第四章 甘すぎる僕の人間関係 汐先輩編
第38話 人見知りな僕の先輩とパペット
「――こうして、泥棒を追い払ったロバ、イヌ、ネコ、ニワトリたちは、素敵な音楽を奏でながら、みんなで仲良く暮らすようになりましたとさ」
僕が読み上げた原稿と共に、
ここで観客からの拍手喝采……となる予定だけれど、生憎と部室には僕たちしかいないので、つかの間の静寂が訪れる。
しかし、それに耐えかねた
「……ど、どうだった?」
恐る恐るといった感じで聞いてきた
「うん、バッチリだったと思うよ。ちゃんとパペットも上手く動いていたし、台詞も凄い自然に言えてたんじゃないかな?」
そう告げると、
「ふ、ふん! 当たり前よ! ちゃんと練習だってしたんだから!」
ツンツンとした態度を取ってはいるものの、長い付き合いである僕には、
『いやぁ、すげえぜ嬢ちゃん。この短期間でここまでオレ様と息の合うコンビを組めるのはなかなかのもんだ』
「あ、ありがとうございます、
そして、僕とは違って素直に後輩らしい返事をする
最初こそ、
「 ! 、 」
一方、
耳まで真っ赤になっているのは、人見知りというよりは、それがもう
それに、ちょっと
『どういたしまして、だとよ。つっても、指導してんのは、こいつじゃなくて、オレ様なんだけどな』
「はいはい、分かってるって。ブルース先輩」
ブルースさんが仲介に入ってくれることで、僕たちは
『最初はちと心配だったが、これならいけそうだな。いい舞台になりそうだぜ』
自然と、三人とも部室にあるカレンダーに視線が向く。
そこには、
公演会の日まで、残り一週間。
何度も繰り返した稽古のおかげで、自分のパートならば台本を見ずに台詞だって暗唱できるほどだ。
きっと、この調子なら、公演会も成功させることができるだろう。
いつの間にか、僕は早く公演会の日が来ないかとワクワクするようになっていた。
通し稽古も終わって、気が付けば完全下校を告げるチャイムが鳴る時間まであと少しとなっていた。そろそろ部活も終わる時間だ。
「ねえ……悪いんだけど、今日は先に帰るわね」
そして、稽古で使っていた道具を片付けている途中、
「このあと、クラスの子たちからご飯食べに行こうって誘われてるのよ」
どうやら、
いやホント、未だに新しい友達がいない僕とは大違いだ。
「い、いいのよ……。あんたは、あたしとだけ仲良くしてれば……」
「いや、それも問題だと思うんだけど……」
「な、何でよ!? あ、あんたはあたしとだけじゃ嫌だっていうの!?」
「いや、別に嫌とかじゃなくて……」
だって、それだと
まぁ、実際そうなんだろうけど、クラスメイトからそう思われるのは、ちょっと辛いです。
『はいはい、いつもの痴話喧嘩はいいから、嬢ちゃんはさっさと行きな。後の片づけはオレ様たちでやっとくからよ』
「へへへ、変なこと言わないでよ! と、とにかく! あたしは先に帰るからね、
最後はなぜか僕を罵倒して、
『やれやれ、嬢ちゃんも大変だな……』
大変なのは僕のほうではなかろうか? というツッコミをブルースさんにしても仕方がないので、僕はせっせと後片付けに勤しむことにした。
「ん……? あれ?」
『どうしたんだ、兄弟?』
そして、僕が自分の使っていた人形を手に取ったとき、あることに気が付いた。
「いえ、ちょっと腕が取れそうになってるかもと思いまして……」
使っているときはそれほど違和感がなかったのだが、改めて見てみると腕の部分のつなぎに少し切れ目が入っていた。きっと、このまま使っていたら傷がどんどん大きくなってしまうだろう。
「えっと、
これくらいなら、家庭科の授業で使う裁縫セットでなんとかなるはずだ。
部室にあったものをそのまま使っているとはいえ、今の使用者は僕なので、メンテナンスはしっかり管理しておいたほうがいいだろう。
「 」
しかし、
もしかして、大事な人形だから、僕がちゃんと縫うことができるのか心配しているのだろうか?
そして、ブルースさんがいないほうの左手でちょこんと僕の袖を掴んで、こう告げた。
「 。 !」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます