幕間 ドキドキ!!ヤマメの食事風景
いやだ、いやだ、痛いのは、いやだ、とボソボソと言いながら素直に手を引かれて進んでいるボム。ニコニコのヤマメが前を歩く。
「僕は痛がるのが見たい。すぐには殺さないよ。だってまた食べるには三日待たないといけないんだもん。僕それまで待てないよ。」
ボムは目が虚ろになり始めた。不自然に入る目のハイライトすら、今は暗い。
「そのご立派な防具は、どれくらい耐えられるんだろうな!その実験も兼ねている!!」
ヤマメは普段の子供ぽさを全て消し去り、恐ろしさをむき出しにしている。目の周りが黒くなり、瞼が見えないほど見開いている。鬼の形相だ。
「う、うう」
口を閉じて、言葉にならない声をボムは出すが周りにいる一人としては、助けてほしいということだろうと察するが、今は誰も助けに来てはくれない。残念なことだが、ボムにはあきらめてもらうしかないだろう。目を背ける。プイっと、プイだ。
泣きそうな顔をしているようだが、気にしない。みんなヤマメの重力で地面とキスするのは御免だからな。
広間の扉は、ヤマメが指を少し振るだけで開いた。
「本当に机使ってもいいわけ?」
普段の子供っぽいかんじで尋ねてくる。
「もちろん。後かたずけは上手だろ」
「なーるほど。」
ヤマメはボムを宙に浮かせてから広間の机に寝かせた。ボムは目を激しく動かしているうちにガロウが広間にこもって研いでいた包丁を見てしまった。
「君って、特別なホムンクルスなんでしょ。だったら特別な食べ方したいよね。踊り食いとか。」
「血抜きはしなくてもいいのか?」
「血も生命。イコールカロリーでしょ。食べるよ。気失ったらミンチにしてあの6人にも食べさせるから、せいぜい気を確かにね。」
もう気を失いたいようだが、決心したのか、口を堅く結んだ。
「弄ることはせずに一気にいくよ。ガロウ君!お腹用」
机の向こう側からガロウが包丁の一本を投げた。きれいな放物線と、回転数でヤマメの手に収まる。
「一思いに殺せ…」
「僕が楽しくないって言ってんでしょうが!食べ物は食べ物らしく悲鳴をあげろ!」
その瞬間、ヤマメの右手がボムの体に沈んだ。そこからグスグスと音を立てて防具が朽ちていく。
「うーん、神殺しは難しそうだね。へそ出しになったところで、ハラキリいくよ。」
ボムは目を堅く閉じて、悲鳴を押し殺そうとする。
ヤマメは上から下に包丁を動かした。水分を多く含んだものが裂ける音がした。
「君たちを作ったやつはエバーワールダーらしいけど、どんな奴なんだい?ぜひ会って感謝の言葉を投げたいよ」
「ぐぅ…、み、緑、の、髪、をして、いる」
「へえ、僕と同じ大食いらしいね。」
ヤマメは傷口に口を当てる。血をすすっているようだ。ボムはおとなしいが手を開いたり閉じたりして痛みに襲われている。
「緑の髪ってだけで大食いなのか?」
ガロウが尋ねる。
「うん。だから滅んだ。今エバーワールドにいるのは僕だけ。逢いたいって思う?」
ボムは首を横に振った。
「いい子だよねー、舌も噛まないし。騒がないし。できるだけ長く生かすか」
杖を傷口に差し込んだ。ヤマメにではないが、あれを私もされたことがある。内臓整理だ。
「余分なところだけ切って食べるね。」
包丁から手を放して、ボムの上に跨った。
「いま思ったけど生殖器ってないの?」
「…ぐぅ…」
「これって痛すぎて聞こえてないやつか。ピラちゃん!」
歯を食いしばっているようだが、目はどこを見ているかわからない。少しだが波打っているようにも見える。
ピラは広間のすぐ外にいたようで、呼びかけにすぐ顔を出した。
「ホムンクルスは培養専門の生き物なので。私たちを作ったのは本当に量産するつもりだったからです。愛玩ではない」
ボムがこれから解体されるのに全く動じず、淡々と説明した。声に抑揚すら見つからない。
「ぴ…ピラ。」
腹を裂かれて、ヤマメに少しずつ内臓を引き出されているボムがピラに気づいて手を伸ばした。
混乱状態で先ほど誰も助けてくれないことに絶望したことを忘れている。
「ボム、本当にほおっておけませんね。」
「ピラ、ピラなら分かってくれ」
「あの時の防具の材料代すっごく高かったんですからね!!ボタン一ついくらかかると思ってんですか!!この試験管育ち!!」
「そ、それはお前も一っし、グアアアアアアアアアア!!!!」
ヤマメに視線を戻すとかなり抜き出している。先ほどまで赤い傷口だけだった腹は、いつの間にか血と脂で白いところがない。それはヤマメの口元も同じことで。親指で拭っても赤いのが広がるだけで、口いっぱいに腸をむさぼっている。
「それ相応にバイサーバに帰ったら働いてもらいますからね!!今度死ぬときは防具を傷つけないでください!」
痛みの波が収まるとボムは、ボムの頭の隣にいるピラに向き直った。
「お前、なんで自分のほうが強いのに、私に働かせるんだ」
「身分の差だよ!私は中級神。お前は食用ホムンクルスだ!!」
「もとはお前もだろ!奇形!」
それがピラの逆鱗に触れた。ピラは懐から鋭利なナイフを取り出した。
「すみません。片手先に済ませちゃいます。」
また抑揚のない声に戻った。
「むーふん、ひいほー」
右手をつかみ上げる。
「わ、悪かった!謝るから!バイサーバに戻ったら精一杯働くから!!」
「もう遅い。」
リンゴの皮をむくような刃の立て方で、小指の付け根に刃を食い込ませていく。ボムは口をパクパクさせて、ピラの顔と自分の手を交互に見ている。骨に達したのか、一度刃を放してから勢いよくあてた。
「ガアッ!!」
身をよじろうにもへこみ始めた腹の方にヤマメがいくらか重くなって跨っているので動くことができない。ピラの右腕の二つの腕は飾りではないらしく、完全にボムを押さえつけていた。
切断された小指は広間の机に小さな血だまりを作った。次は薬指に刃を当てるのではなく小指の切断面にピラは口づけた。もう一つの右腕は、先ほど指を切ったものより大きなナイフを懐から取り出した。これからここを斬るよと、手首に刃を当ててボムに目配せする。そろそろ泣き出しそうな顔になっている。
「っアガァ、うぁ、アグううう、ぅ」
鈍い、砕ける音がすると、ボムの右手首はピラの左手が動くのと一緒に離れた。ピラは噴き出すボムの血を抑えながら右手で祈るように腕を下ろさせた。
「お前なんか嫌いだ」
「私なしじゃ一日も生きてられないくせに」
切った右手に頬擦りしながら広間をピラは、出て行った。
さて、ヤマメの袖が血でテラテラと光始めた。斬られた手首からはひっきりなしに血があふれている。下の絨毯も染まり始め、ボムの目はどこを向いているか分からなくなった。
ゴリ、ゴリ、 裂けた腹に手を入れて何か探っているようだ。
「もうここ空っぽだよ。わかる?」口から胸元にかけて血と脂だらけのヤマメが嬉々として言った。
凝固して固まった血は顔に新しい影を作っている。
「ここ、心臓っていうんだよね。すごいよ、まだ動いてる。」
「カホッ、ゲホっ」
器官の方にも触れたらしく、反射的にボムがせき込んだ。唇はすでに不健康な紫に代わっている。目も座り、生きているようにはみえない。
ヤマメが腹から手を抜き出して、両手でボムの頬に触れる。胸の方に移動して顔を覗き込む。
「食用だから、もともと苦しまないように作られてたのかな。」
だとしたら、作ったやつはすごく優しい人だ。とボヤいた。
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