第43話 総理も都知事もガラパゴス

 昨年冬に中国の武漢ぶかん市で発生したとみられる新型コロナウイルス。日本国内では横浜港に入港した豪華客船ダイヤモンド・プリンセ号の乗客の集団感染以降、感染の拡大が始まりました。中国に隣接する韓国だけでなく、地理的には遠く離れているはずのヨーロッパでも中国とつながりの深いイタリア発なのか、スペイン、フランス、ドイツを中心に感染は広がりを見せています。そして、アメリカでも。欧州で一般的な握手やハグの文化も接触感染や飛沫感染で広がりやすいこのウイルスの蔓延に拍車を掛けているようですね。


 私は医師でもウイルスの研究者でもありませんので、その対策を語る資格もありませんし、つもりもありません。知ったかぶりして専門家の見立てを批判するつもりもありません。自身を守り、周りに広めないよう専念するだけです。迷惑を掛けないために。

 ただ、新聞やテレビの報道を見ていて気になること。それはこの夏に開催予定のオリ・パラ東京大会についての為政者の無理解と無神経さです。


 この冬以降、感染拡大を見せている新型コロナウイルスはインフルエンザと類似に見られがちですが、まだまだ未知な部分も多いのが現状です。気温や湿度が上がる春以降は感染が収束に向かうとの楽観的憶測がある一方で、蔓延が東南アジアやオーストラリアをはじめとする南半球にも広がりを見せている現状から否定的な専門家も少なくありません。

 国内外でプロ・アマを問わず様々なスポーツイベント、演劇やコンサート等の文化的イベントも中止や延期を余儀なくされています。そんな中で、オリンピック、パラリンピックだけを特別視することに国際的な理解が得られるだろうか、という素朴な疑問を感じます。各国のイベントは基本的には各国内で注意を払えば対応も考えられますが、オリ・パラは全世界が対象です。選手はもちろん、取材のマスコミ、多くの観戦客が東京に集結します。日本のトップは当然、日本人だけでなく大会に集まる全ての人命と健康を考えなくてはいけません。そんな当たり前の状況の中で、安倍晋三総理や小池百合子都知事からは“予定通りの開催”の発言しか聞こえてきません。組織委員会の森喜朗会長は延長案を提案した理事をとがめました。スケジュール通りに運ばなければ巨額の損失は避けられませんが、多くの人命には代えられないことは明らかなのに。中止はともかく、延期については考える必要があるのは当然でしょう。オリンピック開幕の7月24日まで4ヵ月。ウイルス感染のピークが見えない段階でプランB、プランCも用意しないのは開催国の責任者としていかがなものか、と思います。海外のメディアからは『海外の日本を見る目も変わってくる』との指摘もされ始めました。世界の認識と日本の認識の差は明らかで、気候変動サミットで時代遅れで不名誉な『化石賞』を“受賞してしまった”日本はここでもガラパゴスと評されるかもしれません。

 大会が延期になると、選手選考や販売済みチケットの扱い、開催会場のスケジュールの再調整等の課題はもちろん、大会スポンサーの広告収入などの金銭的な調整等対応に迫られるでしょう。

 総理にとっては、任期中の大会開催にこだわりたい。都知事にとっては大会直前に予定された都知事選挙への逆風にしたくない。こうした事情は想像できますが、事故の名誉のために世界中を巻き込んだり、犠牲にすることがあってはなりません。

 もうそろそろ自己都合と世界不安との優先順位を冷静に見つめることが求められるのではないでしょうか。国内のメディアも大会関連の広告収入や放映権の恩恵を受ける立場にある関係で現段階では大会の延期論についてはまだまだ少数派ですが、海外メディアからの批判が強まれば早晩、論調も変わって来ることでしょう。私のゼミ員でアマ棋士でもある長崎愛香がうまいことを言いました。『外堀が埋まってからの“頓死とんし”じゃ格好つかないわよね』。彼女の言う通り、今こそ『君子豹変す』の時です。“詰み手”を読み切って『投了』し、次の対局に向かう勇気も必要ではないでしょうか。ゼミ員ともども、早い段階の英断を期待しています。

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