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夏と雛は小さな光の中にいて、大きな暗闇の中を歩き続けた。
大きく、深く、複雑な、木戸研究所の中をさまよっていると、夏はまるで巨大な地下迷宮でも探検しているような気分になってきた。
「まるで冒険をしているみたいだね」夏が言う。
「はい。とっても楽しいです」雛は夏を見てにっこりと笑う。
雛は元気よく、どんどん研究所の奥に進んでいく。夏の知らない場所に、雛は黙々と突き進んでいく。
夏も雛にちゃんとついていく。
二人の手はきちんと繋がれている。
もうずいぶんと長く歩いた気がする。
二人は何度目かのスロープ状の階段を降りる。数はもう数えていない。
しかし、その階段を降りた先で風景に変化が訪れる。
階段の先にあったものは通路ではなく、ぽっかりと空いた空洞のようなとても広い空間だった。
「着きました」
雛が言う。
「ここは、どこなの?」少し首を上げて、周囲を見渡しながら夏が言う。
「秘密です」笑いながら雛が答える。
二人は暗い、大きな闇の中を移動する。
二人を照らす小さな光はとても高い天井から、二人のことを照らしていた。その光源は遠すぎてはっきりと認識できない。夏はそれを見て、まるで夜を照らし出す人工の月のようだと考えた。
世界は暗く、とても広い。
でも、からなずどこかには終わりがある。
この場合の終わりは大きな壁となって、二人の目の前にあらわれた。そしてその壁には大きな鋼鉄製のドアがひとつだけ、取り付けられていた。
無骨で暴力的な印象を受ける暗いドア。
それは今まで夏が利用してきた、鮮麗されていて、とても無機質な感じがする宇宙船の中のような研究所のドアとはまったくことのなる印象を受ける異質のドアだった。
まるで戦争の時代に来たみたいだ、と夏は思った。
夏は大きなドアの前に立ち、ドアと壁を見てそんなことを考えていて、そして雛は夏の隣でじっと下を向いていた。
「どうかしたの、雛ちゃん?」夏が問いかける。
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