41.俺と仲人と親と子
足の具合を見つつ、俺は村の付近で狩りをしていた。最近の日課となっている。
狩りとしていると言っても獲物は見つかっていないし、いる気配もない。
巣穴らしいものは見かけたが、違ったのかもしれない。
場所を変えようと立ち上がった所へ、シュロさんが現れた。
「まだ日のあるうちにぶらついてるなんて、珍しいですね」
「最近、クメギを主体として狩りをする日を設けてな」
「あのクメギが狩りの指揮を?」
「ああ、教えられる事は全て教えてある。後は人に教えながら狩りを学んでいく事で、クメギはもっと成長するだろう」
「教える立場にねえ」
クメギには出会った時から嫌われていた記憶しかない。
何かを教わったこともなく、取っつき難い印象を持っていた。
「確かに親譲りで頑固な所もあるが、狩りのコツを知るのが上手い。だから呑み込みが早かったのかもしれないな。そして、コツを知っているからこそ、教え方も上手いんだ。君も教わってみると良いよ」
シュロさんも俺に対するクメギの態度に気付いているはずだ。
クメギが何かを俺に教えるはずがない。
俺は何も言えず、黙ってシュロさんを見返した。
「彼女は責任感もあり、気遣いの出来る優しい子だ」
「だからってクメギが俺に教えると思いますか。俺だって優しくされてれば突き返したりしませんよ。でも、あからさまに嫌っている相手に近づく気にはなれません」
今度はシュロさんが黙る番だった。
シュロさんも何かを思って俺とクメギの仲を取り持とうとしてるのか。
しかし、人の関係というのはそう簡単にはいかないのだ。
俺だって社会人になり、嫌な奴とも会社で顔を合わせてきた。
何とかしようと動いた時もあったが、結局はお互いが嫌な思いをするだけだった。
無理に合わせた所で、合わない奴とは合わない。
当たり障りのない会話をしながら、距離を置くのが一番。
君子危うきに近寄らずの精神で、あいつとは気が合わないと思いながら生きていくのがお互いの為なのだ。
一瞬、懐かしい思い出と共に嫌な顔を思い出し、すぐに消そうと頭を振った。
それは違う顔に変わると、疑問となり俺の口から零れる。
「もしかしてクメギの親ってルアファって人ですか?」
「ん? ああ。そうだが、ルアファに何か言われたのかね?」
「え、いや……この前、村長の家で……」
散々、悪魔の様に言われたな。
シュロさんは少し考え、納得したように頷いた。
「ああ、確かに、ルアファとクメギは親子だ。だからと言ってクメギが本心から君を嫌っているのではない。親に気を使っているのだ。そして、私にも……」
親にあそこの子とは付き合っちゃいけませんと言われて、あからさまに無視をするのは、ドラマか何かで見た事がある。
子供としては、親に逆らってまでその子と付き合う考えには至らない。
だからと言って波風を立ててまで反対しようとも、良い結果にはならないだろう。
シュロさんにも気を使っているというのは、師弟としての関係を言っているのだろうか。
「君は、クメギが女の身でありながら狩人をしている事を、不思議に思わなかったかね?」
「言われてみれば、狩りに連れて行ってもらった時も、クメギ以外は男ばっかでしたね」
この世界が男女平等の世界かは分からないが、同じ生活をしていれば、男性ホルモンの多い男の方が筋力が付く。
力が強く体格も優れている方が、狩りに有利なのは言うまでもない。
それは数か月前の俺と今の俺を比べて、どっちが狩りに向いてるかを聞いているようなものだ。
「クメギは体格が優れている訳でも、狩りが好きだったという訳でもない。ルアファが望んだから狩人になったのだ」
これがテレビだったなら、今明かされる衝撃の事実とかナレーションが入って、CMに行くに違いない。
「これは目が離せません」
ナビがいつのまにか噛り付いて見ている。
お前テレビ好きだったのか。
「私はルアファの考えに反対だった。当然だ、今まで槍さえ持った事のない小さな女の子がなれる様な仕事ではない。男だって何時、命を落とす事にもなり兼ねない危険な仕事だ」
これは聞かずにはいられない。
ナビにせっつかれる様に俺は問う。
「それが、なぜ……」
「ルアファに再三頼まれた。何度断ろうが、執拗に付き纏われた。それでも私は断り続けた。しかし、クメギにも頼まれたのだ。まだ何も知らないような小さな子にだ。クメギはまっすぐ私を見ていた。その目は親の思いを知って、それに応えようとする強い意志があった」
「何故、クメギを狩人にする必要があったんですか?」
「地位だよ。ルアファの父親は元いた村の村長でね。彼は次男だった。当然、長男は親の後を継いで次の村長になるだろう。ルアファが村長となるには他の村に行くしかない。しかし、彼はこの村の村長にもなれなかった。更にルーフという時期村長もいるとなれば、村長の道は閉ざされたも同然だ」
俺は逸る気持ちを抑え、シュロさんの言葉を待った。
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