第33話 やっと

レアは、床が固いと思いつつ寝起きから身体を解す。

目覚めは、快適とは言いがたいが安全なだけマシだ。


今日はいよいよ町に戻れると、アイテムポーチから朝ご飯にスープとパンに串肉を取り出す。


亜空間の部屋の床に器を直接置くのはなんとなく嫌だったから、木箱の底をひっくり返してテーブル代わりに使うことにする。

この空間に置く家具が欲しいと、思っているが町に戻ってからだろう。

部屋の拡張まではまだ出来ないが、壁にはめ込み式の本棚のような状態に変更出来たせいか、床に置いていた素材や虫籠を、種類別に収納出来たせいか、広くなったように思える。


「んー。スープ微妙」


不味くはないが、塩分の薄さだろうか?

行儀が悪いが、串から外した肉をスープの中に入れる。

ピリッとした味が追加されたからか、さっきよりは美味しくなったと思う。

チビチビとパンをスープに浸して食べる。


食事を済ませ、亜空間から出てみれば朝の食事を終えた蜘蛛たちが待機して待っていた。

ついでレアの行動に慣れたのか、側に糸で巻かれた魔蟲が置かれている。

おみやげだってと、クーから念話が届く。


「ありがとう」


森から平原が見えてきたら、亜空間の部屋にクーを除いた蜘蛛に入ってもらい、いずれ候補者と会わせてマスターを決めてもらうつもりだ。


ここまでついてきた蜘蛛は、糸蜘蛛3匹に火蜘蛛2匹、水蜘蛛1匹、花蜘蛛4匹だった。

クーを入れると、11匹と大所帯だ。

ただどの蜘蛛も、レベルは10以上あるようでマスターが付けば直ぐ様念話可能らしい。


クーを通して聞けば、マスターでもない者との念話が出来るようになるには、もっと高レベルに上がらないと駄目とのことだった。


面白い事に、ある程度レベルがある糸蜘蛛をテイムしても、覚えるスキルが違うことだった。


今までテイムした者による、スキルの違いなんて誰も教えてくれなかった。

レアもクーを通し知ったテイムされていない蜘蛛が、覚えるスキルが違うことは経験の差かなと考える。


生後数日から数ヶ月と、まだレベル0〜1の糸蜘蛛がテイムされる前に既に覚えているのは、噛みつきと糸出しくらいで、服飾の職の者にテイムされたり、運送に関わる仕事をする者や冒険者と職種が変わればスキルもかなり変化するようだ。


蜘蛛の方が、テイムしてくれた者に合わせてスキルや魔法を変化させるなんて、誰も教えてくれなかった。


そこまで考えに至る者が居ないだけなので、皆んなが教えてくれないと、思うのはレアの勘違いだったりする。


「森と、平原までよろしくね。どんな人にテイムされたいかは、クーに言ってね」


通訳してくれるクーのおかげもあって、蜘蛛毎の特性や餌の好みの傾向を知れたのは大きい。


おみやげと貰った生き餌の魔蟲は6匹で、見た目蝶と蛾のような魔蟲だったが、色違いではあるが同じ種類の魔蟲だった。

この森生息の魔蟲は、色違いが多く鑑定がないと、違う蟲と勘違いしやすい。


亜空間の虫かごに入れ、丸蜜と魔水を溶いた物を皿に入れ置く。

巻かれた糸は、レアがわざわざ切らなくても蜘蛛がスキルか魔法で切る事が出来るのも知った。

それなら籠に入れた後に解除を頼めば良いので、すっごく楽だ。


今まで餌に花の蜜だけと思っていたのが、丸蜜(甘い蜜なら他でも良し)と魔水で代用が可能と分かったのはこれまたクーのおかげだった。

ついでに、花蜘蛛も好みの味らしい。


「こんなもんか。準備OK出発」


レアは、スキルマップを確認して町へと急ぐのだった。


「素材発見ってか、まんま素材採集しかしてないし」


魔物や魔蟲の危険性は、蜘蛛とスキルマップで対応可能なせいか、ちょっと危険だけどこの際集めまくる。

次にいつ採取出来るかわからない。


スキルマップに、黄点が複数現れる。

様子を見れば、クーから念話で冒険者達だと分かる。

レアを探しに来た連中らしい。

わざわざ声に出してレアを呼んでいる者もいるのか、誘拐犯の一味ではなさそうだ。


「迎え来たみたいだし、呼ぶまでこっち入っててね」


付いてきた蜘蛛に、亜空間に入ってもらい、魔水も出し、餌を食べたいならこっちからと食べて良い蟲の指示も忘れない。

レアが言った事は、全てクーを通して意思疎通が可能なのがかなり助かる。


クーを除いた蜘蛛達を亜空間に仕舞うと、マップスキルで近づいてくる冒険者達を待つ。


「レアーちゃーん」


「アホか、呼んで来てくれる訳ねぇぞ。魔物呼び寄せるから叫ぶな!」


ガヤガヤと、歩く冒険者達と付いて行くのはエルフのアインスとナナカで、索敵スキルをしているからか前を行く冒険者に注意はしない。

森までの案内だけ頼み、入ってから分かれるつもりだった。


「探す必要ないようだな」


前に見知った気配で気付いたアインスは、レアの姿を見つけホッとする。

亡き幼馴染の娘だ。無事ならそれに越した事はない。


「やっと見つけたぞ」


町に着いてから、ずっと起きていたのだ。

眠気を我慢していたが、ナナカは冒険者達を掻き分けレアに駆け寄る。


「お前が、レアか?」


確認で聞くが、かなり傲慢な言い方に聞こえた。

ナナカは普通に話しているつもりだが、無表情で話しかけてこられると何を考えているか分からないせいか、警戒の方が先にくる。


「そう。貴方誰?エルフみたいだけど、知り合いじゃないよね?」


肩に乗る蜘蛛のクーが、警戒して威嚇するがレアが大丈夫だと撫でてやる。


「やったぜ。俺たちが、見つけたぞ!」


冒険者の1人が、合図の笛を吹く。

レアとナナカのやり取りとは裏腹に、かなりの数の冒険者達が探してくれたようだ。

スキルマップに、集まって来るのが分かる。


「あんたが呼んだアインスに、着いてきた。もっと警戒しろよな。お前が簡単に、拐かされるからこっちは昨夜から寝てないんだぞ!」


昨夜着いてから、騒ぎで休むことも出来なかった。


「そっか。私を、誘拐した連中どうなった?途中まで追いかけてくるから、なんとか逃げ切ったんだけどね」


警戒しなが森歩きしたが、追っ手はなかった。


「蟲の苗床状態だった」


思い出してゾワゾワとする感覚が湧くナナカは、レアにそれがどんなものか説明する。


「うわぁ。見たくないね。そうそう皆さんわざわざ、探しにきてくれてありがとうございます。なんとか無事です」


探しに来てくれた冒険者達に、お礼を言う。


「探しに来た冒険者に、お前が報酬出すことになってるぞ。金大丈夫か?」


なんぞそれ?と聞けば、ルシアスが話していた事を、その場にいる冒険者達に確認する。


「オーナーめぇ。あっ物でも大丈夫?」


側にいる冒険者に確認すれば、レアに鑑定使ってもらうなり、金だったりと絶対コレと言う条件ではないようだ。


「ならここに居る人達に、お礼はしないとね」


アイテムポーチからハガキサイズの紙を出して、名前と欲しい報酬の希望3つまで、後で書いてもらうやり方にする。


「ギルドに戻り、話し聞かれる筈だろう。その時にでも決めれば良い」


ここで集まったままは、時間の無駄だとアインスが告げる。


「分かった。とりあえず紙だけ渡すから、書いたら私に返してね。なんか、かなりの人に迷惑かけた?」


レア自身誘拐された被害者ではあったが、なんだかんだで森で採集しまくっていたせいか、犯罪に巻き込まれた悲壮感は特になかった。


「ほとんどが、報酬目当てだな。お前が、拐かされすぐに高額報酬で釣った連中ばかりだが、迷惑かけたとするならお前の雇い主にでも謝っておけ」


かなりの金を出していたようだと、レアに教える。


「そうだね。オーナーには、金儲けになりそうな物でも渡しておくよ」


茜に似た蔓草を見つけていたのだ。

鑑定スキルでも、染料になるとわかった物だから現物渡しておけば良いかと思う。


ちゃんとした染料にするまでが、大変かもとチラッと考えたが、いずれ大金になって戻るだろうし、まぁ良いやと思うことにした。









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