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 ことん、という音がした。

 それは遥が小さな砂時計を反対にして、テーブルの上に置いた音だった。

 空色の砂の入った小さな砂時計。

 遥は息を吐き、呼吸を整えて、椅子の上で姿勢を正した。

 そして、透明な思考の中で、自分のことを、雛のことを、そしてベットから抜け出して迷子になった夏のことを、考える。

 ……いったいなにが夏を変えたのだろう?

 あんなにこんがらがっていた夏の糸が、今は一本の糸として、綺麗に解けている。遥が何年もかけて、いろんな方法を試みて、努力して、どんなに解こうとしても解けなかった糸が、あまりにも綺麗に解けている。

 どうしてだろう?

 遥は考える。

 でも、わからない。

 少なくとも、その糸を解いたのは遥ではない。そんなことができるなら、とっくの昔に解いている。夏の糸は出会ったときから遥でも解けないくらいにすでにこんがらがっており、その混乱具合は、年を重ねるごとに、複雑になっていった。

 だから遥は仕方なく、夏の糸を解くことを諦め、代わりに糸の端っこを自分の小指に結びつけることにした。夏はその遥の行為を、とても好意的に受け取ってくれた。夏は遥と同じように糸を自分の小指に結びつけた。なんでも遥の真似をしたがるのが、夏の悪い癖だった。

 ドームで再会したときも、その糸は解けてはいなかった。

 確かに糸は夏の小指に結ばれていたし、遥の小指にも糸はちゃんとむすばれていた。だからこそ夏は遥の隠れているこのドームまで、たどり着くことができたのだ。もちろん、糸の絡まりのほうはきちんと一年ぶん、今までよりも余計に絡まっていた。

 ……私は糸を解いていない。なら、この短い間に、夏の糸を解いたのは夏自身ということになる。

 でも、そんなこと可能なのか?

 自分の糸の絡まりを自分自身で解く?

 そんなことは、遥にだって、いや、たぶん世界中のどんな人にだって、きっとできないことだった。

 糸は常に自分ではない、誰かに解いてもらうものなのだ。

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