ただの物知り ブラウィア=イリカ
「かつての英雄たちの前には、いつも困難が立ちはだかっていました」
簡素な会議机に置かれた愛読書の分厚い背表紙に手を這わせ、震える声を抑え込むために、そこにある先人の偉業を思い出す。
どうしたってちっぽけな自分に、ここにいる皆んなの命運を握るなんて大それたことは、到底できることではなかった。
でも。
「彼らはその度に悩み、悩み、悩み。考えて。そうして、目に見えるかわからないほどわずかな糸口を見つけては、それを手元に手繰り寄せて、成功へといたる地図を織りなしていったのです」
でも、できることが自分にはある。
「たとえわずかであっても、それは必ずやどこかに繋ぐことができるものです。たとえ、たとえ僕らでなくても、きっと誰かがです。正直なところ、僕にはあなた方を無事に返すだとか、国を守る策を成功させるだとか、そんなこと、できるとは思っていないのです」
歯を食いしばっても、心を決めても、弱い自分は『弱い』ことを知っている。だからこそ、馬鹿正直に伝えてしまう。
「だからこそ、ただの物知りの矜持として、あなた方が知りたいことは全知力を以てお答えしましょう。それが僕にできる唯一の、あなた方を英雄へと導くことのできる方法です」
全てを投げ出し、全てを背負う。
全てを任せ、全てを任される。
成り立たないシーソーに自ら乗り込み、仲間と初めて呼ぶことのできた者たちを無理やりに乗せ込んだ。
「僕を英雄に仕立て上げるのは、皆さんにお任せしましたからね」
生まれて初めて、冗句で人を笑わせることができた。
我儘が通るのなら、これを最後にはしたくなかった。
ロスト・ブレイバー・ストーリーズ @takurada00cat
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ロスト・ブレイバー・ストーリーズの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます