第9話 卒業
卒業式に桜が舞う。などと誰が言ったのだろうか? まだ蕾は硬く、咲く気配すらない。寒くて、寒くて、さみしさが込み上げてくる。
たいして思い出ができたわけじゃない。充実した高校生活を過ごしたか? と聞かれると、まったくだった。というし、やり直せるなら、やり直したいという。
畠山が相変わらずの顔で
「山辺ぇ」
と抱きついてきた。
畠山は、奴も二校ほど失敗して、県外の学校に行くことになっている。
「女子じゃないし、そういうマメじゃないとお互い解っているが、連絡くれよな」
「お前なら、向こうですぐ友達出来るよ」
と、しんみりする。
「みんな、ありがとうね」
キラキラした梓がそういうと、女子が集まり、抱き合い涙する。
青春の一ページだ。
梓は県外の大学に一発合格。かなりの高レベルで、競争率も高そうな学部に行くのだという。松山も同じ大学を受けたらしいが落ちて、別の大学に行くらしい。
「進路は違うけど、みんないつまでも最高の仲間よ」的な挨拶を、恥ずかしげもなく言えるのは、卒業マジックだと思う。
梓は泣きながら太郎のところに来た。
―今までありがとう―と言おうとしている太郎など目もくれず、まるで、最初から、ただのクラスメイトとしか見ていない行動で素通りし、隣のクラスの女子と抱き合っている。
「お前、最後に告白するのか? 辞めといたほうがいいぞ、ああいうのを、高嶺の花というんだ。俺たちとは違うんだ」
畠山に言われ、―そうだった―と気づく。
卒業式後は、できたばかりのカラオケ店に流れ込んだが、一度もマイクが回ってこなくて、参加費千円を支払った。
なんてつまらない高校生活だったことか。
「でも、やり直したい?」
「そりゃ、アニメとか何とか見ていたら、充実した高校生活というのを過ごしてみたいだろ?」
「私は、そのままのタロちゃんを見たいけどね」
太郎は辺りを見渡した。人気のない、少し日が伸びて明るくなった家の近所。
家が見える。
隣家はここ十年空き地だったが、いよいよ家を建てるようで基礎工事が始まった。
太郎 18歳。さみしい高校生生活の終焉であった。
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