42.長すぎる前置き
「村長の道が閉ざされ、ルアファが目を付けたのは、次に地位のある狩人だった。村長が村を収め、狩人が村の外を収める。これが村を大きくする為の掟。ルアファは自分が狩人になれない事を知って、娘に託したのだ」
だからシュロさんは何度も断ったのだろう。
ルアファのエゴの為、クメギは狩人になったのだ。
クメギはそれを知っていながらシュロさんに頼んだ。
「ルアファは子供の頃から、すごく父親を尊敬していてね。たまに遊んだ時なんかは、すぐに父親の名前が出て来たもんだ」
ルアファの父は保守的な村長として、村を発展させていった。
シュロさんが青年に成った頃、村は爆発的に発展し、村長を脅かす存在が出て来る。
新しい時代だと村中で騒いでいたという。
ルアファの父は身を引き、息子に村長の座を譲る事で家系を守った。
この事があったから、地位について教え込まれたに違いない。
次男であろうとこんな世の中だ。
何時、長男が命を落とすとも限らない。
ルアファが村長になる道もあったのだ。
しかし、新しい村でも村長になれず、村長を補佐する地位にまで落ちてしまった。
地位を取り戻すためには、娘であっても狩人にするしか道が無かったのだろう。
「ルアファは地位に固執する性格になってしまったが、それは環境がそうさせてしまったのだ。だがクメギは違う。クメギは父の思いを叶える為に狩人になった」
俺がもし何も知らずに狩人を押し付けられたら、逃げだしていたに違いない。
クメギがどれほど苦労したのか知る事は出来ないが、シュロさんの弟子として教える立場にまでなった。
凄いとしか言いようがない。
「私は教えるのが上手くない。それでもクメギは、必死に私から学ぼうとしていた。すぐに投げ出すだろうと考えていた私は、クメギの必死さに釣られ、気が付けば必死に教えていたよ。それでも上手くいかない事もある」
「それは何ですか! それは!」
のめり込み過ぎて、俺より先にナビが聞いてる。
どういう状況だよ、と思いながらも俺も同じ言葉を吐く。
「対格だよ。クメギは小柄なまま余り身長が伸びなかった。村の男は全員、狩人の経験を積んで大人になる。筋力は人一倍頑張っても同等。そうなると体格差で他の男達に負ける」
クメギは成長が早かった分、行き詰まるのも早かった。
シュロさんは自分のやって来た事を不器用ながらも変わりなく教えていた。
それがいけなかった。
小柄なら小柄なりのやり方があると気付けなかったシュロさんと、それでも乗り切ろうとするクメギ。
「二人とも進展がないまま時だけが過ぎていった。そして狩りの最中、
狩人と言えど群れる魔物とまともにやり合う力はない。
必死に村まで逃げ、村人総出で追い返した。
「村長が膝を悪くしたのはその時だ。村長は自分の怪我を押して、村人の治療を優先させた」
「そんな話はどうでも良いのです!」
血走る眼でナビが言い放っていた。
聞こえてないから良いが、白熱するナビは見境が無いな。
「一番重傷だったのはクメギだった。村にある薬草もそれほど優れた物ではなく、意識が戻らないまま数日が過ぎた」
傷ついた村を立て直す傍らクメギの治療は続き、怪我の支障もなく体を動かす事が出来るようになる。
怪我が治り狩人として復帰するまでの期間、クメギは痺猿を観察し続けた。
痺猿対策だと思っていたが、それは違った。
クメギは自分の体格にあった師匠を見つけたのだ。
停滞していた事が嘘のように、クメギは狩人としての力を付けていった。
「それで今に至るって事ですね」
「まあ、長くなったがそういう事だ」
ナビが感動して何か喚いていたが、無視して話を続ける。
「話を聞いて分かってくれたと思うが、クメギは人に対して人一倍に気を遣う性格だ」
「俺に対しては気を使っているように見えませんけどね」
「それは戸惑っているからだと思う。身内だけでやってきた中に君が入って来たのだ。どう接して良いか分からないのだろう。今はただ裏目に出ているだけで、君達も仲良くなれると信じているよ」
こちらとしても下手に争うつもりはないし、シュロさんに心配させておくのも気が引ける。
「わかりました。仲良くなれるように努力はします。でも、無理だったら諦めて下さいね」
俺の言葉にシュロさんは笑顔で礼を言った。
「前置きが長くなったが、話したい事は他にあってな」
なんだろう。俺の建てた家が欲しいとかだろうか。
「北の森に伸びた道だが……」
モフモフが木を引きずって抉れた地面の事だ。
今度は俺が説明する番になった。
モフモフが暴走した事、俺が悪くない事を話を盛って伝えた。
これで森を傷付けた事を責められないで済む。
「私はてっきり、北の川からすぐそこの窪みまで、水の道を引いたのだと思っていたよ」
話を聞き終えたシュロはそう言って笑った。
しまった。苦情の話じゃなくて手柄の話だった。
これでは全てモフモフの功績じゃないか。
「つくづく運のない……」
頭を抱える俺の頭上で、ナビの冷静な声が響いた。
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