第8話 二ー一

 由香に告白したのは、俺からだった。

 「俺は―、由香ちゃんが好きだ!」

その言葉はとてもシンプルなもの。俺はその言葉に余計な装飾を施さなかった。そう、例えて言うなら「無駄をなくした投球フォーム」のようなものか。

 「私も類くんが好き!」

その直後、由香は俺の告白を受け入れてくれた。それはピッチャーの速いストレートをキャッチャーがしっかり捕るように、一瞬のできごとであった。またピッチャーとキャッチャーの間には信頼関係ができていないとピッチャーは安心して投球できない。俺たち2人の間には、そんな信頼関係がその時からできているように、俺は感じることができた。


 それから2年―。俺たちはケンカももちろんしたが、基本的にはずっと仲が良かった。それなのに、それなのに―。人がフラれるということは、こんなにあっさりしたものなのか、俺はそう感じずにはいられなかった。

 しばらくそのカフェにいた俺は、ようやくのことで立ち上がり、会計を済ませて店の外へ出た。するとたまたまではあろうが、由香がよくつけていたバラの香水の香りがしてきた。

それはほのかに甘い中にも気品を漂わせ、かといって近づく者をその強過ぎる気品で拒絶したりはしない、由香の性格にぴったりの香水だった。

 『もしかして、由香は俺を待ってる―?』

俺はその香りがした直後、そんな妄想に襲われる。しかしカフェの中にも、外の通りにも由香はいない。それは他の人間が同じ香水をつけていたのだろう。

 『でもあの香水が1番似合うのは、間違いなく由香だ。』

俺はその時、そう感じた。

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