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「おやすみ、夏」

 電気を消して、寝室のベットの中まで移動したところで、ようやく遥が口を開いた。

「うん。おやすみ、遥」

 夏はそう言って瞳を閉じた。

 それから遥はすぐに眠ってしまった。

 体は疲れているはずなのに、夏はまったく眠れなかった。

 どうしてもキスのことが頭から離れなかった。

 いや、時間が経てば経つほど、恥ずかしくなってたまらない気分になった。ベットの中で夏の頬が真っ赤に染まった。体も芯から火照ってきた。

 やばい。どうしよう?

 夏がそう考えたとき、遥がごろんと寝返りをうった。

 いつもの夏なら、相変わらず寝相が悪いんだな、と思うくらいの出来事だったけど、今はタイミングがまずかった。

 油断していた夏の前に急に遥の顔が現れた。

 それも夏の顔のすぐ目の前に。ちょうどさっき、地上でキスをしたときのように。

 夏の心臓はドクンと一度跳ね上がった。

 ど、どうしよう?

 と、夏は思った。

 遥の柔らかい唇がそこにある。

 キスしたい。

 あの唇にもう一度触れたい。

 夏はそう思った。

 しかし、それはできない。

 だって、遥は、無防備な状態で眠っているのだから。そんな不意打ちのような卑怯な真似はできなかった。私は遥とは違うのだ。

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