第39話 人見知りの僕の先輩と一軒のお店

 夕日に染まった商店街の道は、色彩的美しさはあるものの、人通りの少なさから物悲しい雰囲気を否めなかった。


 そんな道を、僕としお先輩は無言で歩く。


 しお先輩は、僕より少し先を行っているので、僕は彼女の背中を追いかけるような形になる。


 いつもは会話を広げてくれるブルースさんも、今は非常に大人しくしていた。


 それに、しお先輩がいつも以上に僕から視線を逸らしているような気もするのだ。


 もしかして、部室で僕が読み取った言葉を間違えていたのだろうか?


 僕はてっきり、しお先輩に「付いてきて」というニュアンスのことを言われたのだと思って同行しているのだけれど……。


 もしそうなってしまった場合、僕は勝手に先輩の帰り道に付いてくるヤバイ後輩ということになる。


 華恋かれんあたりなら「なに勝手に付いてきてんのよ!」なんて悪態をついてくれるけど、しお先輩はそんなことをする人ではない。


 まずいぞ……せっかく先輩とも仲良くなってきたと思っていたのに、これではせっかく積み上げてきた好感度が一気に「後輩」から「ストーカー」に変質してしまう恐れがある。


 だが、嬉しいことに、そんな僕の被害妄想も甚だしい思考は杞憂に終わった。


 人気の少ない路地へと曲がった先に、小さな古い店舗が佇んでいた。


 店の前のガラスケースには、昔のおもちゃがいくつも並んでいる。いわゆるアンティークショップというのだろうか?


 そして、扉についている看板には『Wonder Land』と筆記体で描かれていた。


 すると、しお先輩はそこでピタッと止まり、僕のほうへ身体を向け、唇を動かした。


「  、  」


 左手で、その店舗を指さすと躊躇もせずに扉を開けて入っていく。


 カランカラン、と昔ながらの鈴の音が鳴り響き、僕も後ろから付いていくと、そこにはまさに『おもちゃの国』だった。


 並べられた棚には、小さいものはミニカーや指人形、大きなものだとゲームセンターで「これ、絶対に取れないだろ?」と思うような大きさのキャラクター人形が陳列されていた。


 外見のレトロな雰囲気と遜色がない様式をしていて、壁や棚は茶色で統一されていて、照明はほのかなオレンジ色の光を灯している。



「はーい、いらっしゃーい……って、なんだ、しおちゃんか」



 そして、店の奥から出てきたのは、背の高い女性の店員さんだった。


 髪の毛は少し赤みが掛かって、腰まで伸び、前髪で左目が隠れてしまっている。


 服装は水色のエプロンにジーンズ姿という、いで立ちだ。


 やや猫背気味なのと、少したれ目な目元の印象からなのか、眠たそうな印象を受ける。


「……ん? きみは……」


 そして、彼女が僕の存在にも気が付いた。


 やや不審そうな目線を向けられてしまったことで、ちょっとだけ身を引いてしまった。


 しかし、そんな僕の行動をフォローしたのは、しお先輩の右手にいるブルースさんだった。


『こいつがオレ様の兄弟だぜ。んでよ、ちょっとあんたに修理してほしい奴がいるんだが、構わねえか?』


 そう言ったブルースさんにも、彼女は驚いた様子もなく、改めて僕に視線を向けた。


「ふぅん、そっか。きみがね……」


 そして、納得したような面持ちをしたかと思うと、僕に向かってこんなことを言ってきた。


「いいよ、今回は特別にタダで直してあげるから、きみのお友達を見せなさい。あと、きみとも少しお話したいんだけど、いいかしら?」


 そう言った彼女の雰囲気は、ほんの少しだけ、姉さんに似ているような気がした。

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