第30話 来訪者

本来、明け方が近いこの時間帯のギルドは人が少ない筈なのだが、今は集まった冒険者達が指示を待っている。


「先に協力してくれた冒険者達には、ギルドを通し振込がされた筈だ」


荷馬車の発見と、犯人らしき男達の確保は出来たが、肝心のレアが見つかっていない。

ただ荷馬車の荷物から、横流し疑惑が新たに出た為、そちらは冒険者ギルド主体に捜索するようだ。


「見つかってない嬢ちゃんは、どうするんだ?」


レアを発見出来れば、更に大金が手に入ると思ってか冒険者が聞いてくる。


「町のテイムされている念話可能な蜘蛛達から、ブジと言っていると報告を受けた。まだ森に居るが危険な状態ではないと判断した」


蜘蛛達の生態は、はっきりしないが遠方にいる仲間との意思伝達は可能らしいと判断した。


無理に冒険者を使い捜索するより、現れるのを待つと決めた。

なので、捜索に行く者には金を出せないが、レアを発見出来た者には、それなりの謝礼は出すと、詳しい事を知りたい者は掲示板に張り出した書類を読むよう伝えた。


集まっていた冒険者達は、それぞれで判断して一旦宿に休みに行く者、レアを探し出しもっと金を手に入れたい者、酒場に向かう者とそれぞれ別れたが、それでも普段よりは人が多い状態だった。


「なんだ。なんかあったのか?」


たった今ギルドに着いたのか、遠方から来た冒険者の集団がギルドを訪れる。

その姿は、目深くフードを被っているせいか顔は見えない。


「あんたらもう少し早ければ、金儲け出来たのが運悪すぎ」


残念だったなと、伝えるが何のことか分からない集団は、そのまま受付に向かう。


「何があった?Aランクチーム「深緑」しばらくこの町に滞在する予定だ。申請中だが「大地の道標」がクラン名になる」


Aランクと聞いて受付の者が、ギルドカードの確認をする。

フードを外した彼らは、皆エルフだった。


「どのような理由でしょうか?ダンジョンはありますが、Aランクチームの皆様が来られるような依頼は出ていない筈です」


確かに冒険者は、到着した町で滞在することを周知させる義務はあるが、Aランクの者が複数来るような物騒な依頼は無かった筈だ。


「知り合いに会いに来たのと、しばらく滞在する予定だ。この場所なのだが、いつ頃行けば良いか教えて欲しい」


今は、時間的にも訪れるには非常識な時間帯だ。場所をはっきり聞いておき、明るくなってから向かう予定でいた。


「少々お待ちください」


地図を見て、別の受付の者に言伝してから慌てたように奥に引っ込む。


「かなりお待たせするので、こちらの用意した部屋に移動してもらえますか?」


「分かった。」


案内された部屋は、会議室として使う部屋なのか、机を囲むように椅子がいくつも置かれている。


「なぁあんた」


声をかけたのは、まだ10代の子供にしか見えない少年だった。

ただ見た目少年だが、エルフなので年齢が若いとは限らない。


「エスタとお呼び下さい」


茶の用意をしながら、そう話す。


「普通、この時間帯のギルド人少ないよな?」


「はい。今日この様に、人が多いのはある事件がおきたせいです」


その場に居る者達に、茶を配る。


「それ話せるか?」


「町中で娘が1人攫われ、攫った者達を冒険者が捕まえたからです」


簡単な、事件の概要を話す。


「犯人は4人の男達なのですが、更にダンジョンからの魔石や宝石の横流しをしようとしたのか、現在捜索中でまだ分からない状態です」


男達を捕まえはしたが、発見された当時森で蟲に寄生されまくり、話も聞ける様な状態ではなく、薬師ギルドで隔離していると話す。


「攫われた子は?」


「不明ですが、テイムされたこの町の蜘蛛達はブジと話していたそうです」


まだ森の中に居るらしいが、明るくなってからお金目当てで、捜索する冒険者はいるかもしれないと話す。


「皆さんに酷かもしれませんが、攫われたのはレアさんです」


彼らが受付に見せた手紙で、レアが呼んだ冒険者と知った。

先に手紙を見た別の受付が、エスタに後を任せサブマスを呼びに行った。

護衛対象が、護衛前に行方不明になっているのだ。

エルフ達が、唖然としたのも無理ないと思う。


「アイツは何をやってる」


頭が痛いと、深緑のリーダーのアインス呟く。


「一般市民なら、森は危険なのでしょう?」


女性エルフが聞く。


「レアさんは、日頃から森でテイムした蜘蛛の餌を獲りに行っていたので、虫除けを必ず所持していた筈です」


虫除けさえあれば、寄生する様な危険な魔蟲は寄って来ない。

エスタは森がどのように危険であるかと、森の蜘蛛との特殊事情を伝える。

初めて訪れる冒険者には、必ずこの事を話すのだが、虫除けの値段が少し高めなせいか最近はダンジョン発生の影響かよそから来る者が増え、身に付けないで森に入り寄生される冒険者は少なくない。


そうして話ていると、ドアがノックされ戻って来たサブマスと、商業ギルドと薬師ギルドの代表者にレアの工房長ララーザが入室してくる。


「貴方がたが、レアが言ってた冒険者ですか」


内心かなり驚いているララーザだった。

知り合いの冒険者が仲間を連れて来るかも、そう聞いてはいた。


「どう話ていたか知らんが、確かにレアは知り合いだな」


元はレアの両親の知り合いと、そう聞いてはいた。

人族のレアの両親が、エルフとどうやって知り合ったのか不思議だった。


「レアより話は聞いてましたが、用意した物件はどうしますか?」


聞けば、長期滞在するなら2軒ほど多人数で使える物件を貸せるらしい。

どちらか、好きに決めて良いとのことだった。


「ラウシャ、物件下見は任せて構わないから」


呼ばれたエルフの女性が頷く。


「さてこちらチーム深緑と言う。しばらくこの町に滞在するつもりだが、よろしく頼む」


リーダーは、アインスと言う名の銀髪の青年だ。

今回、同行している仲間は、女性2名に男性5名で見た目だけなら皆かなり若く見える。

後から子連れの仲間達が来るらしく、スレバの町に多人数のエルフが訪れるのは、初めての事ではないかと思う。


「ナザレ、私は森の確認をする。不在の代理を頼む」


物件確認で2名、町中の情報収集に3名、森に2名

と別れて活動するようだ。

待ち合わせ場所を決めると、先に情報収集の3名が部屋を出て行く。


「確認するが、捕まえた者達から情報は引き出せないんだな?」


アインスの問いに答えたのは、薬師ギルドの代表者でマナスルと言う男だ。

薬師にしては珍しい武闘派で、物騒な事を中心に扱っているそうだ。


「必要なら男達を見るか?その方が納得する筈だ」


冒険者ギルドのサブマスから許可を得て、何もない空間に扉を出現させる。


「亜空間持ちか?」


時空スキルから派生する魔法で、生き物を入れられる特殊な空間だ。


「いや。これは魔道具を使用している」


そう言って見せられたのは、一見普通の鍵だった。

時空スキル持ちなら、任意で鍵を複製して渡せば時空スキルがない者でも使用できるらしい。

僅かな魔力さえあれば誰でも使えるとのことだった。


「見て気持ちの良い物ではないが、確認すれば納得する筈だ」


マナスルの案内で、アインスとナナカの2人が見に行く事にする。

案内される亜空間は、かなり年期が経っている物らしく、普通にドアを開けると通路と複数のドアが見える。


「持ち出すと危険な薬品や隔離した方が良い者を置いてる場所と思ってくれれば良い」


ギルドの上位の者か、許可を得た者だけが出入り可能だ。


「これは酷い」


今まで、様々な魔物から被害にあった者を見てきたが、ここまで気持ち悪いのを初めて見た。


「見ての通り、蟲に集られた肉人形状態でこうなると死ぬのを待つしかない状態だ」


これでは話を聞くのも無駄と、理解した。


「ご覧になって分かったと思うが、見ていて気持ち良いものではない戻ろう」


発見時からこの状態なのか、見える範囲に集る蟲は取り除けても、中に侵入した蟲までは無理だった。

全身くまなく皮膚下に、蠢く何かがいると分かる。


「確かに無理だね。読み取れるのは名前くらいなのと、感情さえ無い」


スキルで見れないかと、ナナカが確認したが蟲の意識が多く無理とのことだった。


元の部屋に戻ると、マナスルが鍵をかけることで、現れていた扉が消える。


「で、どうするのリーダー?」


森にレアを探しに行くのは、アインスとナナカだ。

森に慣れているエルフではあるが、準備しないと危険と判断する。


「森で使う虫除けを売ってもらえますか?」


マナスルが、薬師なら持ち歩いていると考えてのことだった。

エルフ族は、本来森歩きに虫除けを使う必要がない。種族特性なのか、森に居る生物がエルフを害する事はないが、この町の側にある森に生息する魔蟲もそうかは分からない。


「ならこれを、お使い下さい」


ララーザが、アイテムポーチから森歩きに必要な物をセットにした物を複数取り出す。


「こちらに、森で必要とする物を入れてます」


使い方は、同行者に聞いて欲しいとギルドから案内役を出してくれるようだ。


「こう言っては何だが、何故こうもレアを助けようとしてくれるのだ?」


職場の上司と聞いたから分かるが、ここまで手を回す理由が分からない。


「当初、私個人は使えないとそう思っていました」


主人の気まぐれで、孤児のレアを雇用はしたが裁縫の仕事では全く使えず、雑用をさせていたが、鑑定スキルにより新しい染料の発見に、テイムした蜘蛛の育成とレアの有用性がどんどん増してくるに従い考えを変えた。


「そうか。この町でやっていけてるのなら、こちらから言うことはないな」


「一つお聞きしたいのですが、レアとはどのように知り合ったのですかな?」


亡き両親との知り合いと、そう聞いてはいた。


「レアの親、父親の方だが同じ村出身だ外見は人族ではあるが、先祖返りでな」


長きに渡る悪魔戦争が終わり、種族関係なく交わるようになっていたせいか、時折両親が、ドワーフなのに、獣人の子が生まれたり、人からドワーフや獣人が生まれたりと、種族に関係がない者がたまに生まれる事があった。


「村にそれが許せないと言う者もいて、村を出て冒険者になったのだが、レアとは生まれた時から見知っている」


保護出来ればしたかったが、両親を亡くした時のレアの状態が悪く、孤児院預かりにしていた。


レアの父親の見た目は人族だが、その両親エルフで今も健在ではあったが、閉鎖的なエルフの居る村にレアを連れて行く事は出来なかった。


「外見人族よりの、ハーフでしたか」


人族が多いこの町でも、数は少ないがそう言った者は居る。


「レアにも、この事は話してはいるが、本人よく分かってないようだな」


能力的にも、人族よりのスキルしかないとは思うが、エルフの特性を持っている可能性もある。

今までなら、これと言ったスキルはないと知ってはいたが、レアが戻ってから詳しく話し合いをした方が良いと考えるアインスだった。



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