第29話 町では

薬師ギルドの地下、特殊な空間にそれは運び込まれた。


「ご苦労様です。そこの空いているガラスケースに一体ずつ入れて下さい」


嫌々冒険者達が運び込んで来たそれは、蟲の苗床にされた男達だった。

森からこの場所まで特殊な結界を施し、寄生した蟲が逃げないよう処置されている。


「あんなので、何やるんだ?」


気味が悪いと、運んで来た冒険者の男が仲間に聞く。


「お前、知らないのか?人を苗床にした蟲からも特殊な薬が出来るんだぞ」


それがどんな効果の薬かはしらないが、苗床にされた者は、生きてはいるが自我が消えた生き人形のような状態になる。

脳に到達した蟲が、苦痛も、自死もさせないようしてしまうのだ。


こんな状態になった者は、もはや治療も出来ず一定の期間蟲により生かされゆっくりと肉体が死んでいくしかないのだ。


「コイツらがレア嬢ちゃんを、攫ったので間違いないのか?」


商業ギルド長の、カウルはかなり怒っていた。鑑定室のヤナサの泣き付きで、彼の仕事を手伝ったのが一因で帰る時間が遅くなったレアは結果攫われ、今だに森の中を彷徨っていると考えられていた。


「さっさと、鑑定せんか馬鹿者」


連れてきたヤナサに、罰として苗床にされた男達の鑑定をするように急かす。

普段のチャラい感じはそこに全くなく、神妙に言われた事をただ行なっている。


ヤナサの鑑定で分かった事は、男達の名前と個人的なスキルくらいだったのだが、こんな状態で生かされた彼らは、最早人とは言えない状態だった。

身体の穴全てが蟲で埋まり、眼球が本来ある筈の場所に集る蛆、見慣れない者は見た瞬間逃げ出す程だ。


「この状態でも生きているのか?」


「肉体はもって3日ですね。苗床にされた彼らに苦痛はないようですが、これで生きていると言いたくはないですがね」


薬師ギルド長の、クルスは貴重な資料が手に入ったと、内心思っていた。

こんな状態の者には悪いが、彼らに集る蟲から肉体を若返らせる薬が作れるのだ。

意図的に、この状態にするのは違法で、もしそれをした薬師が居た場合は、これと同じ状態にされる刑が待っている。


それだけ厳しく、薬師ギルドで決められている。

若返りの薬は、飲めば1年寿命が延びる。

ステータスを確認すれば、確実に飲んだ後の変化が分かる。

王侯貴族が、最も高値を付けて買い取ってくれる高級な薬だった。


「蟲が薬になろうが、薬師ギルドの領分は分からん。レア嬢ちゃんが、無事戻ればいいが」


カウルじいさんは、目の前の男達よりも自分の気に入った者の方が大事だ。

人間誰しも、知らない者より知っている者の方を優先する。


「名前が分かれば、後はこっちで探させよう」


冒険者ギルドのサブマスのガーナンも、成り行きの確認の為、ここにいた。


ダンジョンからのアイテムの横流しは、違法だ。

必ずギルドを通してを推奨されている。

魔石は魔道具に必要だし、宝石は錬金術の材料から、身に付ける宝飾品にもなる。

低いランクなら、そう厳しくはないが横流しされる予定だった物は、どれもランクが高い物ばかりだった。


ダンジョンが発生し、そこからあれだけ集めたとすると、高ランクの冒険者が関わっている可能性も高い。


「領主夫人が、戻り次第各門に個別認識魔道具設置をせねばならんな」


どれだけの金が飛ぶか分からないが、大量に持ち出される魔石の魔力をチェックする為の物だ。

魔石とは、魔力の塊なので設置する予定の魔道具は、あり得ない程の魔力が門を通った時に反応する仕掛けで、無許可の持ち出しを阻止するだけの物だ。


ただ抜け道もなくはない。

アイテムポーチに入れてしまえば、分からない。が、アイテムポーチが出回り始めた初期の物は、魔石を制限なく入れる事が出来るのだが、最近の物は一定数の魔石を入れると入らなくなる仕様にしている。

その為大量持ち出しでなければ、アイテムポーチに入れて運べる。

初期のアイテムポーチを、なんとか回収しようと無償で新品の交換を密かに行なってはいたが、芳しくない。


「そこの鑑定師、この者達の種族は分からないか?」


ガーナンはあんな状態では、名前だけでは誰か判明しにくいかもしれないと、種族の確認も即す。


「あ、はい右2人は、人族です。こっちは、獣人のハーフ、これは鱗人寄り?種族が混ざってはっきりしないです」


なんとか鑑定はしたが、外見人族でも種族がはっきりと人族になるとは限らないようだ。


「分かった。さて不明の娘は、全く手がかりがないのか?」


特殊な空間での作業は終わり、戻りながらクルスはカウルに聞く。


「手がかりになるか分からんが、念話出来る蜘蛛達がブジと伝えたらしい」


念話出来る蜘蛛がそう言うなら、森の捜索はしないことにルシアスは決めたとも聞いた。

無事なら、その内戻るだろうとそれでもレアを発見した者には、高額報酬を出すと伝えているので、冒険者が自分達で探す分には好きにさせている。


「その娘、無事なら良い。うちの弟子達とも仲が良かったと聞いた。鑑定の性能もかなり高いようだな。弟子の一人が鑑定の結果を見せにきたが、一度素材の詳しい鑑定の確認をしてもらいたいものだ」


レアが知らない所で、かなりの高評価を得ていたようだ。


「まずいのぅ。レア嬢ちゃんが、見つからないことには色々滞る」


馬車の脱輪で、遅れていた鑑定して欲しい連中は深夜スレバの町に無事到着している。

今は、鍛治ギルド長フルガが密かに匿ったと報告を受けたカウルじいさんだった。


「サブマス」


ここに居たと、冒険者ギルドの受付をしていた者が、慌てて薬師ギルドまで探しに来たようだ。


「どうした?」


「ギルドにお戻り下さい。不明になってるレアさんの護衛する予定の冒険者の方達が、今ギルドに来てます」


呼び出す程のことか?と思うが本来のギルド長が居ないのだ。自分が対処するしかない。


「分かった戻ろう」


あの男達は、薬師ギルドに任すことにしてその場に居た冒険者達には、荷馬車の荷物をギルドまで運び職員の指示で動くよう伝え冒険者ギルドに戻る事にする。

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