第4話

幸田さんの奥さんが死んだのは、先月の末。


とすればあの足音の主は、母親を探しているのではないのだろうか。


今は家からいなくなってしまった母親を。


そう考えると、なんだか物悲しくなってきた。



その後、大村さんところの小学生が、キュッキュッと言う足音を聞いたと言い出した。


澤部さんところの女の子と同い年の男の子だ。


私はその後もキュッキュッを何度か耳にしたが、私が高校に入学する頃を境にして、全く聞こえなくなった。


あとの二人はまだ聞こえていたようだが、その二人も高校入学の前後から聞こえなくなったそうだ。



私は高校卒業後に県外の大学に入り、大学を卒業すると地元の会社に就職をした。


その後母が病気で亡くなり、父と二人で住んでいたが、やがて彼女が出来て結婚をし、妻と三人で住むようになった。


そして可愛い女の子が生まれた。


私はその子を美真と名づけた。



美真が三歳になったばかりのことだ。


夕方に二人して家に帰ろうとしていたとき、美真が突然ちょこちょこと走り出した。


「おい、どうした?」


美真はそれに答えず、私の家の前を通り過ぎ、そして止まった。


「おい、美真?」


私が近づくと、美真は前方をくいいるように見つめながら言った。


「パパ、聞こえるよ。キュッキュッって音。この音、なに?」


私は理解した。


母親どころかもう父親すらもいないというのに、あの子はまだここにいて、今も母親を探しているのだということを。



        終

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キュッキュッ ツヨシ @kunkunkonkon

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