第19話 九
『今は…、相手が誰であろうと関係ない。自分のやるべきことをやるだけだ!』
俺はお兄さんへの投球直前にそう考える―が、やはりどうしても意識してしまう―のは避けられない。
そんな俺の霊が乗り移ったのか、俺のお兄さんへの初球は―、
「ボール!」
思いっきり高めに外れてクソボールになった。
ここで先輩キャッチャーが俺の所に近づいてくる。
「類、集中しろ!
相手はお兄さんじゃねえ。相手をカボチャだと思え!
相手をカボチャだと思っていつも通り投げろ!
あと相手の観察も忘れずにな!」
「えっ、それってカボチャを観察するんですか?」
「バカ、ものの例えだよ!」
この場面は緊迫した場面。しかしその一瞬のタイムの時、俺と先輩は少し笑みを見せる。それは大げさかもしれないが、戦場の兵士たちが決戦前夜、一時の休息をとるようで―。
でもそんなことを先輩に言ったら、
「もう戦は始まってるぞ!」
と言われるだろうから黙っておく。
また、さっきの先輩の発言、そしてそんな俺のどうでもいい考えのおかげで、俺の肩は幾分か楽になった。
「相手はカボチャか―。まあ由香に似て美形の顔だけどな。」
先輩と俺の戦時中の冗談は俺に平常心を取り戻させた。
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