43.変に習いすぐに慣れる

君なら上手くやれるさ、と村へと戻って行くシュロさんを見送りながら、俺は池の事を思案していた。

俺がいなくなった後も、水の確保がし易くなるように村に水を引くつもりだったが、川から水を引いて溜め池を作るのも悪くない。

窪みの場所も道からそう遠くなく、比較的安全な村の西側だ。

池周りをある程度切り開けば、見張りの視野にも入り易くなる。

そこまですれば水を汲みに行ける人も多くなるだろう。


溜め池を作るとしたら、まず水を引いてこなければいけない。

水路を作るとなると、モフモフ達が作った溝だけではすぐに詰まってしまう。

木の板でサイドを固め、土や葉と言った水路を詰まらせる物を遮断しなければならない。

この足で北の川まで水路を引きに行くのは自殺行為。

先に板を作ってしまおう。

材料となる擦り切れた丸太は山と積もっている。

多めに作って、余った板は家造りの資材にでもしよう。


などと考えていると、草が揺れ角兎が飛び出してきた。

慌てて何もできない俺の前を横切り、そのまま巣穴へと飛び込んでいった。

そう言えば狩りの最中だったな。

このまま狩りを続けても集中できそうにない。


「一旦、切り上げるか」


俺は狩りの合間に取っていた野草を渡しに村へ戻った。


何かを摩り下ろす村長に池の許可を貰い、その足で窪みのある場所を目指す。

念の為にモフモフ二つを連れて来ている。

残りのモフモフ達は村の仕事を手伝っていた。

仕事の出来るペットとして活躍しているようだ。

ちなみにナビは、ナビゲートの出来ないペットとして暗躍している。


道中は何事もなく、無事に窪みへと辿り着いた。

窪みの中にも育ちは悪いが、草木が生えている。

まずは木を伐り、切り株を引っこ抜いて、小さな草木も抜いた方が良いだろう。

窪み周りの土も崩れ易い。自然な池っぽくしたかったが、木枠で囲むか。

ただ水を流せば良いと思っていたが、やる事は意外と多そうだ。

実際やるのはモフモフ達だけどな。俺の仕事は現場監督。


窪みの周りもちゃんと確認した後、道まで戻った俺は、村の見張り台へ目を向けた。

村の左右に小さく見張り台が確認できる。

今日は左側に見張り人がいるから、明日は右側だろう。

向こうの方が目が良いはずだ。取りあえず手を振って確かめてみる。

暫くして見張り人も気付いたのか、手を振り返してくれた。

警戒範囲に入っているなら安心だと、ほっとした俺の横でモフモフたちが飛び跳ねながら手を振っていた。

この短い手を振ったとして、見張り人に見えているんだろうか。


当面の俺の仕事は、最も日の高くなる昼前後を池周りの整備に当て、残りは板作りだ。

窪みの中を平らにしつつ、木枠を打ち込む作業も併せて行う。


「そこで必要になるのがこれだ!」


効果音と共に、外套の中に隠し持っていた木槌を素早く取り出し、自慢げに掲げる。

モフモフ達に見上げられ、静かな時間が過ぎた。

後悔を抱きつつ、俺は顔を赤くしながらモフモフに木槌を渡していった。

モフモフの体格に合う様に、打撃部分を大きく柄の部分は短くしてある。


仕事が終わるとモフモフ達は道に出て、見張りに飛び跳ねながら手を振るようになった。

俺としてはこちらが見えているのか確認しただけだったが、モフモフは毎回手を振り返してくるまで辞めない。

迷惑になるからと辞めさせようとしたが、俺のいう事は聞かずやり続けている。

見張りの人にも癒されると好評だったので、そのままにしておいた。


もう一つモフモフがやるようになった事がある。

ふさふさの毛の何処からか取り出した木槌を効果音と共に掲げ、それを周りのモフモフたちが冷ややかに見るというものだ。

木槌を使う前になるとモフモフは集まり毎回これを行うのだ。

はっきり言って俺の醜態を習慣にしないでほしい。

これも止めても無駄なのでやりたいようにやらせている。


窪みの淵はかなり崩れ易い土のようで、作業中もボロボロと崩れてくる。

土砂崩れの様に窪みに流れ込んできている部分もある。

先に木枠を組み土の流入を防ぐ、更に木枠の隙間に土を詰め込み固めていく。


「そして、仕上げはこれだ」


俺は土の玉を木枠の淵に放つ。地面に穴が開いたように凹んだ。

これを連続で放つ事により、踏み固めるより固く崩れ難くなるのだ。

自慢げに笑う俺の前にモフモフが現れる。

不意に出した木槌と一連の習慣。

モフモフが地面を叩くと、俺と同じように地面が凹んだ。


「なんだと!」


悔し気な俺にモフモフが不敵に笑う。

俺とモフモフの間に激しい火花が散った。


俺とモフモフの地面を固める熾烈な戦いが始まる。

凹んだ地面に土を盛り、更に固めていく。


「やるな、モフモフ! だが俺には隠し技がある!」


身体強化でスピードの増した土の玉に、驚愕の表情を浮かべるモフモフ。

だがモフモフも負けてはいなかった。

回転を上げ叩きつける木槌は、更に地面を固くするのだ。


白熱した戦い。鈍い音が辺りに木霊する。


決着は直ぐに着いた。魔力切れである。

身体強化は威力を上げはしたが、回数を減らすという諸刃の剣だったのだ。

立ち眩みで崩れ落ちる俺の前で、モフモフは木槌を高々と上げた。

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