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……撃てない。
「どうしてだろう?」
夏はそうつぶやいて、銀色の拳銃を下ろした。
なんども、なんども繰り返して練習してきた。だから、こんなのあっという間にできると想像していた。とても簡単なことなんだと思っていた。でも、いざとなるとやっぱり撃てない。私は臆病者なんだろうか? やっぱり、なにもやっても中途半端なままの人間なのだろうな。……私は。
そこまで考えて夏は笑った。
「まあ、いいか」
そう。いいのだ。どうでもいい。人生はなるようにしかならないのだ。きっとそう。そういうものなんだ。
夏は銀色の拳銃をホルスターの中にしまいこむと(もう抜いているので、弾丸は入っていない。夏の持っている銀色の拳銃は、最初からもう使用できない拳銃だった)そのまま部屋の中央付近に向かって移動した。そこには銀色のカプセルがあった。夏はその中に入り込もうと思ったのだ。ここは寒い。だから、少しでも寒さを防げないかな? というただそれだけの子供っぽい単純な動機でそうしようと思ったのだ。
「冷たい。優しくない」
カプセルはとても冷えていた。さっき確認したときよりも随分と冷たく感じた。人生は厳しいなと夏は思った。
カプセルの中に入ると夏は丸まって、瞳を閉じて、そのままじっとして、眠るようにして、動かなくなった。私はここでさなぎになるのだ、と夏は思った。そう思うとなんとなくだけど笑いたくなった。いや、実際に夏の顔はにっこりと笑っていた。
「おやすみなさい」夏は言う。
そしてそのまま、本当に夏は銀色のカプセルの中で眠りについた。寒かったせいか本当にすぐに眠ることができた。それはとても深く、とても安らかな眠りだった。
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