第20話 十ー一

  「ストライク!」

「ストライク2!」

「ボール!2ボール、2ストライク!」

 その後俺はストレートと変化球で2ストライクをとり、1球外して並行カウントとする。

 『よし、あと1球だ!』

 しかし―、ここからが長かった。

 「ファウルボール!」

 カボチャ、いやお兄さんは俺の決め球をことごとくファウルにする。

 やはりお兄さんは優秀なバッターなのだろう。2ストライクまではとれたが、そこから先は危ない球はファウルにして好球をヒットにする作戦らしい。

 ―「ファウルボール!」

またもお兄さんの打った球は内野側の観客席に消えていく。さっきから何度、お兄さんは内野席にボールをプレゼントしているだろう。

 しかし、俺も負けてはいない。

 俺の集中力は、極限まで高められていた。今の俺には、バッターボックスに立つバッター、また先輩キャッチャーがほんの目の前にいるかのように見える。それは、まるで拡大鏡を使っているかのようだ。そしてその拡大鏡のレンズに曇りはない―俺はそう思う。

 『相手の狙っている球は―。』

間違いない。俺のカットボールだ。

 

「ボール!」

 次の球、俺は外角低めに渾身のストレートを投げた。しかしボール約1個分、わずかに外れてボール。これでフルカウントだ。

 「ファウルボール!」

次の球は大きく曲がる変化球。その球で俺は空振りをとる予定だったが、お兄さんはその意図に気づいた瞬間、バットをまるで戦闘機が急旋回するかのように方向展開させてボールに当て、ファウルにする。

 『やっぱり、ここは―。』

俺は、この時次の勝負球を決めた。

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