第62話 準備 3
何処へ行っても注目されるのは仕方ないが、帰りも、レアと気づいた冒険者が声をかけてくる。
「時間経つの、待つしかないか」
シャーと、頭上に移動しているクーが、相手に威嚇している。
テイムしている蜘蛛も、苛立っているんだろうと、帰りはなんとか声かけだけですんだ。
クーが念話で、マスターは自分が守ると言っていた。敵じゃないよと、言い聞かせたが安心出来ないらしい。
「明日は、装備だけど先に生き餌管理やってからだからね。後背中に蜘蛛が固定しやすい装備で、ナナカも上着だけ作って貰う?」
ズーッと背中に張り付いているナナカの蜘蛛も、聞けば町が珍しくて、大人しくしていたらしい。
「そうだな。背中か肩か頭上くらいだしな」
「人に寄っては上着の内側とか、フードにポケット利用出来るようにする感じだね」
ただ、冒険者なら動き回るので蜘蛛をずっと貼り付けたまま魔物と戦うのも、危険が伴う。
それなりの硬さがあるので、潰れないとは思うが転んだ弾みで、蜘蛛の体毛がグサッと来るのも困る。
「貫通しない程度に、皮当てて貰った方が良いしね」
そんなものかと、会話しながら戻る2人だった。
「何コレ?」
戻って来た店の前には、かなりの量の麻袋や木箱が積み上げられていた。
「中身は、保存食の豆や木の実だな」
木箱を覗き込めば、アイテムポーチがかなり利用されているこの町では珍しいが、他の所なら冒険者が持ち歩く保存食にするとナナカが言う。
鑑定をしてみれば、名称は違うがアーモンドやピーナッツ、クルミ、赤豆、緑豆と前世でなじみ深い物もあれば、見慣れない物もありかなりの種類がありそうだ。
ただ一つの大きさが、どれもコブシ大と大ぶりで凄く大きい。
大体、他の場所の冒険者が、砕いてミックスにされた物を携帯すると教えて貰う。
アイテムポーチがなくても、そのままでも十数年は保つし、砕いてミックスにした状態でも、数年は保つ優れた保存食らしい。
湿気らないの?カビは?と、思ったが大丈夫らしい。
「こんなに、買って大丈夫なの?」
保存食以外の使い道なら、酒のツマミかお菓子に使うくらいだろうか?
使い方次第で、調味料にも使えそうだし、鑑定で見れば搾って油が取れそうな物もあった。
「流石に、これ多すぎだろう?」
ちょっと聞いてくると、ナナカが店舗予定のドアに向かう。
開けるとカラランと、ドアベルが鳴る。
「ゲッ、どんだけあるんだ!」
店舗予定の棚から、置ける場所に木箱を積み上げているかと思えば、麻袋の壁があったりと迷路のような状態になっている。
クーが、念話で見てくると積み上げられた壁を物ともせずに、ひょいひょいと奥に行く。
念話で聞けば、奥の出入りするドアまでこの状態らしい。
「裏から、入った方が無難だね」
クーにはそのまま奥に進むよう念話して、レアは店の裏口に向かう。
この物件出入り口が三カ所あって、表が店舗用のドアと裏口が、従業員向け居住区棟と通じるドアと、隣の店主用棟の居住区に通じるドアと別れている。
どちらから入っても中で繋がっているので、どっちのドアを使っても大丈夫なのだが、ここも木箱や麻袋が積まれていた。
「表の外の荷物は、入りきらない分みたいだね」
人が通れる分は確保されているが、一階部分は積荷だらけのようだ。
何とか進んで中庭が見える通路まで来ると、中庭に座り込んで、ラウシャに怒られているミネルバの姿が見えた。
側には、レアより年下らしき少女も一緒に謝っていた。
「ナナカ。この荷物邪魔だし、これ貸し出すから、表の荷物から入れてくれる?」
未使用のアイテムポーチとリュックを取り出すと、リュックの方をナナカに渡す。
「入り切らなくなったらどうする?」
「お店の地下貯蔵庫のドアまでなんとか荷物入れながら進んでくれる?間取りみせるからちょっと待って」
ラウシャ達に渡した分とは別に、自分のアイテムポーチからこの建物の間取り図を出すと、ナナカに地下への入り口を教える。
「地下二階まであるみたいだし、入り切らなければ、こっちに何とか一時的に入れて、それでもリュックに入り切らないならまた考えるから」
最悪、空間魔法で部屋を増やしてそっちに入れるもありかなと思いつく。
使ってない部屋に入れるもありだし、一時的保存なら、空間拡張魔法がかかった温室も使えそうだ。
他に自分のアイテムボックスに入れるもありだが、なるべくそれはしたくない。
転生者と思われる行動は、しないにこしたことないし、かなりの数の転生者がいると知った以上気を付けなければと思うからだ。
「分かった」
レアからリュックを受け取ると、ナナカは裏口から出て行く。
進むのがもどかしいと、レアは中庭の窓を開けてラウシャを呼ぶ。
「ラウシャさーん。荷物勝手に移動させます。これに入れて移動させるんで、表はナナカがやってます」
歩きにくい場所に置かれた物から、どんどんポーチの中に入れるが、通路の分だけでいっぱいになってしまったようだ。
このポーチだと、多く入らなかった。
「レアちゃん助かるわ。本当、ここにある荷物だけで、金貨100枚分よ!信じられないわ」
仕入れは各自500枚まではOKにしていたが、それでも利用価値が低い物に、100枚も使われると思わなかったとぼやく。
「だって、ほっとけなかったんだよ。こんな小さいのに身内の筈のおじさんに騙されて、奴隷になるしかないって、状況でさ」
たまたま奴隷にされそうな場面に、遭遇したミネルバは、自分なら助けられると動いた結果のこの荷物だらけになったらしい。
「ラウシャさん。鑑定した限りで、加工の手間と時間はかかるけど、上手くいけば充分元取れますよこれ」
見た目ピーナッツで、大きさがありえなく大きいこれなんかは、潰してバターや砂糖とよく混ぜればピーナッツバターになると、ラウシャに説明する。
食材になるバターもどきなら、ダンジョンから取れるし、代用として他にも使えそうな物も探せばある筈だ。
「レアちゃんの鑑定結果なら、信憑性高いだろうし、私だってこんな小さい子に、キツイ事言いたい訳じゃないわ」
見れば、ミネルバに庇われながらヒックヒックと、泣き出している子に強く言える訳がない。
見た目10歳児前後くらいだろうか?
本来ならまだ、庇護されるべき年齢の子だろう。
「幸いかなりの保存期間長いし、場所はとるけど、商品開発手伝いますよ」
パンにピーナッツバター塗って食べたいと、思うレアだ。
上手く行けば店前で、屋台でも置いて軽食として売る事も可能なら、パンに塗って甘味として売れるし、クレープみたいにして売っても美味しそうだ。
ピーナッツバターみたいなクリームがこの世界にあるか分からないが、考え出すと色々食べたくなってくる。
他にもミックスナッツのように砕いてある物だけでも、蜜をかけ固めれば素焼き状態の物よりも、甘みもあるしおやつになるし、持ちやすい様に大きな葉っぱを使えば手がベタベタする事もないだろう。
食べたいと、考えると次から次へと前世の甘味を思い出してしまう。
「保護したのはミネルバさんだから、この子の世話はミネルバさんが中心にして貰えば良いし、ここは皆さんの反対がないなら、どう使うかも自由にして構わないと、私言ってましたよね?それに、コレ絶対美味しくなる筈」
何種類の木の実や豆があるか分からないが、鑑定すれば利用方法もわかるだろう。
「レアちゃんは、意外にも食いしん坊なの?」
「食べるなら、美味しい物食べたいだけです。お礼くれるなら、外見誤魔化す魔道具下さい」
今回の事件で、顔が知られ過ぎて屋台で気軽に買えなくなったと話すレアだ。
鑑定した物の、利用方法まで詳しく見る事も出来る鑑定師は貴重だ。
そのせいで、レアが買うなら何かに使えるのでは?と監視する者もかなりいたと話す。
「分かったわ。材料はあるから、1週間の時間頂戴。指輪でもネックレスタイプでも、希望があるなら作るわ。でもその前に、コレ片付けてからね」
「なら指輪で、お願いします」
指輪なら、はめっぱなしでそう無くす事もないだろう。
「分かったわ。さて片付けしますか」
積み上げられている荷物を、移動しない事には何も出来ないと、ため息つくラウシャだった。
「地下貯蔵庫に入り切らない分が、どれくらいあるか分からないけど、幸いにもここにも空間拡張魔法がかかったアレあるから、そっちにも置けますね」
中庭の隅にある小さな温室を、指差して教える。
「温室?」
店をどう準備するかばかりに、気を取られていたのか、気づいてなかったらしい。
「ここは中庭にも、空間拡張してるから珍しい方だけど、町中なら必ずあった筈かな」
詳しくはないが、レアが配達で行く工房には必ず温室があったから、中で畑作ったりとやりたい放題していると教える。
「ありえないでしょ!」
こんな簡単に、盗めそうな場所に置かれているのかと、衝撃を受けたようだ。
「大丈夫、盗めないみたいです。町中移動くらいなら大丈夫だけど、この町から持ち出した場合機能しなくなるって教えて貰ってるし、知らないで盗んでも恥をかくのは盗んだ人だし」
アイテムポーチに入れて、移動可能だがそれをするのは置く位置を変えたりする時だけだ。
この地の魔力と結びついているのか、壊さない限り使える不思議アイテムではある。
「待って、そうなるとこの町自体が、魔道具だらけってこと?知られたら、攻め込まれるじゃないの!」
なんてこと!と、ラウシャが権力ある貴族とか、犯罪組織を引き寄せると、騒ぐ。
「そこは契約の一族じゃないと無理って、証明されてますよ」
この町の住民なら理解しなさいと、渡されている書類をアイテムボックスから取り出す。
テイムしている蜘蛛も、関係してくるので、蜘蛛をテイムすると必ず渡される書類だった。
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