第24話 映画「記憶にございません」、みなさんの評価は?

 三谷幸喜監督の最新作「記憶にございません」。全国公開の週末、早速観てきました。う~ん、過去の作品同様、笑いのツボ押されまくりの展開を期待しましたが正直、思った以上に笑うことができなかったのです。むしろ、ヒューマンドラマ風の結末が近づくにつれ涙がこみ上げてきました。まんまと期待を裏切られた気がします。鑑賞後、劇場を出て振り返りましたが原因が分からない。三谷作品のツボを心得た常連の出演陣に加え、新しく“”に加わった俳優の皆さんもいい演技を見せていましたし、SPや政治家(大臣)役も雰囲気と味のあるキャスティングでしたので、この点に不満はありません。主演の中井貴一さんにも、秘書役のディーン・フジオカさん、小池栄子さんにも。アメリカ大統領役の木村佳乃さんや野党第二党党首役の吉田羊さんにも…。


 では、ストーリーに問題があるのかー。現実味がない、と一刀両断に切り捨てるのでは意味がありません。社会の矛盾や闇をえぐるドキュメンタリー作品ではありませんし、同じ“政治”がテーマでも松坂桃季さん主演の「新聞記者」のような社会問題に真正面から斬り込んだ作品でもありません。三谷監督はエンターテインメント作品を手掛ける「喜劇の王様」なのですから。


 少し遅めに店を開けて、自分用のコーヒー豆を挽き始めて気が付きました。大晦日のホテルを舞台に宿泊者それぞれのドラマを描いた「THE有頂天ホテル」や、ドタバタの劇中劇と“反社”の勢力争いというシリアスなドラマを喜劇の形で描いた「ザ・マジックアワー」のように、突然吹き出したり、笑いが笑いを呼ぶ展開に無防備に笑わされたりすることがなかったのは、昨今の現実政治の“”が三谷監督の脚本を超えていたからかもしれません。

 記憶を失った支持率最低の総理大臣が、側近とともに数々の難局を乗り越えていくストーリーなのですが、ここ数年、総理の周りで起きている「現実」や子供の言い訳にしか見えない各大臣や官僚の「教養不足」、「追及のかわし方」の方が断然、面白いからです。


 ネタばれしないように言葉を選んで言わせてもらえば、総理大臣が記憶喪失を乗り超える過程で、かつての自分を反省して改心する物語ですが、試写を見た安倍総理は何を感じたのでしょうか? 「私の支持率は40パーセント前後はあるからな」とマジでお思いでしたらガッカリですね。総理は身辺警護のSPに囲まれた暗い空間で、大半は居眠りしていたのではないかと推測しますので、作品に込められた皮肉や風刺にも気づかなかったとしても無理もありませんが…。鑑賞後の記者の質問への平凡な答えにはウィットのひとつもなく、毎年年末恒例の「今年一年を表す漢字一文字は?」と問われ、二度までも“漢字二文字の熟語”で涼しげに対応した過去の総理の姿を思い出しました。「トランプ米大統領の一挙手一投足には敏感だけど、社会の動きには関心ないんだな、この人」と改めて気づかされましたからね。


 映画の話に戻りますが、公開前にテレビで流れる「重要なお知らせ」という名の事前告知でも紹介されていません(と思います)が、エンドロールで流れるサプライズ・ゲストには「なるほど。撮影当時の状況なら出演は可能だし、サプライズ感はあるけどなぁ」と思ったものの、「2019年秋公開のタイミングはちょっとな…」。さらに「何年か後にこの作品を観た人には“このキャスティングの妙、分かるかなぁ、分かんねぇだろうな”」と松鶴家ちとせ風にツッコんでいる自分がいました。

 そして、予備知識なしで本作をご覧になり、普段のテレビよりのメイクで登場した彼女の素性にお気づきの方はに、探偵の素質があるとマジで思います。僅か4シーンとメインの登場人物役でないし、“絡み”がないにも関わらず、僅かなセリフの「」だけで判断できるのでしょうから。彼女、自分の番組で“重要なお知らせ”したのかな? でも、この映画、と東映の作品だからなぁ。


 いずれにしても楽しい作品です。みなさんもどうぞ劇場でお楽しみ下さい。そして、三谷監督の「仕掛け」にハマって、少しでも「政治的未関心」を“卒業”する方が増えることを期待します。

 DVDやブルーレイ化されたら、店でゆっくり鑑賞したいと思います。その前にこの年末年始くらいにフジテレビで放送されるかもしれませんね。

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