第36話 ツンデレな僕の幼なじみの秘められた想い
「じゃ、じゃあ……適当にしてて……」
「う、うん……」
言われるがまま、
昔の僕は、自分の部屋なんて割り振られてなかったから、羨ましいと言ったことを今でも覚えている。
そういった子供の頃の記憶が、
でも、今は僕も
何年も足を踏み入れてなかった
あたりを見回すと。昔は置いてあった女の子向けのおもちゃは全部片づけられていて、代わりに雑貨屋で売っているような小物が何点かあるだけだ。
「ちょ、ちょっと! あんまりジロジロみないでよ……」
「ご、ごめん!」
「あっ、謝ってほしいわけじゃないわよ!」
「の、飲み物持ってくるから、ありがたく思いなさいよ!」
僕が砂漠に迷った旅人なら、その言葉の重みも違ってくるのだろうが、平和な日本の部屋で発言する言葉にしてはいささか大袈裟な言葉を残して、
取り残された僕はというと、何をするでもなく、ベッドの上に置かれた時計の秒針の音を聞きながら華恋の帰りを待つことにした。
そして、5分後に
どうやら
「ごめん、華恋。僕も手伝えばよかったね」
「い、いいわよこれくらい! あたし一人でできるもん!」
そう言って、
「それじゃあ、早く食べるわよ」
「そ、それじゃあ、いただきます」
僕は
さすがはニコさんが用意したケーキだ。味は申し分ない。
「ん~、おいし~!」
それは
そんな感じで、僕たちの間に生まれていた緊張感は徐々に雪解けのように蒸発していき、気づけばお皿に載っていたケーキはなくなり、自然な会話をすることができていた。
「――だから、あたしも
会話の内容は、昨日、
「うん。わかった。それならちょっとやってみようよ。僕も練習になるからさ……って、そうか。今日は僕の人形がないんだった」
「あたしのやつ使えばいいじゃない。パペット用じゃないけど、たしか押し入れの中に……、ほら、あったわよ」
そう言って
「ふ、ふふっ」
ただ、僕は少しだけ可笑しくなってしまって笑い声を漏らしてしまった。
「なっ、なによ! あたし、変なこと言ってないでしょ!」
顔を紅潮させて反論してくる
「いや、やっぱり
「はぁ?」
まぁ、さすがにこれだけじゃあ説明不足感は否めないので、僕は自分がかんじてしまったことを彼女に伝えることにした。
「僕、実は
「…………それは、うん……。なんとなく感じてたし、あたしもあんたに色々あったから……」
「やっぱり、あの時、気を遣ってくれてたんだ」
「…………」
中学生になって、新しい環境に馴染めなかった僕は学校で孤立してしまった。
今までのように接してくれる
何より、僕が一番負担になっていたのは、家族とのことだった。
姉さんは、出会った頃と変わらずに僕を甘やかす人だったけど、あの人は――。
それに今だって、僕は—―。
「ねえ、
「えっ……」
気が付けば、
少し震えているその手からは、ほのかな温かさが伝わってくる。
横を振りむけば、頬をピンク色に染めた
「あたしは、ずっと変わってないよ。だって、
呼吸や心臓の音が聞こえるくらい、僕たちの距離は近くなっている。
「あのね……
ぎゅっと、
「
まるで、子供がわがままを突き付けるような、甘えた声だった。
「もちろん……だよ……だって、
「友達……か」
でも、それが僕には
「ねえ、
「えっ?」
そして、
「どうしてだろうね、昔は一緒のベッドで寝てたりしたのに、今はちょっと
「そんなの……当たり前、だよ……」
気が付けば、僕の体温も少しずつ上昇していく。
「どうして、当たり前なの?」
「それは……
でも、時々こうして女の子らしい仕草や表情をされると、自然とドキッとさせられる。
「陸はさ、あたしの部屋に来てエッチなこと、想像しなかった?」
「はっ!?」
そんなこと、ありえない!
そりゃ、少しも想像しなかったといえば嘘になるかもしれないけれど、
「
重なった手とは逆の手で、僕の胸を押さえ、
「
そして、
「あれー、
部屋中に、陽気な女性の声が響き渡った。
僕は呆然と扉の近くに立っている女性に目線を向ける。
目元が少し吊り上がっているところは、
その正体は、僕も小さい頃によくお世話になった
久しぶり、と言われたものの、マンションの前で会ったりすれば声をかけることもあるのだが、どうやら僕がこの家にお邪魔しているこの状況のことを差しているようだ。
すると、僕たちの様子をどこから見ていたのか、上品にわざとらしく口を押えながら告げる。
「あらあら~、
「おかっ! ちがっ! これは! そのっ!」
「はいはい~、お母さんはちゃんとわかってるわよ~。
僕に向かってウインクしてくるおばさんは、どこからどう見ても女子大生くらいの年齢にしか見えなかった。
「お母さんっ! ノックしてっていつも言ってるでしょ! お願いだから守ってよ!」
「え~、見られたら恥ずかしいこと、してたのかな~、
「ししししし、しとらんわ!」
どこで覚えたのか、人生で一度も言ったことがないであろう関西弁で抗議する
「陸くん、おばさんは別にいいと思うんだけど、若いころからあまり進んじゃダメだからね?」
呆然とする僕をよそに、おばさんは部屋から退去していった。
そして、
「……ッッ!!」
めっちゃ僕を睨んでます。
「あの、
「さ、さっきのことは全部撤回!! 忘れなさいッ!」
ううっ~! と涙目になりながら僕を見てくる
やっぱり華恋は昔から変わってないな……と、場違いな感想を抱く僕だった。
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