Chapter - 1.3 Information

 

 今日の宇宙日誌の記録は、途中半とちゅうなかばだが、ここで小休止だ。

 私は記録を切り上げ、ブリッジへ戻ることにした。処女航海となるSSアーク号の巡航状況を逐次ちくじ確認するため。・・・・・・と言うのは口実で、私の大事な天使の顔を、少し見たくなったというのが本音だ。


「お疲れ様です! キャップ」

 OPEルームに入室するや否や、愛しい声が耳に届いた。この声は、いつも私の心をやしてくれる。

 ブリッジ中央に構えるキャプテンシートの隣で、ナビゲーター席に座るケイトから、ねぎらいの言葉であった。


「ケイトこそ、お疲れさん! よく分かったね?」


「分かるわよ! 足音で・・・・・・」


 振り向いた天使の笑顔が、私にはまぶしかった。


「それは、それは・・・・・・」


「何年? 付き合ってんのよ! ワタシタチィ」


「それも、そうだ!?」

 私は、苦笑いを隠すように俯き加減で、後頭部を何度もいた。


「・・・・・・ところで、宇宙航路は順調かい?」


「ええー、順風満帆じゅんぷうまんぱんって、このことよ! ・・・・・・この新型宇宙船、サイコウ!」

 ケイトは、声を弾ませながらこぶしを突き出し、親指を立てた。


「そりゃー勿論さ、自慢のスターシップ、だからナ!! ・・・・・・って言うか? コスモナビゲーターが、優秀だからさぁ!」


「あらっ、お世辞のつもり? 今は、オートクルーズ中よ!」

 ケイトは笑顔をふりまくが、どこかその目は泳いでいた。


「あっ、そっか? 新型のオートパイロットの安定感は、バツグンだね?」

 私は、照れ隠しに慌ててその場をつくろった。


「長い宇宙航路も、始まったばかり。・・・・・・腕の見せどころは、これからよ! 任しといて、この優秀なナビゲーターに!」

 真顔で答えるケイトであるが、その目は三日月形に笑っていた。


「ありがと! それは頼もしいかぎりだ。・・・・・・では、後はよろしく!」


「ラジャー、キャプテン!」


 私は、ブリッジを後にすると、宇宙日誌の続きをるために、ハウスへと戻った。

 私の大事な天使の笑顔から、今日も元気をもらうことができた。どんな良薬にもまさる心のビタミン剤だ。


        ★ ★ ★

 

◆◇◆【宇宙日誌】西暦2201.4.16(Part2)ログイン⇒

 本日再びのログインとなるが、今回は、本船新型スターシップについてしるしておく。

 因みにBGMは、私の大好きなアルバムから一曲、 ♯ Well Come to My Ship ♪ をセレクト。ドライブの効いたエレキギターに、シンセサイザーのうなり声がからみ、こころも踊る軽快で楽しいナンバーだ。


 本船SSアーク号(Star-Ship ARK)は、その名が示す通りの箱型で、宇宙船には相応ふさわしくないフォルムだ。しくも旧約聖書の『ノアの方舟』伝説を参考に設計された。

 全長120m、全幅20m、全高12m。黄金比と呼ばれるもので、伝説の方舟と同じ比率で建造されている。設計者は私の父だ。


 父は、「旧約聖書の記述は科学的根拠に基づく」という説を支持。聖書の伝説の多くは、超古代文明の実話が時を経て神話化したのだという。方舟伝説もその一つ。父は信者というより聖書マニアなのだ。私の名前の由来ゆらいしかりである。


 SSアーク号は全ての部分が宇宙空間で建造された初の大型宇宙船。それまでは、宇宙船のほとんどの部品が地上で製造され、宇宙空間で組み立てられていた。ユニット方式の造船方法が当たり前だった。これでは時間が掛かり、運搬コストもかさむため造船費用は莫大なものだった。

 全長100mを超えるような大型船の製造などは、夢のまた夢の話であった。


 COSMO ISLANDに新設されたスペースドックで、新型宇宙船は製造された。無重力空間の理想的な条件の下、従来の十分の一という短期間に、低コストで、しかも高精度である。例えば、簡単な回転部品のベアリング一つをとっても、完璧なる真球で出来ている。


 宇宙船内部は三層構造をとる。

最上層は、オペレーション・フロア――――

 最先端には、司令塔のブリッジやコックピットが納まるOPEルーム。

 中央部は、ミーティングをはじめ、各種軽作業を行う、MEETルームが広くとられている。

 船尾は、天体物理学者のアルバート・フォレスト博士自慢の展望室となる。ガラスや樹脂に代わる新素材、透明特殊合金製で覆われた繋ぎ目の無い丸天井からは、星々が360度のクリアービューで広がる。これぞ名付けて深宇宙天文台だ。

 このフロアには、フォレスト博士が管理責任者として常駐する。


中間層は、コミュニティ・フロア――――

 家族ごとに個室で区切られたハウスと呼ばれる居住区が占める。各ハウスは、ファミリー向けの構造だ。5人平均の6家族の当コロニーでは、充分余裕がある。

 更には、医療施設や娯楽設備も完備する。メディカルルーム(MEDルーム)は、各種検査はもとより、外科手術も可能。まるで移動する小さな病院だ。

 娯楽室は、長旅のストレス解消のために、映像や音楽の鑑賞ができるAV設備から、運動不足解消のためにトレーニングルームまで揃う。

 このフロアには、航空医官である私の母ユリア・エイロンが常駐する。


最下層は、サイエンス・フロア――――

 科学実験ラボや貨物室などがある。特筆すべきは、ハイドロゲルフィルムで植物栽培を行う『食糧プラント』がフロアの大半を占める。

 そして、地球生物を代表する貴重なDNAサンプルは、このフロアの中心に位置する保管庫に、大切に納められている。

 このフロアは、フライト・エンジニアのイワン・スミノフ博士の管理下となる。


 SSアーク号の推進装置は、最新型のCF-PREを搭載する。夢の低温核融合(Cold Fusion)が生むプラズマ放射を用いた最新のPlasma Rocket Engine。生物に有害な放射線の放出を完封する磁気ジールドも完備している。


『慣性質量を考慮しても、光速度の半分は、楽に超える!』と、チーフエンジニアのジョー・ヤシマは、腕組みをしながら明言した。


 ロケット工学の第一人者である彼の計算によると、1億kmを超える火星航路は、3週間を要する予定だ。人類初の有人飛行が行われた21世紀当時では、300日にも及ぶ長旅だったと言うから、この数字は驚異的だ。


 CF-PREは長時間にわたり連続噴射が可能で、宇宙船を加速し続けることができる。それによって、星間航行コスモ・ドライブが可能になった。


『物体の運動加速度から生じる慣性力は、重力と同等のはたらきをもつ』

 この等価原理とうかげんりで、加速度から人工重力を生む。地上と同じ1Gとなるように、宇宙船は等加速度飛行をする。火星に到達する頃には、光速度の3.9%にも達する計算なのだ。

 遠心力を利用した既存の重力発生メカニズムより優れ、船内すべての場所に一様な重力場が生成される。


 SSアーク号は、最大面積の天井面を進行方向に向けて横に飛ぶため、逆の床面垂直下方向に慣性力が働く。(これが人工重力となる)

 空気などの流体抵抗が無い宇宙空間ならではの飛行姿勢だ。

 地球上で見慣れた飛行物体の常識からすると、縦長の箱が横向きに飛ぶ姿は、とても奇妙に映るだろう。


===以上、ログアウト ◇◆◇




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