二章 伝説と予言の青い薔薇、そして殺人鬼3




 朝です。今日も元気にシャルランです!


 朝ごはん(光合成)を終えたご主人さまは、宮殿へ行くための正装に着替えました。青とか黒とか、白なんかも似あうんですけどね。

 でも、今日は、地味なブルーグレーの服。

 青い髪は流行りの白髪のカツラでかくしました。

 わざと地味なカッコをして、なるべく目立たないようにしているんです。

 人間に目をつけられると、ギロチンで、火焙りですから。違うって言ってるのに……。


「シャルラン。さっさと行って、さっさと帰ろう。辻馬車をひろっておくれ」

「はーい。広場まで行けば、ひろえますよ」


 いつも辻馬車がたむろしている広場へ歩いていくと、なんだか町がさわがしいです。


「また出たらしいよ」

「例のやつか」

 すれちがう人たちが、そんなことをささやいていました。

 おかげで、ご主人さまが、しりごみしちゃったじゃないですかぁ。


「……やっぱり、僕、帰ろうかな」


 あたしは急いでご主人さまの手をつかまえ、同時に道行く人にたずねました。

「何かあったんですか?」

「例の人殺しさ。港のほうで、また死体が見つかったらしい。酒場の女だそうだよ」


 ウワサの連続殺人犯ですね。

 また女の人が犠牲になったようです。

 心が痛みます。


「イヤですねぇ。これで何人めでしょうか。ご主人さまもウワサはご存知でしょう?」

「知らないよ。そんな恐ろしい話、初めて聞いた」


 そうか。ご主人さまはお屋敷から一歩も外へ出ないんでした。


「キレイな女の人が狙われるらしいです。ご主人さまも気をつけてくださいねぇ」

「シャルラン。僕はいちおう、男ってことになってるんだけど……」

「ご主人さまは女の人よりキレイですから! じゃあ、お城へ行きましょう」


 辻馬車に乗りこんで、お城の門前まで来ました。

 城門は兵隊さんたちが見張っています。でも、人形師のベリーヒトだと名乗ると通してくれました。

 宮殿に入ると、長いろうかのむこうから、フローランさんが走ってきます。


「ああ、ベリーヒト。来てくれたのか。よかった。女官に話はしてあるから、姫さまのところへ行ってくれないか。私はこれから、断崖の魔術師のところへ行かなければいけない」


 思わず、あたしはつぶやきました。

「あの残念な感じの人ですか。ウワサって、あてにならないですねぇ」

「……そうなのか?」

「見たら、フローランさんも、そう思いますよ。すごく、かわいそうな気になります」

「…………」

 フローランさんは首をかしげながら去っていきました。


「あたしたちも、あとで会いに行かないといけないですねぇ。ご主人さま」

 あたしが言うと、ご主人さまは憂うつそうな顔になりました。なんでしょうか? ご主人さまのお兄さんなのに。


 ご主人さまは話をそらします。

「お姫さまは、どこにいるの?」

「はい。こっちです」

 あたしはご主人さまを案内して、後宮へまいりました。


 お姫さまの部屋まで行くと、姫さま付きの侍女さんが、ため息をついています。

「姫さまなら、あなたがたが来ると聞いて、お庭へ行ってしまわれました」

 ご主人さまは、あたしのかげにかくれているので、かわりに答えます。

「そうですか」


 侍女さんは悲しげに言いました。

「ほんとは姫さまは、おさびしいのです。母君を亡くされたばかりでなく、父君は国王として、ご多忙の身。いつも、お一人ですから。ベリーヒトの天才的な腕前は、わたくしも聞きおよんでおります。どうか、その腕で、姫さまをおなぐさめしてください」

「わかりました!」


 おお、ご主人さまが、やる気です。

 さっそく姫さまを探しに庭へ行きます。

 中庭は色とりどりの薔薇の花が咲きほこっていました。

 ご主人さまは、そばの黄色い大輪の花に手をあてて、うなずきました。

「姫さまは、あずまやにいるそうだよ」


 いいですねぇ。植物と話せるの。あたしも、なんとなく、お花の気持ちくらいはわかるんですけど、お話はムリです。


 薔薇の並木に、つる薔薇のアーチ。

 赤、白、ピンク、オレンジ。

 いろんな色の薔薇が宝石のよう。

 歩いていくと、たしかに、お姫さまは白い屋根のあずまやのベンチにすわっていました。

 そばかすだらけのよこ顔。

 あまり王さまには似ていらっしゃいません。


「姫さま。探しましたよ」

 あたしが声をかけると、姫さまは逃げだそうとしました。


 すると、ご主人さまは近くの薔薇の葉を一枚つんで、指さきで丸めました。

 葉っぱは小さな緑色の小鳥の形になったかと思うと、すうっと羽ばたいて、姫さまのほうへ飛んでいきました。

 姫さまが目を見ひらいています。

 ご主人さまは笑いました。


「お気に召しましたか? 僕の小鳥。でも、これは材料が葉っぱだから、葉が枯れるころには、もとの姿にもどってしまいますけどね」

「だ……誰? 断崖の魔術師? 魔法なの?」

「僕は人形師ベリーヒト。魔法というか……まあ、カラクリです」


 ほんとは魔法なんですけどね。


「薔薇の花が言いました。いつも一人で泣いているお姫さまがかわいそう。だから、あなたのために葉をつむことをゆるしてくれました。つまれれば、薔薇だって痛いけど。花は、みんな優しいのです」

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