんなこと、彼女が知っている筈もないってわかっていたのに。

 サヤとの話は面白くて、全然飽きることが無かった。

 いつだったか、僕たちの名前の由来で盛り上がったことがあった。

 メラは『黒い』ことを表すギリシャ語なんだって言ってた。ニグも同じでスペイン語。

 彼らはコンゴ? ザイール? よくわからないけど、ナントカ族の人が親だって言ってた。

 ケニャンはケニアから。マサイ族の子だから運動神経は抜群なんだ。僕より二つ年下なのに、全然体格が違う。ケニャンは僕と違って背も高いし手足も長い。メラもそうだったけど、ネグロイドはスマートな割に逞しい。

 ヴェルは『緑』を表すイタリア語のヴェルデから。綺麗なエメラルドのような瞳をしているから、そう名付けられたんだって。

 僕はもともとソルだった。『Sol』。ラテン語で太陽を意味する。だけど、僕が生まれた時に『Sol』を『Soi』と読み間違えたスタッフが『ソイ』って呼んで、そのままみんなに定着してしまったらしい。

 博士が大豆生田博士なんだ、名前に大豆って入ってるから「もう、そのままソイでいいね」って。大豆はsoyなんだけどね。

 博士はそういうジョークが好きな人で、サヤも豆のさやからとってる。

 サヤと僕は豆繋がり。そんな些細なことさえ嬉しく感じる。一体どれだけサヤのことが好きなんだか、自分でも呆れてしまう。

 僕とヴェルは姉弟だし、博士は文字通り『お父さん』だ。それなのに、博士の遺伝子を全く持たないサヤが博士の娘として一緒に住んでいるのは、なんだか少し不思議な気がする。そもそもサヤはどこから見てもコーカソイドで、モンゴロイドの博士とは似ても似つかないのにね。

 だけどこれはサヤには内緒なんだって。サヤは博士の本当の子供だって信じてるから。サヤが大人になってこのことを受け入れられる歳になったら、博士から話すって言ってた。だからそれまでは僕たちも知らんぷり。

 だけどあんまり待たされたら僕たち死んじゃうよ。あのメラでさえ死んでしまった。アルビノの僕たちは明日、いや、今日死ぬかもしれない。メラも午前中は陽気に歌って踊ってたんだ。急に死んじゃった。僕だって一時間後には死んでるかもしれない。

 昨日もまた一人、今日もまた一人、僕たちは慣れっこになっちゃってる。だけど、死んでしまった人にとってはたった一度しかない人生が終わるんだ。

 サヤから見たら「昨日メラが死んだ、今日はソイが死んだ」っていうだけかもしれないけど、僕にとっては全部が終わってしまうことを意味するんだ。

 だから。

 だから一日も早くサヤに会いたい。サヤの顔が見たい。

 毎日毎日そう思っていたけど、メラが居なくなって僕は焦ってる。次は僕の番かもしれない、って。

 僕はそれを心の中で思うに留めておけば良かったのかもしれない。いや、きっとそうだ。言ってはいけなかったんだ。

 うっかりそれを声に出してしまったのが全ての始まりだった。

 ニグが僕をじっと見つめてこう言ったんだ。

「外へ、出てみないか」

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