特別章1-2 ツンデレなあたしと先輩の相談


『でよー、子供たちがオレ様に群がってくるわけよ? そりゃあ、オレ様が最高にクールでナイスガイなドッグってことは認めてやるが、スターも楽じゃねえってことよ、分かるか、兄弟?』


「え、ええ……そうですね、ブルースさん、大変でしたね」


『そうよそうよ、オレ様ってば、どこにいってもスーパースターな訳よ? 参っちまうぜ、ははっ!』


 放課後、人形演劇部の部室では、しお先輩、もといブルースが意気揚々と何かしゃべっていて、りくがそれに相槌を打っている。


 いつもと同じ、部活の光景。


「…………」


 けど、あたしはブルースの話には一切入らず、黙々とパペット人形に使う衣装の修繕に集中していた。


 そうやって、何かに集中していれば、変に考えこまなくていいし、りくとも話さずに済むから……。


 そう、りくと話しちゃうと、あたしがまた、余計なことを言ってしまうに違いないし……。


『なあ、嬢ちゃんはオレ様がどれだけ人気だったか、ちゃんと見てくれてたよな?』


「…………」


『嬢ちゃん? おい、聞いてるかー、嬢ちゃん?』


「……はい? あ、ごめん……。なに、ブルース?」


「    、    ?」


 やっとあたしがブルースから呼ばれていることに気が付いたけど、話の内容は全く頭に入っていなかったので、聞き返す形になってしまった。


『いや、だからよ。この前の公演でオレ様が大人気だったって話だよ』


「あー、えっと……そ、そうかもね……うん、そうだったそうだった」


『なぁ、嬢ちゃん。今日、あんまり元気がねえみたいだけど、大丈夫か?』


 ブルースがそんなことを言うと、しお先輩もじっとあたしのことを見つめてくる。


 一方、りくはというと、またしても気まずそうに、あたしと視線を合わそうとしない。


 ……もう、何なのよ、まったく!


 その態度に、あたしは益々イライラしてしまう。


 ああ、もう、この際だから直接言ってやろうかしら。そっちのほうが、あたしもスッキリするだろうし……。


 でも、そんなことを言ったら、りくはまた、あたしと話そうとしなくなるかもしれない。


 それは……想像しただけで、どうしてか胸が痛くなってしまった。


 馬鹿、馬鹿、本当に、なんであたしがこんな気持ちにならないといけないのよ。


 こんなことになるのなら、一層、しばらくはりくの傍にいないほうが……。


『……おっと。今日は部活報告書をまとめようと思ってたが帳簿を教室に忘れちまったぜ。嬢ちゃん、悪いがこいつと一緒に教室まで取りに行ってくれねえか?』


 あたしがそんなことを考えていると、ブルースが急に話題を変えてきた。


「……はい?」


 部活報告書というのは、文字通りしお先輩がつけている部活の活動内容が書かれたノートで、主に部長であるしお先輩が管理している。


 ブルースからは『ただの日記帳みたいなもんだ』って聞いていたけど、なぜ急にそんなことを思い出したんだろう?


 それに、わざわざあたしが付いていく理由なんてない気がするんだけど……。


『ということで、留守番は宜しく頼むぜ、兄弟!』


 快活にそう告げたブルースは、あたしの袖を握って半ば強引に部室から退去させた。


 りくも、突然のことで驚いたのか「えっ? あっ、はい……」と情けない声で返事をするだけだった。


 そして、よく分からないまま、あたしがしお先輩についていったのだが、二人(と一匹)の無言の時間というのも結構辛いものがあったので、あたしからしお先輩から話しかけることにした。


「あ、あの……しお先輩、って、わああ!」


 その瞬間、しお先輩がピタッと止まったかと思うと、180度振り返り、見事で華麗なターンを決めて、あたしと対面する形になった。


 しお先輩って、たまにこっちの予想がつかないような突飛な行動をとることがあるので、毎度驚かされるんだよね……。


 だけど、間抜けな声を出してしまったあたしとは対照的に、しお先輩はなんだか悲しそうな表情をしていることに気が付いた。


 そして、バッとしお先輩の右手、つまりはブルースがいるほうの手を前に出して、告げた。


『嬢ちゃん、兄弟となんかあっただろ?』


 最後は疑問形になっていたけれど、明らかに確信しているような物言いだった。


 ……しお先輩、気づいてたんだ。


『あったりめえだろ。オレ様もこいつも、その……嬢ちゃんたちの先輩、なんだからよ』


 いつもの憎たらしい口調ではなく、どこか言いづらそうにするブルース。


「  て、し  ぱい、だも、ん」


 小さな声だったけど、しお先輩もあたしに向かって、何かを言ってくれた。


 上手くは聞き取れなかったけれど、きっと、あたしのことを心配してくれるような内容だったに違いない。


「……もしかして、あたしを連れてきたのも、それを確認するため、だったんですか?」


 こくん、としお先輩が首を縦に振った。


 ……そっか。


 あの恥ずかしがり屋で、人見知りなしお先輩にも、気を遣わせちゃってたのか……。


 そう思うと、また胸が少しだけ苦しい。


 だって、しお先輩が一番、この人形演劇部に思い入れがあって。


 そんな大事な場所を、あたしとりくのせいで台無しにしてしまいそうなのだから。


『嬢ちゃん、無理にとは言わねえが、なんで兄弟のことを避けてるのか、オレ様たちにも教えてくれねえか?』


「それは……」


 一瞬だけ躊躇するような態度を見せてしまったあたしだけれど、きっと、そういうわけにはいかないだろう。


 そもそも、これはあたしとりくの……いいや、あたしの問題かもしれないけれど。


 人形演劇部の部長であるしお先輩には、ちゃんと聞く権利があるのだろう。


 本当に……無茶苦茶恥ずかしいけれど……。


 誰かに話したほうが、少しは自分の気持ちにも、整理がつくかもしれないし……。


「あの、しお先輩……。あたし……」


「    」


 じっと待っているしお先輩に向かって、あたしは告げた。



「あたし、りくがあんな変態な奴だったなんて知らなかったんです!!」



 はぁはぁと、息を切らしながら告げたあたしの発言を聞いたしお先輩はというと――。



「??????」



 不思議なものをみるように、ただただ首を傾げていたのだった。


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