ただの物知り ブラウィア=イリカ

「かつての英雄たちの前には、いつも困難が立ちはだかっていました」


簡素な会議机に置かれた愛読書の分厚い背表紙に手を這わせ、震える声を抑え込むために、そこにある先人の偉業を思い出す。

どうしたってちっぽけな自分に、ここにいる皆んなの命運を握るなんて大それたことは、到底できることではなかった。


でも。


「彼らはその度に悩み、悩み、悩み。考えて。そうして、目に見えるかわからないほどわずかな糸口を見つけては、それを手元に手繰り寄せて、成功へといたる地図を織りなしていったのです」


でも、できることが自分にはある。


「たとえわずかであっても、それは必ずやどこかに繋ぐことができるものです。たとえ、たとえ僕らでなくても、きっと誰かがです。正直なところ、僕にはあなた方を無事に返すだとか、国を守る策を成功させるだとか、そんなこと、できるとは思っていないのです」


歯を食いしばっても、心を決めても、弱い自分は『弱い』ことを知っている。だからこそ、馬鹿正直に伝えてしまう。


「だからこそ、ただの物知りの矜持として、あなた方が知りたいことは全知力を以てお答えしましょう。それが僕にできる唯一の、あなた方を英雄へと導くことのできる方法です」


全てを投げ出し、全てを背負う。

全てを任せ、全てを任される。

成り立たないシーソーに自ら乗り込み、仲間と初めて呼ぶことのできた者たちを無理やりに乗せ込んだ。


「僕を英雄に仕立て上げるのは、皆さんにお任せしましたからね」


生まれて初めて、冗句で人を笑わせることができた。

我儘が通るのなら、これを最後にはしたくなかった。

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ロスト・ブレイバー・ストーリーズ @takurada00cat

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