23

 夏はごろんと反対側に寝返りをうった。

 そして自分の気持ちを落ち着かせた。

 それが終わると、夏はそっと音を立てないように気をつけて遥のベットを抜け出した。

 薄暗い寝室の中に時計はない。

 いや、この部屋だけではなく地下には時計も、時計の代わりになるものもなに一つ存在していなかった。今はまだ、現在が夜だとなんとなくわかるが、このままだとそれもすぐに曖昧になってしまいそうだ。

 強いて挙げればコンピューター関連の端末をいじれば時刻を確認できるのだろうけど、それは夏には不可能だった。おそらくすべての端末には遥の生体認証が必要になるのだろう。

 今夏がキスをすれば遥のノートパソコンは起動するだろうか?

 起動してくれれば素敵だ。

 夏はリュックから銀色の拳銃を取り出して、それから寝室を一人で抜け出した。

 ドアが開くことも、警報などが鳴らないことも、予想通りだった。

 ドアが開かなくては夜中に一人でトイレに行くこともできないし、ここで警報が鳴るくらいなら、ドームの入り口ですでに警報は鳴っているはずだった。

 ドームの中に拳銃を、それも夏のような世間知らずの素人が持込めるはずがないのだ。

 指摘されたらコンピュータの指示に従って、靴と一緒に預けるつもりだった。

 でも、それを遥は見逃してくれた。

 故意に見逃してくれたのだ。

 どうしてだろう?

 決まっている。

 私にそれをやらせるためだ。

 夏は音のない通路の中を足音を立てないように気をつけながら移動していく。夏の目的地をあらかじめ理解しているように、天井の明かりは夏の行きたい方向の道を照らしてくれた。ドアも、きちんと全部が開いた。

 やがて夏は一つのドアの前にたどり着いた。

 そこは昼間に案内してもらった、あの全身が真っ白な女の子。

 木戸雛のいる部屋だった。

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