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 夏はそれから寂しそうな雛の声を聞いて、自分の言葉の失言に気がついて「雛ちゃんは別だよ」と慌てた声で雛に言った。

「……はい。ありがとうございます」

 そう言って雛は小さく笑った。

 それから二人は少しだけ無言になった。


「遥なら、なんて言うだろうね、愛のこと」

「きっと電磁波だっていいます」

「電磁波?」

「遥にとって心とは電磁波のようなものなんです。脳はその発信機。それはお互いに触れ合うことができる。だから愛は、そうですね……。電波を受信すること……、というふうになるのでしょうか?」

「電波を受信すること、か」

 それは確かに遥がいいそうなことだった。とても綺麗なのに、全然ロマンチックじゃない遥。自分の中に綺麗なものがたくさんあるから、夏とは違って遥はそういうことに興味がまったくないのかもしれない。

(それは、幸せなことなのかな?)

 夏と雛は目的のドアの前で足を止めた。

「さあ、行きましょう夏さん。中で遥が待っています」と雛が言った。

「うん。そうだね」夏が言う。

 それから二人は半歩、前に踏み出した。するとドアは勝手にスライドして開いた。そこは木戸雛の部屋だった。夢の中ではない、現実の世界の木戸雛の部屋。

 その部屋の中には木戸遥がいた。

 そしてガラスの壁の向こう側には、本物の実体を持った木戸雛が小さな椅子の上に相変わらず人形のように座っていた。

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