第17話 七
「1番、ライト、横山君。」
プレーボール。試合が始まると同時に、俺はあることを思い出す。
『そういえば由香のお兄さんも野球部で、強豪校にいた、よな―。』
何で今までそんなこと忘れていたんだろう?ってか「横山」って他にいないしこのバッターが由香のお兄さんに違いない。
俺の精神は勝手にかき乱され、その横山さんに簡単にヒットを打たれる。
これで、ノーアウト一塁。
その後相手にバントを決められ、3番バッターには簡単にタイムリーを打たれて1―0となってしまった。
そしてこのタイミングで先輩キャッチャーが俺の立つマウンドの所に駆け寄る。
「類、悪りぃな。情報通の俺としたところが横山由香ちゃんの兄貴が敵チームにいるなんて今まで気づかなかったよ。」
「えっ―!?」
強い叱責を予想していた俺は、肩すかしをくらった気分になる。
「でもな類、これはチャンスだぜ!ここでいいとこ見せて、由香ちゃんを奪い返せよ!」
「いやでも相手はお兄さんですし奪い返すも何も―。」
「そんな口の利き方ができれば大丈夫だ。じゃあ頑張れ!」
最後の先輩の言葉に、俺は笑ってしまった。
そして、そこから肩の力が抜ける。俺が今まで勝手に背負っていたもの、ネガティブな感情なんかが猛暑日ゆえの汗と共に流れ落ちていくのを感じる。
『そうだ!ここは決勝の舞台だ!
楽しまなきゃ損だな!』
その時俺が思ったのは、そんなこと。なぜか「絶対に勝ちたい。」といったものではなかった。
そして俺の肩関節の可動域はいつもより広くなったように俺は思う。
そして、試合再開。
1アウト一塁。ここはダブルプレーがとれれば最高の場面だ。
そして俺は今までこの大会ではほとんど投げてこなかった、カットボールを使う。
そのボールを相手バッターはストレートと判断し、強振してくる。
しかしそれはこちらの狙い通りだ。俺のボールはまるでコントローラーでもついているかのようにバッターの手元で少し曲がり、バットの芯を少し外す。
そしてヒットになると相手が思った打球は力なくセカンド方面へと転がる。
「3アウト、チェンジ!」
俺は注文通り、ダブルプレーをとった。
「類、お前のカットボールいいキレだな!
他のボールも調子いいぞ!」
俺はダッグアウトに帰る直前、先輩キャッチャーにそう言われた。
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