第22話 十一
「やった!これで甲子園だな!」
俺たちはレギュラーで試合に出ていた部員に加え、ベンチにいた部員もグラウンドに出てきて喜びを分かち合う。
「お前ら、よく頑張った!」
そして監督の先生も俺たちにそう声をかける。
そして監督は涙を流す―男泣きというのは、こういうことを言うのだろう。
しかし、俺にはその時、気になることが―。
そう、それは由香のことだ。
由香はなぜあの時、俺を応援してくれたのだろう?
振ったはずの俺を?
また、俺はこうも思う。由香のお兄さんは、甲子園出場という夢を逃した最後のバッターとなってしまった。もし自分が逆の立場だったら―。「ショックを受ける」では済まされないようなダメージを、心に受けるのではないか?
そしてそれはお兄さんだけではない。相手チームの全員が、甲子園出場という夢を逃したのだ。
『俺はこの決勝で敗れた相手、いやそれ以前に戦ってきた相手の分まで、甲子園で頑張らないといけないな―。』
これは、以前のはっきり言ってナルシストな俺には考えられない気持ちだ。しかしそれは嘘偽りではなく、俺の本心―。俺は自分の腹の底から出てきた新たな感情に、自分自身で驚いていた。
そして先輩キャッチャーが俺に声をかける。
「類、お前気になることがあるんだろ?」
「―はい。」
「なら行って来い、類!」
「はい!ありがとうございます!」
そう言って俺は喜ぶチームメイトから離れ、駆け出した。
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