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「どうして急にあなたは私の前に出てきたの?」夏が言った。

「急ではありません。私は常に、夏さんの近くにいましたよ」

「私の近くに?」

「はい。いました。だから夏さんが私に銃を向けたことも、知っています」

「そうなの?」

「ええ。あのとき私は、夏さんの隣で、夏さんの行動をじっと眺めていました。それに夏さんが気がつかなかっただけのことです」

「じゃあどうして、私は急にあなたのことが認識できるようになったんだろう?」

「それは夏さんが、私のことを夢の中で見つけてくれたからです」

「私があなたを見つけたから?」夏が言う。

「そうです」雛が言う。

「愛とは、見えないものを見えるようにすることなんです。夏さんは私を愛してくれました。だから私を見つけてくれたんだと思います」

「私はあなたを殺そうとしたんだよ?」夏が言う。

 その言葉に雛は笑っているだけで、答えてくれない。

「ま、いいけどね」夏は言う。

「はい」雛が元気にお返事をする。

「愛とは見えないものを見えるようにすることだ……。うん。なかなかいい言葉だね」夏は言う。すると顔をほんのりと赤くして雛が笑った。どうやら雛は(夏に褒められて)少し照れているようだ。

「だけど私はもっと単純なことだと思うな」

「単純なこと?」雛が言う。

「私さ、幸せってね、心と体が温かいってことなんだと思っているんだ」夏が言う。

「だからさ、愛っていうものはね、もっと単純にさ、いろんなものが温かいってことだと私は思うんだよね」

 夏の言葉を聞いて雛がうなずく。

「……はい。そうかもしれませんね」

 冷たい手をした雛が言った。

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