第26話 逃亡

追ってくる怪しい風体の男達から、レアは何とか逃げ隠れながら森の中を逃げ回っていた。


思い出せるのは、商業ギルドを出て屋台に寄ってから工房に帰ろうとした時に、気付けば荷馬車に乗せられスレバの町から別の町に運ばれる途中、テイムした蜘蛛のクーの助けもあって逃げ出した。


「しつこいなぁ」


表示させたスキルのマップには、複数の赤い点が表示されている。

自分が青い点に対し、敵は赤、不明は黄に表示されている。

沢山見える黄の点は、森の動物か魔物だろう。


隠蔽と、擬態スキルを使い敵から隠れマップから敵の動きに気を付けて少し休む。

スレバの町まで、まだかなりの距離がある。


「気を付けろとは言われてたけど、町中で不意打ちだったよ」


アイテムポーチから、虫除けの匂い袋を取り出し身につける。

森の中は、虫除けを身に付けておかないと、かなり危険だ。

だが蜘蛛の魔物だけは、この森では危険はない。

クーがいるおかげか、寄ってくる小さな魔物はほぼクーの糸で絡め取られている。

日頃から魔虫の生態を知っていたレアは、森に逃げ込みなんとか魔虫の習性を利用して逃げきれている。



敵らしき者達が、黄の点と戦闘になったようで、マップにどんどん赤い点に近づいて行く黄の点が表示され、剣の打ち合うような音も微かに聞こえる。

レアを追っている者達は、どうやら森の中の歩き方を理解していないようだ。


「この隙に移動するとして、クーどこも怪我ないね。フードで大人しくしてて」


レアが言うことを、ちゃんと理解している蜘蛛のクーは、背中のフードで落ち着いている。

森の中でレアが出来ることは、敵から逃げ切る事と、いかに魔物と遭遇しないで先に進むことだけだ。


多少の魔法は、レアでも使えはするが見習い冒険者レベルの経験しかないレアが、魔物と戦うと言う選択はない。

ヘタに戦っても、追ってくる連中のように魔物を更に誘き寄せてしまうだけだろう。

スキル暗視を使い、暗くなっても追ってくる敵から逃げ切らないことには安心できない。


「クー、どこか休めそうなとこないかな?」


森の中は、クーの方が有利だ。

なんせ仲間の蜘蛛がいるし、敵対しない蜘蛛ならスレバの町の住民に、手を出してくることは絶対にない。


フードの中から飛び出すと、レアを案内するかのように進んで行く。

念話が使えればと、そう思うがまだまだレベルが6と低いクーではレアと念話が出来ない。


ただ逃げる為この森に入り、短期間と言えもう6までレベルが上がっているほど、クーには町中より森の中がレベル上げしやすいようだ。


「何とか逃げきれているかな」


マップの赤い点は、全く見えなくなった。

でも安心は出来ない。


クーの案内で進むと、蜘蛛の巣が増えてくる。

テイムされなかった蜘蛛の巣のようだ。

前世の地球にいる蜘蛛と、生態がかなり違うのかある程度大きくなるまで寝る時は群れになるようだ。


「ここが、森の中での中立地帯なんだね」


中立地帯とは、蜘蛛が集まる巣がある所で蜘蛛をテイムしたい者は中立地帯に行き、蜘蛛を手に入れるのだ。

レアの場合は、森に入る手前の中立地帯でクーを手に入れた。


マップには緑の点が、沢山表示されている。緑は敵対しない者を指すのだが、クーが何匹かの仲間を連れてレアに寄ってくる。


「治せば良いんだね」


クーが連れて来た蜘蛛は、怪我をしていたり、脚が取れていたりと傷ついた蜘蛛のようだ。


アイテムポーチとアイテムボックスの両方から使えそうなポーションを何種類かの確認をする。


「明るくなるまで、泊めてもらう対価だよ」


レアは怪我が酷い蜘蛛から、ポーションをかけて治してやる。

人が話す事は、やはり分かるようで大人しくされたままでいる。


「脚取れたのは、ポーション無理だから魔法で治すよ」


治癒魔法の再生を使い、取れた脚を再生してやった。


「これで良し。でも、スキルや魔法増やし過ぎたか」


レアは転生者特典で、得たい魔法やスキルを簡単に取得出来るのだが、今までは最低限しか取得しないようにしてたのが、不本意ながら今回の誘拐で色々と取得した。


最近は、かなり目立ち始めたと自覚はしていたから気をつけていたつもりだが、前世の安全だった日本とは違うのを忘れていた。


「思い付くなら別の町の貴族か、商人またはそれらに追従する者か、たまたま人攫いくらいかな」


なまじ前世文化の娯楽小説を知っていたせいか、異世界あるあるで予想を考える。


誘拐して懐柔か、駄目なら奴隷にでもすると考えられる。

ルシアス様にも言われていたのに、注意が足りなかった。


「戦う強さなんてないし、逃げるしかないしなぁ」


捕まっても、逃げれる用意はしないとマズイと今回のことで自覚した。

森に逃げ込めたのは良かった。


「明かりは、駄目だね。見つかりやすいか」


アイテムポーチから、入れていた軽食のハムを挟んだパンと、飲み物を取り出す。

日頃から、屋台の食べ物や飲み物の買い置きをして、アイテムポーチに入れていたのが良かった。

暗視スキルのおかげか、暗くても特に不便はない。


「クーもなんか食べる?」


ストックしていた餌の虫をいるか聞くが、ここは森だ。

自分で、餌を取りに行くようだ。

周りに居る蜘蛛も、特に何かして欲しいこともないのか、そこかしことジッと身を潜めている。


さっさと食べて、敵がマップ表示されたら知らせるようにスキルの操作しておく。

このマップの便利なことは、現在地表示から敵が現れたら知らせる機能がある事だ。

ただ自分で動かないと、マップの更新がされていかないせいか、初めて進んで行く先に何があるか分からないのが不便だった。


マップを見る限りでは、中立地帯のここに近づいてくる者はいない。

黄の点は見えるが、かなり離れている。


「森の中は、まだ安全だね。魔物はいるけど」


スレバの町がマップに表示されているが、ここから徒歩でどれくらいかかるかも分からない。


1番危険なのは、森を出て平原から町に入るまでだろう。昼間なら、森やダンジョンに向かう冒険者がいると思うが、敵の規模がスレバの町にどれだけ及んでいるかも分からない。


「転移出来れば楽なのに!」


転移スキルも確かに手に入れたのだが、このスキル取った後に行ったことがある場所と、なっているせいか現時点で使えないスキルだった。


「やりたい事してるだけなのに」


うだうだと考えても仕方ないので、アイテムポーチからマントを取り出し、地面に敷く。

これだけでも、かなりマシだろう。テント張りたいくらいだが、追手がどれだけの距離にいるかも分からない。

少しでも横になって休むレアだった。



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