第23話 十二
俺は観客席、相手側の方へと走る。その距離は今まで練習で走ってきたダッシュの距離よりも、もっともっと遠くに感じる。
しかし俺は走らないといけない。俺の意志は少なくとも今まで自惚れていた時のダッシュに比べてもっと強くなっている。
そして俺は、ある人を見つける。それは大勢の人が残念に思いながら去っていった後の観客席。そこにたたずんでいる、マウンドの方を見ているのは―。
横山由香だ。
「由香!」
俺がその名前を呼んだのは、いったいいつぶりだろうか?時間的にはそんなに経っていないかもしれないが、その短い時間に反比例するかのように心の距離は遠くなっている、俺はそんな風にも感じていた。
「―類、久しぶりだね。」
由香はさっきまで俺がいたマウンドから、今俺がいる反対側へと向きを変える。
そして俺は、疑問を口にする。
「由香、どうして俺を―応援してくれたんだ?」
「だって類―、かっこいいんだもん。」
「―えっ?」
「私ね、お兄ちゃんが類と戦わないといけないって知ってから、ずっとお兄ちゃんに悪い悪いって思ってたんだ。
何か家族がお兄ちゃんの甲子園出場に向けて1つになっているのに、私だけ逆方向を向いているようで―。
それで、私類のことが好きだったけど、別れようって決めて、嘘ついちゃいました!
でもやっぱり私、類のことが好きで、マウンドに立つ類の姿見てたら応援したくなっちゃって―、この観客席、敵側から類のこと応援しちゃった!」
そう言い由香は笑顔を見せる。
「あの時―、めちゃくちゃ恥ずかしかったよ!
それで、類の気持ちが変わってないなら―、
私ともう1度付き合ってください!」
そう、俺の気持ちは変わっていない。それどころかもっと強くなっている。
「もちろん!俺も由香のことが好きだ。」
「あともう1つ、私類に嘘をついています!」
「えっ?」
「私―、やっぱりサッカーより野球が好き!」
そう言って笑う彼女の笑顔はやっぱり素敵で。
俺はこのスポーツをやっていて良かったと改めて思う。
そして俺は、彼女を優しく抱き寄せた。 (終)
Aspect~とある高校生の記録4~ 水谷一志 @baker_km
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