特別章2-5 人見知りな私と解決編には至らない


 名探偵めいたんてい華恋かれんちゃんが仰るには、こういうことだそうです。


しお先輩を見ていた奴は、無類の人形コレクターなのよ。そして、ブルースはその人形コレクターにとっては年代物の凄い奴だった。ほら、そういう展開が昔のアニメ映画でもあったでしょ? あれはオモチャだったけど、パペット人形だってレトロ品だと価値が高くなったりするじゃない。全然知らないけど。で、ある日この街に来て偶然、ブルースと一緒にいたしお先輩のことを発見する。ブルースの価値を知っているそのコレクターは、もちろんそれを欲しがった。でも、見かけたときにおそらく私たちも一緒にいたのね。それで、しお先輩が一人になるのを待つことにしたの。それで、いざ1人になったところで声をかけようとしたけど、その気配に気づいたしお先輩の行動をみて、コレクターは一時的に撤退したってところかしら? ふふ、どう? あたしの推理もなかなかのもんでしょ!」


 ドヤッ、と饒舌にしゃべり終え、腕を組んだまま私たちを見る華恋かれんちゃん。


 そんな華恋かれんちゃんに、りくくんが質問します。


「まぁ、考えられなくはないけど、ほとんど華恋の思い付きのような気がするんだけど」


「なによ、あたしの名推理に文句があるっていうの? これだから素人は……」


 やれやれ、と首を振る華恋かれんちゃん。


 完全にりくくんの意見はシャットダウンです。


 一方、これ以上は言っても無駄と判断したのか、りくくんは口を挟むのを止めました。


「ねえ、しおちゃん。そのワンちゃんって、実際の凄く高かったりするの?」


 う~ん、どうでしょう。


 確かに、華恋かれんちゃんの言うようにブルースはもう10年以上前に私と出会いましたが、貨幣的値段はそんなにしていなかったと思います。


 ずっと眺めていたわけですから、当時の私としては高いなぁ~とは思っていたんでしょうけど、多分、そんな一攫千金を狙えるような値段ではなかったことは確かです。


『いや、ありうるね。なんたってオレ様は孤高の一匹狼。オレ様の命が欲しい奴なんざぁごまんといるからよ』


 というのが、ブルースの意見みたいです。


 つまり、ブルース自身も全然分かっていないということですね。


 そういえば、最近はフリマアプリでカメラにかざすだけで大まかな値段が分かるといったサービスがあったような気がします。


 ちょっと試してみましょうか?


『てめえ! オレ様を売る気か!! ふざけんじゃねえぞ!!』


 やる前から怒られてしまいました。


 でも、まだ私が何も言ってないのに、ブルースがいきなり大声を上げたのでみんなをびっくりさせてしまいました。


 いけませんよ、ブルース。


 今は大人しく捜査に協力してください。


「でも、華恋かれんの推理が正しいとして、それだったらしお先輩のところに、またその人が来るかもしれないってことだよね?」


「まぁ、そうなるわね」


「それって、結構危なくないかな? 昨日は逃げちゃったのかもしれないけど、しお先輩が1人でいるときを見計らって、無理やりブルースさんを捕っていかれちゃうかも……」


 確かに、華恋かれんちゃんの推理通りなら、そういうことだって起こりうるかもしれませんね。


 ブルース、大ピンチです。


「う~ん、そうだね。もしそんなことがあったら、しおちゃんだって危ないと思うし……。そうだ、りくくん。しばらくは私たちもしおちゃんと一緒に帰るようにするっていうのはどうかな?」


 すると、生徒会長さんがそんな提案をしました。


 しかも、ブルースだけでなく私の心配までしてくれている内容です。


「そうですね。そっちのほうが僕も安心しますし」


 そう言いながら、りくくんは私の目を見て、微笑んでくれます。


「   !」


「えっと、しお先輩……?」


 私が思わずブルースで顔を隠してしまったので、不審に思ってしまったのか、りくくんが不安そうに声を掛けてくれます。


『心配すんな、兄弟。こいつの奇行なんて今に始まったことじゃねえだろ?』


「は、はぁ……」


 りくくんは、納得したか微妙な返事をして、私から視線を外してくれました。



 どうしてでしょう?



 ほかの人に見られるのも、恥ずかしいですし、目線を逸らすことだってあります。



 だけど、りくくんに見られてしまうと、他の人以上にドキドキしてしまうんです。



 って、今はそんなことを言っている場合ではありませんね。


 私のせいで、みんなにも迷惑をかけてしまうかもしれないことをちゃんと謝らないと。


 ……でも、家までりくくんたちと帰るのは、ちょっと楽しそうです。


「もちろん、あたしも一緒に行くわよ! でも、その前に今日も寄っていかない? ってか、今すぐ行ったほうがいいかもね」


「ん? 寄ってくって、どこに?」


 りくくんがそう尋ねると、華恋かれんちゃんは自信満々にこう答えました。


「『Woder Land』に決まってるでしょ! 結衣ゆいちゃん先輩なら、ブルースに価値があるか鑑定してくれるかもしれないし」


 どうやら、華恋かれんちゃんはすぐにでも自分の推理を盤石にしたいようです。


 というわけで、私たちはいつもより早めに部室を後にして、『Wonder Land』に向かうことになりました。


『結局、オレ様は査定されちまうのかよ……』


 落ち込むブルースとは裏腹に「一体どれくらいの価値があるのかしら……」と何故かワクワクしている華恋かれんちゃん。


 言っておきますけど、ブルースにどんな値段がついても売りませんからね?


 と、私が心の中で呟いている間に、商店街に到着しました。


 結衣ちゃんがいる『Wonder Land』があるお店は、ここから少し路地を曲がった先にあります。


「   !」


 ただ、私はそこで、また背中がぶるっとしました。


しおちゃん?」


 私の反応に最初に気付いたのは生徒会長さんでした。


「汐ちゃん……もしかして……また……」


 そう尋ねる生徒会長さんに、私はコクン、と頷きます。


 ……やっぱり、私の勘違いではなかったのです。


しおちゃん……このまま、何も気づかない振りして歩いてみて。それで、まだ視線があるようだったら、そのワンちゃんをずっと私に向けててほしいの」


 生徒会長さんの言葉は、近くにいる華恋かれんちゃんやりくくんにも聞こえています。


 2人も同じく、真剣な表情へと変化していました。


 私たちは、1歩1歩、何も知らない振りをして進みます。


 でも、私が感じる気配は、一向に消えてくれそうにありません。


「……ねえ、みんな。私に考えがあるんだけど」


 私たちは、生徒会長さんの話に耳を傾けます。


 そして、生徒会長さんの話を聞いた華恋かれんちゃんが、ニヤリと笑いながら返事をします。


「……さすが紗愛さらさんね。いつもりくを付け回すだけのことはあるわ」


「……それ、僕としてはちょっと複雑なんだけど」


「じゃあ、次の路地で、やってみよう」


 と、生徒会長さんが合図をして、私たちは路地を曲がります。


『Wonder Land』までは、もう目と鼻の先です。


 しかし、私たちは動きません。


 隠れるようにして、路地で待機しました。後ろからは、私たちがそのまま先に歩いていると思うでしょう。



 そして、その場で待ち構えていた私たちの前に、人の影が現れたのです。



「……えっ!」


 相手は20代後半くらいの、若い男の人でした。


 パーカーにラフなズボンで、眼鏡が前髪にかかっているのが特徴的だと思いました。


「あの、少しお話を聞かせてもらえませんか?」


 そして、その男の人に生徒会長さんが凛とした態度で接します。


「い、いえ……」


 明らかに年下の相手だというのに、その男の人は動揺を隠しきれていない様子でした。


「し、失礼します!!」


 そして、その男の人は回れ右をして、その場を立ち去ろうとしました。


「待ちなさーい!! 逃がさないわよ!!」


「うわっ!!」


 なんと、男の人に向かって、華恋かれんちゃんは容赦なくドロップキックを決めました。


「さあ、観念しなさい! あんたが狙ってたのはブルースね! ブルースなんでしょ!」


「ちょ、華恋かれん!?」


 そして、ドロップキックだけではなく、拘束するためにヘッドロックをする華恋かれんちゃんを、慌ててりくくんが止めます。


 しかし、その間にも男の人は「ぐ、ぐるしっ……!」と華恋ちゃんの手をパンパンと叩いています。


 それでも、華恋かれんちゃんはそれがギブアップのサインとは分かっていないようで、一向に話す気配はありません。


 えっと、こんな感じで良かったのでしょうか?


「ちょっと、酔っ払うにはまだ時間が早いよ。それに、お店の前でうるさくするのは……」


 すると、騒ぎが店の中まで聞こえたのか、『Wonder Land』から結衣ゆいちゃんが出てきました。


「なんだ、きみたちだったんだ。っていうか、何してるの? みんなでプロレスごっこって歳じゃないでしょ?」


「あっ、えっと、ごめんなさい結衣ゆいさんっ! でも、これにはちょっと事情があって……ってか、華恋かれんももう止めなよ!」


結衣ゆいちゃん先輩、もう少し待っててくださいね! この悪徳コレクターはあたしが……」


 と、結衣ゆいちゃんが近づいてきて、私たちに捕まっている男の人を見た瞬間、足を止めました。


 そして、いつもの余裕のある笑みを消し、乾いた声で呟いたのです。



「ツナ……?」



 それを聞いた男の人は、返事をする前に意識を失いました。


 ……華恋かれんちゃん、恐ろしい子です。

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