9.悪行三昧
五つの指を持つ葉っぱだぁ?
屋敷の防風林の芽吹き始めた葉を見ながらコロは考えた。
防風林を植えたことで、外から屋敷は分断されいつの間にやら、マルーリが庭をこしらえていた。白い色のテーブルとイスが屋敷に普段いる3人分置かれ、脇に花壇を作っている。防風林の中にも実を実らせる木を植えた。
すっかり隠居生活をしているマルーリの暇つぶしによって、もう少し経てば華やかな庭に姿を変えるが、今は冬の終わり、殺風景そのものである。
外の空気を吸いにピラが出てきた。
「おや、王様」
胸をそらすのを止めて、コロに声をかけた。
「どうなさいました。難しいお顔をして」
石畳の上で回れ右をしてコロがピラを見る。
「バイサーバに五つの指を持つ葉はあるか?」
「五つの指を持つ葉ですか…。それがどうかしたんですか?」
「なんでも、【どこかにある場所】にいる一人を呼び出すことができる模様らしい」
ピラは肩でため息をして見せた。
「それは、他の方にご相談したんですか?」
「いや、してないが」
コロは苦いものを噛んだような顔をした。ピラから分かりやすく目をそらす。
「でしたらまずは、マルーリ殿にお話ししては如何ですか?」
「そうだな」
頬に指を上下させてから、屋敷の中に入っていった。
変わらない木造の螺旋階段を上って、元は先代の寝室だった部屋の戸に手をかける。
「マルーリ。体の調子はどうだ」
マルーリは戸が開いた瞬間目を閉じていた。手元にある本は大きく開いて、腰まで掛布団をかけている。
「だいぶ良くなったよ。コロも今日の仕事お疲れ様」
コロの方向を向いてから目を開く。相変わらずガラスの向こうは見えない。
「マルーリは、【どこかにある場所】を見つけるべきだとおもうか」
「私はそういうことは考えない。コロはそこにいる人を見つけたいのだろう」
端から見える睫毛が下を向いている。手元にある本をトントンと指の腹で叩いた。読んでみろという合図だ。
「これはツキヨが先代に報告用に置いた本だ。その中にエグザイルという表記があり、その下にはその者たちの名前があった」
クラフ、エッド、イツツデ・ライベニと上から順に書かれている。
「ライベニというと、ライ族の一つだ。スイセイが何か知っているかもしれない」
マルーリはコロの目的を盲目に支援しようとこの情報を渡す。
「もうスイセイからそいつの話は聞いたよ」
口の中が乾燥するという概念はないが、舌がのど元に引っ付くようで喋りに食いながらもそう言い切った。
「イツツデを?」
「ああ。五つの指を持つ葉を描けば出てくるとか。まあ、スイセイに言わせたんだけど」
「命令でか」
「うん。ごめんなさい」
手招きで近づけてからコロの手を握った。これまでだと、手を握るのではなく、頬を引きちぎるほどに引き延ばされていたので、コロはこの行動に驚いた。
「別に咎める気はないが、よく使おうと決心したな。コロは進める力はあるけれど、決める力が乏しい。だから、これからもしっかり自分で決めるんだ。
それで、五つの指を持つ葉だな」
下からコロの目を見通す。
「メープルの葉じゃないか?ほら、ガロウがたまに出す、蜂蜜ではないほうの甘い液体の」
「…壺にいれられたあれですか」
それなら、コロもサニーフレアに出向いたときに見たことがある。今ぐらい寒い時期にメープルの木に針を打ち込み、そこから滴ってくる樹液を壺などの入れ物に集める風景を見せられた。だが、その時期見れたメープルと思える葉は地面で黒くなり、虫に喰われ、人の名前になるような代物とは思えなかった。
「なんなら描いて見せるが」
「いやそれはダメだ!!」
マルーリの手を握り返す。
「ああ、そうだったな」
フフフとマルーリが笑う。その表情にコロは心底安心した。
「ヤマメさんたちを呼ぶから、その後に描いて欲しい」
握っていない手でコロの頬を撫でた。
ボーエンに行くと、ヤマメがガロウに睨みつけられていた。あり得なかったはずの光景が起きているので我が目を疑う。
「コロ、ごめんね今取り込み中なんだ。」
ヤマメが眼鏡姿の背の高い、大人ぽい姿の方でコロに断っておいた。
それでもガロウは、両腕を堅く結んでヤマメを静かに睨みつけている。
奥の方ではベイズが肘をついて二人を見守っていた。【あつめれ】は机に顔を付け寝ている。
やけに穏やかな顔をしているベイズが事の始まりだとコロは踏んだ。なので、二人の視線をくぐりベイズの隣に座った。
「やあ、ベイズ君。昨日ぶり。この間の第4アースへの旅はどうだった?」
「この変な三つ目にお菓子全部とられたのと、念のために小遣いつかって買っておいた念晶を失ったぐらいですかね」
あまりに良くない返事に顔をしかめる。首を捻って、出てきそうな苦言を押し込めていく。
「そうか、そうか。それで何をガロウに吹き込んだんだ?」
いつの間にやら、マルーリに似た調子は収まっていた。
ベイズはその言葉に
「いや、昔ヤマメさんをここに連れ戻したときに、聞いちゃったんですよ。昔は他にも恋人がいたーって。」
頬をついたまま話した。それは自分に向けられた悪意ではないことはわかりきっているので、決して顔を痙攣させることはしないが、さすがに苦笑いをした。
「本人が隠していたことをポロっといったわけだな」
「故意的にですよ」
眉間が痛くなってきた。ベイズは昔マルーリに聞いたフヨウに似てきたような気がする。
「そういうことはやめよう。世の中にはあるべき争いと、ないほうがいい争いがある。あの二人は争っちゃいけない。だから、誠に勝手だがな。ヤマメ、ガロウ!仲たがいをやめろ!!」
ベイズから顔を離して、二人の視線がぶつかっている方向に命令を飛ばした。
届くと、ガロウの炎の髪が治まってブロンドの髪になり、ヤマメも怯えていた体から力を抜いた。
一呼吸ほどの時間の後、二人は再び動き出した。
「いつの間に、行動的になったんだコロ!マルーリに一度こっぴどく叱られたから大人しくなったと思ってたのに」
ヤマメには、頬が伸びるほど引っ張られた失敗の話をしたことはなかったつもりだが何故かあの時のことを言われてしまった。
静かなガロウもその事を気にしているようだ。
「そんなに急用なのか」
「そう言われると違うんですけれど」
残念そうな顔をするベイズの隣席から離れて、二人の元に寄る。
「【どこかにある場所】の場所を知る方法がわかったので呼びに来ました」
「知る方法とは、また遠回しだな。」
「そりゃ、【どこかにある場所】て名称なんですから。そこに言ったことがある人しか行き方は知りませんよ」
「じゃあ、誰かを口寄せするということか。」
聞きなれない単語に首を少し捻るが、まあそういうことだろうということで頷く。
「誰だ?クラフ?エッド?」
「イツツデです」
ヤマメとガロウの表情が強張る。
「そういえば、あいつも最近見掛けなくなってたな」
「あなたがたの最近という時間は理解しかねますが、イツツデにあったことがあるんですね?」
「あるな。あいつのせいでいくつかの本を焼かないといけなくなった」
「俺の実家のメープルの森行きの道の石畳をとらなきゃいけなくなった」
二人がイツツデについてはなしたことは全て良くないことばかりだった。
イツツデの特性があったばっかりに、イツツデに酷いことをされたという、思出話をいくつかするとヤマメが服から長く伸びた腕を固く組んで話を変えた。
「あいつのギフトは平面の世界を行き来すること。平面の存在に干渉することだ。そして、ワープゲートとしてあいつのマーク、五つの指を持つ葉が使われるわけだ」
ガロウは深呼吸して高ぶる炎を抑えながら付け加えた。
「ツキヨは詳しいことは言わず、イツツデに関するものをどんどん消していっていたのはそのためだったんだな。イツツデにも悟られずやりきったわけだ」
「そうだね。」
「本当にあいつ、フヨウと同じで忘れやすい奴だったのか?ほんとは嘘だったような気もする」
ヤマメが眼鏡を頭の上において、背を縮めると難しい顔をして話を変えた。
「誰を連れて行くべきだろうな。まず、ボクとあの黒い怪鳥はもしもの移動の為に絶対にいかないといけない。マモリは最近連絡が取れないからダメで、シルヴィアもダメかな。森の土がないといけないからそれが万が一ってこともある。モモワはどう?ガロウ君。」
「悪くはない」
「他は・・・サトムくらいか。そうなるとベイズ坊やが問題だな。」
最後の言葉を皮切りにベイズが手のひらから頬をはずした。なぜ自分が急に話に出てきたのかベイズ坊やはよくわかっていない。
「何で急に俺の名前が出てくるんですか。そのサトムって人とだって、一度も話したこともみたことすらも無いんですよ?それに、そもそも行くつもりなんてありません」
頬をひきつらせながら言った。奇怪な言葉の音階に、居眠りをしていた【あつめれ】も起床する。
「すまないが、君のような大変便利なギフトを持つものを置いていくほど、グリマラには兵力はない。故に諸外国との平和を長年保ち続けてきた。友好関係は絹の糸ほどないけど」
多少強引に、ベイズも【どこかにある場所】に同行することになった。
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