第14話 呪いのサイトの謎を解け!

「…やっぱどこにも写ってないよな~…」


翌日の昼休み。

オバケ部の部室で、俺はそんな事を呟きながら自分のスマホ画面と睨めっこをしていた。


俺のスマホの画面に写し出されていたのは、麻宮先輩が投稿したイルスタの投稿で、先輩が出しているその写真こそ、昨日俺が先輩に渡したあじさいの花だった。


幸い例のあじさいは先輩の手によって綺麗に花瓶にけられている。


…何やらコメント欄では、静馬と有栖川から「もしや盗んできたの?」という麻宮先輩同様、大変失礼なコメントが寄せられていたが、俺はあえてその事に対しては触れるような事はしなかった。


俺が興味があるのはむしろ、飾ってある花の写真の左下部分。


例の手形がついていたベランダのガラス戸の部分だった。


「な~に見てんの?」


そう言って椅子に座ってスマホを眺めている俺の背後から、有栖川未亜が抱きつくような形で覗き込んできた。


背後からまわされた有栖川未亜の腕が俺の首元へとわずかに触れる。


その皮膚はほのかにひんやりと冷たいはずなのに決して不快な温度なんかではなく、むしろその表面は非常につるつるとしていて、肌自体はとても柔らかいはずなのに、まるで高級な陶器に触れているかのような肌触りだった。


…同じ人間のハズなのに、女の子ってだけでこんなにも違うもんなんだな。


スマホの画面を凝視しながらも、無意識にそんな事を考えていた俺に対して静馬がポツリと呟いた。


「青色のあじさいの花言葉は、『辛抱強い愛情』…か。やるね~、ゆうやん。」


そう言って意地悪そうな表情を浮かべながら、スマホでの検索結果を俺に向かって指し示す静馬。


「…そっ!そんなんじゃね~よっ!!」


静馬のその言葉に、俺は後ろから抱きついていた有栖川未亜の腕を慌てて振り払うと、顔を赤らめながら静馬に向かって激しく否定をした。


「え~!麻宮ちゃんばっかりずっる~い!未亜も勇也からの『辛抱強い愛情』が欲し~い!!」


そう言って俺に振り払われた直後であるにも関わらず、今度は両手で俺の腕にしがみついてくる有栖川。


「未亜ちゃん、ゆうやんの事が相当お気に入りなんだね。」


そう言って手にしていた雑誌をパラパラとめくりながら笑顔を浮かべる静馬。


「厳密に言えば未亜がお気に入りなのは勇也だけじゃなくて、世界中の男なら全員お気に入りってトコね。だから未亜にもその『辛抱強い愛情』ってヤツをちょーだい!踏もうが蹴られようがそれでも愛してくれるだなんて、こんなに便利な事ってないじゃない!」


そう言って何故か細い片足を椅子にあげ、ガッツポーズなんかをしながら力強く瞳を輝かせている有栖川未亜。


なにやらその瞳と背後には、どこかしら熱く燃え盛る炎まで見えてきちゃいそうな勢いである。


「…そりゃ完全に奴隷か何かと間違えてるだろ…」


「…未亜ちゃんには、あじさいの花よりも雑草なんかを送った方がよさそうだね。」


有栖川の様子を見て、ガックリと肩を落とす俺の背後で、これまた静馬が呆れた様子でそう呟いた。


「…あれ?ところで伶奈さんは?」


「麻宮ちゃんなら昨日に引き続き、坂本先生に捕まっちゃってるよ~!」


「…ん?麻宮先輩、もう日直は昨日で終わったんじゃねぇのか?」


静馬と有栖川のそんなやりとりに、純粋に疑問を投げ掛ける俺。


「ダメダメ!今日の日直が田中ってゆ~超ヤンキーでさ~、全ッ然言うこと聞かないもんだから坂本先生ってば、結局言いやすい麻宮ちゃんに雑用頼んでるんだよね~、真面目すぎるんだよ。麻宮ちゃんは。」


そう言って机の上に腰かけると、自分の髪を指でくるくるとさせながら呟く有栖川。その瞳は憂いを満ちている。


「ひどい話だな、そりゃ。お前の時は大丈夫なのか?」


「未亜が日直の時は、仕事終わるのが超早いからね~。ほら、なんかクラス中の男子達が未亜の仕事を手伝ってくれるし。むしろこぞって未亜の仕事を奪いあってるってカンジ?だから未亜、日直なんてまともにやったことないし。」


そう言って今度は自慢気にツインテールの先をかき上げる有栖川。


…なんて馬鹿なヤツらばかりなんだ…2年B組の男共は…


完全にあきれ返ってしまった俺に向かって、有栖川はさらに言葉を続けた。


「あ、でも今日の夕方の部活には来れるみたいよ~、さすがに部長が2日続けて部活休むってぇのもどうかと思うし。一応未亜の方からも坂本先生に、麻宮ちゃんを夕方の部活には必ず出すように釘刺しといたからさ…という訳で~ぇ…」


そう言いながら自分のカバンをごそごそと探っていた有栖川は、中から一枚の紙を取り出した。


「…これは…?」


思わず有栖川未亜から差し出されたその紙を静馬と同時に覗き込む俺。


そこには、麻宮先輩のものであろう丁寧で綺麗な字で書かれた、『例の呪いのサイトについて調べておいて下さい』という文字が記されていた。



同日、放課後。

新校舎女子トイレ。

他の生徒達のほとんどが部活や帰宅をしている中で、二人の女子高生はそこで時間を潰していた。


洗面台の前で軽いメイクを施しながら、一人の女生徒が呟いた。


「…ねぇ、やっぱあの例の呪いのサイトって、偽物だったんじゃない?」


その言葉に、もう一人の女生徒は洗面台にもたれかかりながら、スマホを片手に退屈そうに答えた。


「…確かに。全然ケロっとしてるモンね。」


「…だる。せっかく何回もアクセスして名前書いたのに全然意味ねーじゃん。」


「ま、呪いっぽい事って言えばさ~」


「昨日の日直の時から、坂本にやたらと雑用押しつけられまくってるって事くらいだけどね~!!」


そう言って一斉に笑いはじめる女子生徒達。


その瞬間、流れる水の音と同時に閉まっていたはずの個室の扉が開いた。


スマホを見るのと、自分のメイクをする事だけに集中していた二人は、用を済ませて出てきた人間に対して、一瞥すらすることなく、無言で少しだけ洗面台の場所を開けた。


個室から出てきたその者は、二人の間を縫って洗面台の前へと立つと、丁寧に自分の手を洗いはじめた。


相変わらずスマホとメイクに夢中になっているその二人は、その者が一体何者であるかなど、この時点では知るよしもなかった。


彼女は丁寧に自分の手を洗い終えると、可愛らしいウサギ柄のハンカチで濡れた手の水滴を拭い去り―――――…


そしてそのまま同時に二人の首へと手をかけると、勢いよく自分の元へと引き寄せた。


「痛ぇ~な!」

「なんだよ!?いきな…り!?」


無理矢理引き寄せられた事に驚いた二人の女子生徒は、口々にそう罵声を放ったが、その者の正体に気がついた瞬間、怯えた表情で固まってしまった。


メイクをしていた方の女子高生の顔など、もはや無理矢理引き寄せられてしまった衝撃で、口紅を書く位置まで大幅にずれまくっている。


「…で?一体誰の名前を呪いのサイトに書き込んだって…?」


そう言って野太く低い声で二人に問いかけたのは、不敵に笑う有栖川未亜の姿であった。







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