特別章2-4 人見知りな私と謎と推理


「えっと……それって、誰かがしお先輩を付けてたかもしれないってことですよね……」


 次の日の放課後、私は昨日感じた視線のことをりくくんと華恋かれんちゃんに話していました。


「でも、だとしたら僕や華恋かれんもあの場所にいたから、誰かがいたなら気付いていたかもしれないけど……華恋かれんはどうだった?」


「ううん……あたしは特に何も感じなかったけど……」


 どうやら、あの視線に気づいたのは私だけだったようです。


「あの、変なこと聞いちゃいますけど、しお先輩ってそういうストーカーみたいな奴に付けられたことってありますか?」


 恐る恐るといった感じで、華恋かれんちゃんが私に聞きます。


 私としては、ちょっと気になったというだけだったので気軽に話したのはいいものの、2人は私が困って相談を持ち掛けたと思っているみたいです。


 心配してくれるのは嬉しいのですが、後輩たちに迷惑をかけてはいけないと思い、私は場の空気を換えようと試みました。


『いや、ねえな。むしろ、付けられるどころか、オレ様がいるから、みんな遠ざかるほうが多いぜ! はっはっはっ!』


「えっと……それって笑っていいのか微妙なんですけど……」


 そう呟く華恋かれんちゃんは、本当に微妙な笑みを浮かべていました。


 ブルースはブラックジョークとして言ったんでしょうが、大失敗です。


 やっぱり、私たちには笑いの才能がないみたいですね。


 空気もより一層重くなったような感じがします。


 私は、将来生まれ変わっても空気清浄機にだけはなれそうにありません。


「あの……その人って、隠れているって感じだったんですよね……」


 そんな私の傷心を忘れさせてくれようとしたのか、りくくんが話の軌道を戻してくれました。


『おう。こいつが振り向いたらいなくなってたからな』


 確証はありませんが、私が振り返って、慌ててその場から気配を消して隠れたという感じでした。


 そして、ブルースの意見を聞くと、りくくんは申し訳なさそうに、こう言ったのです。


「……あの、それって僕の姉さんの可能性ってないですか? 知ってると思いますけど、姉さんってたまに僕のことつけてたりするから……」


「ないわね」


『ねえな』


「即答!?」


 ブルースと華恋かれんちゃんの返事はほぼ同時でした。


「だって、紗愛さらさんならあたしでもわかるもん。ってか、あの人、今じゃありくが絡むと著しく弱体化するのよね、いろんなことが。だから、隠れてりくを追いかけてくるときは大体バレバレだし」


「そ、そんなゲームみたいな……」


 ふむふむ、私もあまりゲームをやったことがないのですが、華恋かれんちゃんの言いたいことはよくわかります。


 仮に、昨日の視線の正体がりくくんのお姉ちゃん、生徒会長さんだった場合、もっとこう、キラキラした気配になっていると思います。


 非常に言語化するのは難しいんですが、言ってみればプラスの感情を相手に向けるという感じなんです。


 でも、昨日の視線はもっとこう『緊張』とか『不安』とか、そういったものが入り混じった感じだったのです。


「確かに、姉さんなら僕でも気付くか……」


 さすがは張本人だけあって、私たちと似たような感覚を共有しているようです。


「でも、念のため姉さんには確認を……」


「は~い! りくくん、呼んだかな!」


「うわっ!? ね、姉さん!」


「もう、りくくんが私を呼んでくれるなんて嬉しいっ!」


 そう言って、いきなり現れた生徒会長さんは、りくくんまっしぐらに詰め寄ろうとしました。


「はい、紗愛さらさんストップ! 学校では姉弟でもそういうのは禁止です!」


 しかし、その間を華恋かれんちゃんが阻んでしまいました。実に見事なブロックです。


「ううっ……久々に仕事を終わらせてみんなにも会いに来たのに~。ぐすんっ」


 生徒会長さんは、大袈裟なくらい落ち込んでいました。


 っていうか、普通に瞬間移動のように現れましたね。


 そして、そのことに慣れてしまって大したリアクションを取らない私自身にも驚きです。


「それで、みんなは何を話していたの? 私がどうとか、って言ってたみたいだけど」


「ああ、えっと……」


 途中参加の生徒会長さんに、りくくんは私たちが話していた内容を伝えました。


「――ってことがあったんだけど……」


 すると、先ほどまでの和やかな様子は消え、生徒会長さんは神妙な面持ちで呟きました。


「う~ん、そういうことならちょっと警戒しないといけないかもね。しおちゃんは大丈夫? 怖かったりとか、不安だったら教えてね?」


 生徒会長さんは、そう言って私の様子を観察していました。


 口調も、初めて会ったときに聞いた事務的なものとはずいぶんと違います。


 本当に、私のことを心配してくれているのが伝わってきます。


 ちょっと変なところがある生徒会長さんですが、その優しさは本物で、私みたいな子にも向けてくれるのです。


 そういう人だからこそ、この学校の生徒会長として頼りにされているんだと思います。


『いや、こっちこそ心配させてすまなかったな。まぁ、こいつの勘違いって可能性が一番高いんだ。さっきも言ったが、こいつが付けられる理由なんてなんもねーしな』


 そうですね、ブルースの言う通り、私のただの杞憂だったのかもしれませんしね。


「……いや、もう一つ可能性があるわ」


 しかし、それを否定したのは華恋かれんちゃんでした。


「みんな、大事なことを忘れてるんじゃない? しお先輩自身に理由がなくても、それ以外にしお先輩を付け狙う理由があるって考えたらどうかしら?」


 ん? どういうことでしょうか?


 首を傾げる私でしたが、りくくんも生徒会長さんも同じリアクションを取っています。


「どういうこと、華恋かれん?」


「馬鹿、紗愛さらさんはともかく。りくも分かんないわけ? そんなんじゃ、しお先輩の後輩としても人形演劇部としても失格よ」


 ごめんなさい、華恋かれんちゃん。


 部長である私にも、分かっていません。


 ですが、そんな私の心境などいざ知らず、華恋かれんちゃんは話を続けます。


「いい。しお先輩を付けてる奴がいたとして、それがしお先輩に関係ないんだとしたら、あとは……」


 そして、華恋かれんちゃんは、私をビシッと指を差して言いました。


 いえ、正確には私ではなく――。



「ブルースが理由ってことになるじゃない!」



 華恋かれんちゃんは、現代のシャーロック・ホームズだと言わんばかりのドヤ顔で、ブルースを指差していたのです。


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