10.三度笠のイツツデ
知っている人間からすると大変憎たらしい、イツツデを呼び出すことになった一同は、紅葉を描く前に、モモワを呼び出した。サトムも連絡はとったが、山の麓の黒い森。
森を制する、シルヴィアでさえも、自ら足を運ばねばならない森なので、行くのにも、見つけるのにも時間がかかってしまっている。
よって、モモワが来た時点で呼び出すことを全員一致で決めた。
ヤマメもガロウも描きたがらなかったので、マルーリが一人前に立ち、玄関ホールの真ん中に紙を置き、膝をつき、筆に炭をつけてから7人に確認をとった。
「いいか、描くよ」
ベイズはこの場に自分がいるのが納得いかないようで一人2階の方の手すりに肘をついてマルーリが声を掛けるの聞いていた。
それにしたって、まだ客人は残ってるのに自分達はまたどこかにいこうとしてる。俺にはこのもてなしは理解できない。いくらそれが客人に関することだったとしてもだ。
そうベイズが考えているなか、マルーリの筆は葉の指の一本を描き終えていた。
その頃サトムはようやっと、山を登り始めたころで、足のあるべき場所から闇を吐き出しながら、宙を浮いていた。少し、開いた瞼の下から白い光の線が漏れだし、サトムがどちらの方の存在であるのか、曖昧な存在であることを表している。
かつてサトムは、自信の住む場所の権力争いのためにフヨウに目をオーブにしてもらうことで、勝つための力を一時的に与えられたつもりだった。だが、オーブになった目をもとに戻す前にフヨウは消えてしまったのだ。
フヨウが消えたことは知られているが、フヨウが分裂してベイズともう一人になったことを知るものは少ない。サトムももちろん知らされていない。
そんな人物が、ベイズのギフトを見るとどう思うか。フヨウとにていると思うだろうか。それとも、シェイプシフトでならば、エバーワールダーであれば誰でもできるという簡単な答えを導き出せるだろうか。
サトムはこれから自信に起きる、強い衝撃を知らないまま山を上って城上町に向かった。
マルーリはもう4本目の指を描き終えた。息をのんで、その光景を見守る数人が玄関外の
外の庭から戻ってきたピラに見られた。
ピラは、異様な物々しい雰囲気にたいして、特に気には止めなかったが、
「やっぱりエバーワールダーの人って可笑しいな」と内心呟いて、庭に戻っていった。
戻っていくピラの足音が聞こえなくなる頃、マルーリの筆先は最初に筆をおいた所へもどった。
「これで、イツツデが書かれたことに気づくのはどれくらいになるんですか」マルーリが筆を置いて聞いた。
「さあ、いつも突然来てたからね。だけど、つい最近までグリマラにはなかった訳じゃん?たぶんだけど、シルヴィア見たいに違和感は感じてるはずだよ。ほら、マルーリも離れて」
機敏に動けないマルーリの腕にしがみついて体をあげさせる。
「ありがとう」とマルーリが微笑んで、紅葉が描かれた紙から離れた。
玄関にほったらかしにおかれた一人掛けの肘掛けつきソファーにマルーリを移動させておく。
「コロには言ったことがなかったが、マルーリはここに来たときの最初の冬は寝っぱなしだった。たまに部屋の温度だけでも上げてやろうと思って近づいたら目を開けるぐらいだった。」
そうガロウが教えた。それを聞いて少しコロは肩から力が抜けた。
良かった。寿命とかではないんだ。
「マモリからは身体検査して問題なかったとは聞いているけど、ちょっとボクからもいずれはしておいた方がいいね。」
ヤマメがルンルンと言うと、マルーリは閉じていた目を開けて
「お前はわざと痛くするからいやだ」
かなりはっきりした声で言った。
また一時して、マルーリが眠り始めた時玄関外から風がなる音がした。溢れる光と溢れんばかりの闇が屋敷の玄関ホールに入ってきた。サトムだ。
「お久しぶりです」
サトムは指でローブをつまみ、恭しくお辞儀をする。暗いところ以外ではあまり見ることのないサトムの姿は、こう光の元で見てみると美しいもので、プラチナブロンドの髪に丸く天使の輪ができている。肌も透き通るほど白く、身に付けた黒いローブがそれをまたいっそう引き出している。
ただし、一番の人目を引く両目は閉じたままである。
「よく来たねサトム!調子はどうだった?」
ヤマメが姿勢をあげさせる。サトムもゆっくりと頭を持ち上げて、ホールを見渡す。
「まだ、イツツデはあらわれていないのですね」
音楽の村で養われた声色はやけに心地よく響く。見上げて、二階にいるベイズの髪色を見て少し固まったが、最後のモモワまで目を向けると微笑んだ。
「王は恐らく、私のことを音楽家としてしか知らないでしょう?ヤマメさんが私の名前を出したときもさぞかし疑問に思われたのではありませんか?」
あの時コロは、ヤマメの続く言葉に考えを奪われそうは思っていなかった。だが、言われてみればその通りである。
コロはそのまま頷いた。
「ブラックウィンは、音楽だけでなく舞も嗜みます。そして、舞を発展させ、舞道という技術になり、それは万が一の我々の武力手段でございます。
もちろんそれ以外もございますが、私もそういう心得はございますということで、この場におります」
筆三回で描いたような笑顔でサトムの自己紹介は終わった。
モモワは、昼のモモワだが一人静かに紙の上に異変が起きるのを、まだかまだかと、見つめていた。
ベイズもただ自堕落な行動をとっているつもりはなく、真上から異変を見ようとしていた。
一陣。一際冷たい風が入り込む。
紙はその風に巻き込まれ、上に上がるが、ヤマメが左手を挙げてなにかしらの言葉を発すると紙はその場に留まった。
今、紙が一番近いのはベイズで、それを今どうすることもできるのはヤマメである。ベイズは半紙のなかで何が起きているのか見てしまった。
ベイズの瞳に、描かれた紅葉が鏡写しに写る。はっきりと途切れなく写ってしまった右目の方から小さな五本指の手が飛び出した。
「でた、でたぞ!!」
紙をもとあった場所に下ろそうとしていたヤマメはそれを止めて、ベイズのもとに飛び上がった。
「ヤマメさん!俺の目です!」
人差し指と中指を合わせ、ベイズの目元からでた手に意識を集中させてから、引き抜くように手を後ろに動かした。
すると、手、腕、肩、頭、と次々に出てきた。出てこられているベイズには痛みは少しもなく、ただ、片目が何をせずとも闇が続いただけだった。
極小であった人物は、全身が外に出ると普通の大きさになり、身を挙げてから背中に回った二つ目のトレードマーク、三度笠を頭にはめ直してから一階の玄関ホールにいる7人を見渡した。
「うーん、わしがしらん顔ばかりじゃ。上の子供も赤い目に、柿色の髪じゃったから飛び込んでみたが、しらん子じゃった。フヨウに似ておるな。そしてヤマメとガロウ。久しいのぅ」
あげられた顔には大きく紅葉の形の痣が浮かんでおり、ライ族の証ともいえる赤い目が三度笠の影から爛々と輝いている。
「お前、追放されるなんて何をやらかしたんだよ。まあ、お前が見えなくて平和だったんだけど」
「ちょいとな。ツキヨから生命の作り方を聞き出そうとしたんじゃ。もちろん、エバーワールダーではないもんじゃよ。そしたら突き飛ばされて、図書館にいれてもらえんくなった」
これ、長くなる?とモモワがガロウに尋ねた。ガロウは首を引きぎみにそうだなと囁いた。
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