8.【どこかにある場所】
朝。昨日のようにコロとスイセイは朝の情報番組に顔を出していた。
VTRの手持無沙汰な間、スイセイはコロに尋ねた。
「コロ丸。この間のピラさんたちどうなった?」
不気味なくらい、顔色一つ変えず言った。
「んーと、ボムさんをヤマメさんがハンバーグにしてふるまってくれたよ。だからあと数日ぐらい滞在するって。」
どこか落ち着かない様子でコロは答えた。
「何かあったのか?」
「まあ、ね。終わったら言うよ。」
そういうなり、両手で両頬をはたき、よしっと掛け声を発するとカメラが二人に戻った。
番組は二人ともいつもと変わらず進んだ。コロ丸がたまにボケるとスイセイが冷たく突っ込むのもいつもの光景だ。例の客人についての話題は出すことなく、今日も二人の仕事は終わった。
昔、木をくり抜いただけだった城の内装は、ライトビがテレビを作りだし、テレビ番組を企画したことで色とりどりのカーテンや、張りぼての木、見えるはずがないのに、外の風景が見えるようになっている窓、撮影道具とスポットライト。ついでに城の中なら自由に浮遊して動くことができる、二人乗りの乗り物が飛び交って、にぎやかなものだった。
人にあふれるようにはなったものの、王族の城であることに変わりはない。
スイセイを後ろに連れて、数分、張り巡らされた階段を上った後に上着の内ポケットから、【城に部屋を作ることのできる杖】を取り出して、壁に向かって振った。
振った瞬間、壁は光り輝くがそれが収まると、何も変わっていないように見える。
その場をコロ丸が杖でそっと突く。すると、縦線の木目に切り目が現れ、そこから奥に移動した。奥に移動した壁は何をせずとも右にはけた。
「これならだれにも邪魔はされない」
おそらくだが、スイセイが見たこともないような真剣な顔をコロ丸はしている。
だが、これは王の威厳のある国を思う表情とは違い、もっと危険に満ちたものだ。
床を滑る音一つせず、切られた壁は二人が空間に入ると閉じた。部屋は自然な風が吹き込む窓が開けられている。遠く霞んでアライザ図書館が見えていた。
「ちょっと、気がめいりそうでな。風にでもあたっていないと。」
城よ、椅子を出せ。とコロ丸が城に命令するとどこからともなく足の行く先に三つ足の背もたれのない椅子が現れた。
「もうちょっといい椅子あるだろ。」スイセイが難癖をつける。
「わかった、休める椅子を出してくれ」
そう命令すると次はコロ丸には玉座、スイセイには横たわるにはちょうどいい、クッションが付けられたソファが出てきた。
「おお、ありがと」座るなり、足をソファーの上に投げ出した。
コロ丸は肘立に両肘をおき、自分の顔の前で指を交差させた。
「それじゃ、話そうか」
首から上だけをコロ丸に向ける。
スゥっと、息を吸い込んで深呼吸をした後、話し始めた。
「【どこかにある場所】って知ってるか」
マルーリと同じ調子で話した。
スイセイが下ろした上半身を上げ、コロ丸の顔を凝視する。
「知ってるんだな」
「いや、場所は知らない。存在だけだ」
二重に驚いているスイセイの反応を確かめて、コロ丸は眉を上げた。
「じゃあ、知ってることだけを話してもらおう。真実だけを話せ」
命令がスイセイの聴覚に届き、理解がされると、目から力が消えた。口だけが、何をせずとも動き出した。歌うように迷いなく、その言葉は紡がれる。
「どこか、空に浮いた場所。
どこか、同じように土がある。
どこか、木も水も熱もある。
バイサーバになりきれなかった、命の模倣品。
そこに連れていかれるものも、場所と同じ罪を犯したもの。
生命の神秘の域を汚したものが行く場所。
それが場所。
ツキヨだけが場所を知っている。
ツキヨしか知らない場所。
だが、一人だけ呼び出せる。
五つの指を持った葉を描けば、
うすら笑いの三度笠。
忌まわしいライ族の一人。
クノザより鮮やかな髪のライベニの一人。
顔にある傷と同じ模様を描けば現れる」
そこまで言うと、スイセイが自ら手で口を塞いだ。
コロ丸の顔を見返す。細めた目の隙間から小さな瞳が姿を現して、スイセイが言ったことを整理している。その手はほどかれ、手袋から出た指で薄い唇を揉んでいる。
「聞いた話じゃ、クラフという奴も【どこかにある場所】に行ったと聞いたが」
「俺はそこまで把握できてない。イツツデをツキヨがすててきたってことぐらいだ。」
それっきり、ここでの話は終わった。
スイセイは窓から図書館に帰った。コロ丸はコロとして自分の屋敷へ帰った。
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