7.土産と報酬

 ニコラスを、ニコラスの家に送り届けることに決まり、そろそろ店を出ようかとしていた。それを【あつめれ】が止めに入る。

「ねえ。コチも連れて帰って」

「いいけど、あんた名前は?」

 ヤマメが見上げて尋ねる。

「【あつめれ】。【コレクト】【ギャザー】とも言う。」

「じゃあ、【あつめれ】。変身してボクの服の中に入って。」

 ふん、と鼻を鳴らしてから、ベイズの落書きのように小さくなり、ヤマメの手のひらからヤマメの服の中に入った。

「えっとね、ニコラスは僕をおぶって。ベイズがハンググライダーになるから。」

 そう言いながら店の戸に手をかけて開ける。入ってきた時のような強風は吹いていない。だが、進もうとする先からは風と雨が地面にたたきつけられる音が響いている。

「この中をハンググライダーでですか?そもそも飛ぶだけで不自然に見えますけど」

「雨の日に空を見上げ続ける変人がいるのかい?いないだろ?」

 外に出るなり、ヤマメの背中にしがみついたベイズが変身を始める。

 ヤマメは浮遊してニコラスを持ち上げる。

 この天気の中飛んだのなら、私にこの星で怖いものはなくなるな。

 そう思いながら体をヤマメにゆだねた。



 山脈を2つ超えてしまえば、暗雲は伸びてこず、カンカンと照る太陽の下に出た。人気のない開けた場所に降り立ち、二コラスを下ろした。

「ありがとう」

「この星で半世紀後だね。それまでに美味しいもの用意しておいてよ」

「ああ」

 そうやり取りして三人は第四アースから飛び去った。



 そのころエバーワールド。

 眠りにつこうとしていたマルーリはリンに肩をゆすられていた。

「大丈夫ですか?こんなとこで寝るなんて」

「ああ、うん。大丈夫さ。見た目は変わらなくても私も年なのかな」

「そんなこと…」

 悲しむリンが開けた戸から見慣れない客人が見えて、マルーリはそちらの方に気を取られた。

「リン、あの人は」

「ディ・ボムさん。さっき町の端の方で蘇ったぽいよ。コロの奴が今話聞いてる。」

「そうか。ということはそろそろヤマメたちも帰ってくるな。すまないがリン、私を寝室に連れて行ってくれ。」

 そう言われると、わきの下の方に回り込み、マルーリを支えながら広間を出て行った。途中、ボムから目を離したコロが心配そうな顔をしてマルーリを目で追いかけたが、それ以上はしなかった。


 ちなみに、ディ・ボムはピラに

「いつになったら帰るんだ?」

 と尋ねていた。

「ヤマメさんにお礼をしなければいけないのでヤマメさんとの用事が終わるまで」

 ピラは子供をあやすように、言葉を奏でさせた。後ろの方でコロがガロウに料理用の道具を屋敷に持ち込む用指示をしに出て行ったが、ボムは特に気にしなかった。

 その後、マルーリを寝かせたリンが降りてきて、広間にいるガロウに

「ボムさんには香草サラダを出してってマルーリが」

「わかった」

 刃を磨く音が戸を開いたとき、玄関の方にも響いてきたが、ボムにこれから起こることを予想することはできなかった。


 ほどなくして、ヤマメが屋敷の前にゆっくりと前に起きてしまったことを生かし、降り立った。出迎えたのはコロや、カリミラの中級神たち、そして本当の体を取り戻したディ・ボム。少し遅れてガロウも出てきた。

「ヤマメ、用意はできてるぞ。」

「きゃ!さすがガロウ君!!大好き!」

 片足を上げて、ガロウに抱き着いた。ひとしきり、くるくる回ったあと、足を地面につけて普通の人のように歩いてボムの方向へ足を運んだ。

「お久しぶり!僕も帰ってこれたよ」

「よかったです。この度はありがとうございました!先に帰って、ピラに聞きましたが、相応の対価とは?」

「…なんだとおもう?」

 ヤマメは見上げながらゆっくりと口の端を伸ばしていった。ヤマメの口は本来、大きく裂けている。大体、口を開けば口の中全て見渡せるぐらいに。

「ま、まさか」

 口の端が頬骨に着いた時にはヤマメがボムの手を握って、広間に連れて行こうとし始めた。


 今日のメインディッシュはハンバーグだった。

 やけにマシマロ達が悲しんではいたが、みな平らげた。ただ、その場にボムの姿はなかった。


 時同じくして、スイセイは手のひらに紫色の球体を抱えていた。

「ツキヨ。話せるか」

 球体は目だけを開いてスイセイに答えた。

「うん。話せる。だが、スイセイがこうしてコロから離れている間も、コロは危険に足を踏み込もうとしてる。僕はそれに感心できない」

「ああ。それでも俺一人ではコロを止められない。お前のように常に冷静ではいられないからな」

 球体は周囲に白い石を回転させた。それは浮き輪のように球体を囲んだ。

「今はスイセイ達みたいな心が欲しいと思ってるよ。そうであればこんなことにはならなかった。」

「抗おうとすればできただろう?」

 スイセイの腕が振るえる。

「もちろんだとも。リトライのオーブは手に入れていたからね。だけど、コロは絶対に僕を変えるつもりだった。だったらこっちから消えたほうがいいと思った。リトライは絶対に渡せなかったからボクと一緒に散ってもらったけどね。

 コロの近くにいていいことはあった?」

 回転していた白い石はそれぞれぶつかり、ひとつ一つを大きくし始めている。

「いや、コロ丸はなかなか自分の目標を明確に話さなかった。調和と不調和だけ…」

 球体は目を閉じる。

「いいだろう。不調和は渡してやれ。それがコロに害を及ぼしたときに僕が出ていく。この流れだと、あいつに行き着く。」

「それはフヨウの片割れではなく?」

「フヨウや、ボクたちよりもっと混沌としたものだよ。そいつから不調和を取るのなら、ベイズとか言ったあの坊やだけで充分だ。」


 夜が更け始め、広間から幾人が去ってからヤマメはマルーリに声をかけた。

「あ、マルーリには紹介しておかないと。ほれ、出ておいでー」

 懐の方から黄色と黒の落書き頭【あつめれ】が出てきた。

 マルーリは、背中をリンとコロに支えられながらそれを見る。

「第四アースにいた、もう一人のホムンクルス。彼らを作ったエバーワールダーはまだ生きているみたいだよ」

「緑色の髪のエバーワールダーね。コロ、どう思う」

 首だけで頭を支えきれないようで、下を向きながら尋ねる。

「どこにいるか調べたいよ。そりゃ。しかも生き物を作るほどの秀才だ!どんな奴か見てみたいね。」

「で、【あつめれ】。君がいう博士はどこにいるんだ?」

 【あつめれ】は自分でヤマメの手のひらから飛び降りて、元からの姿を現した。

「いや、知ってるのは地図に載ってない場所。【どこかにある場所】って地名だけ。博士はその場所に、追放される形で渡った。同じようにこのグリマラからも追放された人物がいたんですけど」

「そいつは誰だ?」

 コロがマルーリを持ち替えてから尋ねた。

「クラフ。ちなみにうちの博士はエッド。エドでもエディでもない。」

「クラフか…。明日調べよう。どこに流したか分かるかもしれない」

 マルーリがずり落ちながら言う。さすがに、とリンがコロに目配せをして、マルーリを寝室に連れて行った。解散の言葉もなかったが、ヤマメも【あつめれ】も、屋敷を後にした。

 ガロウの店、ボーエンで夜食を食べている辺りで、ようやく懐にいたベイズのことを思い出してしまったが、既に外は暗いので森に立ち入ってしまうのも大変だと考え、この一晩はベイズもボーエンで過ごした。

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