特別章1-6 ツンデレなあたしとデートのお誘い


「……あー。本当、何やってるんだろ」


 あたしは、重い足取りで朝の学校の廊下を一人で歩いていた。


 はい、察しのいい人たちにはもうお分かりでしょうけど、今日もあたしはりくと会わないように一人で登校してきました。


 しかも、いつもより1時間以上前に家を飛び出して、いつもと同じ時間に到着したというオチがつくオマケ付きです。


 本当、どうしてウチの学校はこんなに道が分かりにくいんだろ。


 同じ制服の生徒を見つけていなかったら、完全に遅刻していたところだ。


 後ろからこっそりついていったけど「なんかさっきから変な人に付けられています」と言われていたら事案が発生していたかもしれない。


 そんな冗談はともかく、あたしが1時間以上前に家を飛び出した理由は、いわずもがな「りくと会いたくない」からだ。


 昨日からあんなに息巻いていたのに、いざりくと顔を合わすと考えたら、いつのまにか家を飛び出してしまっていたのだ。


 いや、全然、昨日、紗愛さらさんと話したせいで変にりく意識しちゃうようになったとか、そういうのじゃないんだからね!


 ……はい。自分でも分かってますよ。キャラで逃げたって、どうにもならないことくらいね。


 本当、面倒くさい性格してるよね、あたしって……。


 そんなこんなで、肩の荷を下りないまま、ヘトヘトで教室の扉を開いた。


「おっはよ~。いやあ、今日も華恋かれんは可愛いねぇ~! というわけで、今度の日曜日、すみれちゃんとデートしようぜっ!」


 すると、ぴょんぴょんと元気に跳ねるようにあたしのところへ来た女の子に突然ナンパされた。


 もちろん、こんなことをするのは1人しかいない。


 あたしは、心が癒された感覚を味わいながら、彼女の問いかけに答える。


「うん、日曜日なら大丈夫、かな?」


 そう言うと、あたしの友達であるすみれは「いえ~い!」とハイタッチをしてきた。


 今のあたしにオアシスの潤いをくれるのは、すみれのような無邪気な笑顔なのかもしれない。


「もう、すみれってば……華恋かれん、本当に予定は大丈夫だったの?」


「ほほう、さては菖蒲あやめ華恋かれんを狙っていたな!?」


「狙ったも何も、私も日曜日、あなたから誘われていたんだけど?」


「むむっ、駄目だぞ、華恋かれんすみれちゃんのモノだ!」


「全然話を聞いてないわね……」


 ぎゅう、とあたしに抱き着くようにするすみれを見ながら、菖蒲あやめは頭を抱えてため息を吐いた。


「そう……じゃあ、私はいらないのね。さよなら、すみれ。今までありがとう」


「えええっ!? そ、そんな……菖蒲あやめってば、すみれを捨てて他の男のところに行っちゃうんだ! 菖蒲あやめの浮気者! 菖蒲あやめがそんなに尻軽女だと思ってなかったよ!」


「へ、変なこと言わないで! 最初に誘ってきたのはあなたでしょう!?」


 顔を真っ赤にして反論する菖蒲あやめを面白がるように、すみれはおよよ、とわざとらしく泣く振りをしていた。


 ああ、平和だなぁ。


 2人を見ていると、自分の悩みなんてちっぽけなものだって思えるから不思議だ。


 やっぱり、友達って大切な存在なのだと改めて実感することができた。


 だけど、安心しているのもつかの間、このタイミングでりくが入って来た。


 しかし、すみれは昨日みたいにりくが教室に入って来たのに気づいていないのか、今なお菖蒲あやめと楽しくおしゃべりをしている。


 りくも、あたしたちにバレないようにこっそりと自分の席について気配を消していた。


 相変わらず、そういうのは得意なんだから……。


 ひとまず、変にあたしも言い繕わなければいけないという事態にはならなくて一安心する。


華恋かれん~、昨日言ってたアイスクリーム屋さんも行こうねっ。すみれちゃんは約束をちゃんと守る人ですから!」


 すみれは、グッと親指を立てて自信満々の笑みを浮かべていた。


「はぁ~、華恋かれんが羨ましいわ。私には一度もそんなことしてくれなかったのに」


「うぬ、さてはお主、妬いておるな? って、あたっ!?」


「変なことばっかり言ってるおしおきよ」


 菖蒲あやめのチョップを見事に喰らったすみれは、おでこを抑えながら涙目になっていた。


「あと、華恋かれんにもちゃんと何処に行くのか説明しなさいよ?」


「ううっ、わかってるってば~。えっとね――」


 すみれは、菖蒲あやめの指示に従い、嬉々とした表情で日曜日の予定をあたしに話してくれた。


 どうやら、すみれがどうしても観たい映画があるらしくて、菖蒲あやめと一緒に約束していたのを、せっかくだからとあたしも誘おうという話になったらしい。


華恋かれんとはすみれたちの部活のせいで、なかなか予定合わなかったからね」


 すみれは何気なく言ってくれたけれど、2人が入部しているテニス部に入らなかったあたしに今でも声を掛けてくれるのは、すみれなりの優しさなんだと思う。


「ありがとう、すみれ。それじゃあ、日曜日、楽しみにしているね」


「うん、すみれたちも楽しみにしてるよ~」


 そう言って、本当に何気なく、あたしはすみれに尋ねた。


「ところで、映画って何観るの?」


 すみれの性格からしたら、流行りの恋愛ものとかだろうか? それとも、案外アニメ映画だったり……。



「『首切りゾンビと死霊が潜む街』だよ!」



 …………ん?


「いやぁ! やっと日本に上陸してくれてさ! 映画レビューだとすっごい怖いっていうから楽しみで楽しみで!」


 ……………………。


「本当、そういうの好きよね、すみれは」


「そういう菖蒲あやめだって好きじゃん。ホラー映画」


すみれに付き合ってたら、案外悪くないかもって思っただけよ」


「ふふっ、じゃあすみれちゃんの布教も成功してるってわけだ」


「でも、華恋かれんは大丈夫なの? 怖いの苦手だったりしない?」


「ダイジョブ、ダイジョブ。ゼンゼン、ヘイキダヨ?」


「おっ、さては華恋かれんもホラー映画好きだね! 良かった良かった! では、同士よ! 再会を楽しみにしておるぞ。わーはっはっはっ!」


「うるさいわよ、すみれ! まったく……」


 すみれ菖蒲あやめは、呆然と立ち尽くすあたしを置いて、自分の席に戻って行った。



 一方、あたしはというと頭の中が真っ白になっていて、なかなか現実に戻れなくなっている。



 そんなの、理由は単純明快だ。



 あたし、明坂あけさか華恋かれんは、ホラー映画なるものが大の苦手なのであった。


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