第21話 準備 3

なるべく寄り道しないで、工房に戻ったレアはルシアスとララーザが居る事務室として使用している部屋に向かう。


「戻りました。手紙は出したので、早ければ今月中に来てくれる可能性高いです」


返事はまだ貰ってないが、前回の手紙の時に近い内に会いに来ると、書いてあった。


「孤児院は、どうなった?」


ルシアスは机上で、宝石の確認をしていたようだ。

貴族用の宝飾パーツに、加工する物だろうか?


「OK貰えたので、こっちは生き餌管理小屋の設置を、大工にお願いしてきました。あと希望があるんですが、来てくれる予定の冒険者は子連れなので、子供が居て大丈夫な地区で建物1階が店舗に出来る物件を希望したいのですが、可能ですか?」


その冒険者は、家族や仲間でチームを組んでいる為、部屋数も多いほど助かる。


「何人くらいだ?」


作業の手を止め、レアに聞く。


「夫婦と、その子供が3人で1歳、3歳、5歳と 仲間の冒険者が多分最低3〜5人一緒かと?もっと増える可能性ありです。クラン設立するとも言っていたので、あっこれは言っちゃダメだった」


内緒して下さいと、レアはルシアスに告げる。


「だそうだ。ララーザ、普通クラン設立する冒険者のランクはどれくらいだ?」


貴族であるルシアスは、冒険者は興味ないので全く知らない。


「確かAランクにならないと、設立許可は下りない筈です」


冒険者の場合、まずチームを組み、ある程度の実績を残しとから、Aランクになった者がクランを設立する。

これも金だったり、面倒な取決めがあったりするが、クランが町に1つでもあると安全面からも歓迎される。


レアの知り合いに、Aランクの冒険者が居るとは思いもしなかった。


「どうやったらAランクの冒険者と、知り合えるんだ?」


また騒ぎが、起こりそうな予感がするとそう考えるルシアスだ。


「亡き両親と、幼馴染だと言われました。初めて会った時はBランクだったので、その後Aランクに上がったのかな」


レアの両親が亡くなったのがレアが10歳の時で、12歳まで前世の記憶と、前世を思い出す前のレアとして生きた記憶がごっちゃに混ざり、混乱して曖昧だった為に精神が不安定過ぎた。


その為、引き取ってレアを育てようにも、依頼でどこへでも行く冒険者には、無理だろとシスターの判断で、孤児院預かりとなった。

何度か孤児院にも来てくれて、レアとの交流は続いていた。


「ルシアス様。クラン設立する予定の冒険者となると、繋ぎがある方が便利かも知れません」


上位ランク冒険者と、知り合える機会などそうない。

普通、冒険者のランク上げは1番下が見習いや駆け出しのEランクで始まり、依頼の成果で上げられるのがCランクまで、Bランクより上のランクになるのは、試験とギルドマスターの許可など色んな手続きが必要になり、ランク上げが難しくなってくるのだ。

Aランクと言うことは、それらを突破してきた実力の持ち主になる。


「向こうが、この町に長く居着いてくれるかわからんが、ある程度の広さも必要だな」


クランを設立したいと、そう思わせるだけの物でないと、この町に居着いてもらうのは難しい。


「となると、貴族の館が密集する通り近くが良いかもしれませんな」


この町の建築物は、石造りで庶民が住む建物は、3階建てから5階建てが多い。

ただ貴族の館や領主邸は別で、建てられた年代の違いが関係しているようだ。


ララーザは、何件かの候補から用意していた物件が書かれた2枚を選び取ると、ルシアスに渡す。


「どっちも、元商人の物件だな」


1階が店舗で馬車置き場があり、小さな中庭に温室と、地下は倉庫にこの町ならではの、ありえない程の空間拡張の魔法がかかった建物だ。

どちらも、似た性能で建物の向きと、中のレイアウトが違うくらいだ。

人数が何人増えても、空間拡張で部屋の広さ変化は可能なので、クランハウスとして使えもすると思う。


見せてもらったレアは、外見と中身のギャップに驚く。


「こんなに空間拡張の魔法かかってますけど、大丈夫なんですか?」


魔法が、解除されたらどうなると思ってしまう。


「あー。知ってるのは、歴史に詳しいか貴族くらいか。この町の空間系の、魔法が壊れることは絶対にない」


この土地の特性なのか、非常に空間系の魔法と相性が良く、町中全てにかかっている魔法は、魔力があれば永久的にかかったままらしい。

ただ家にある魔法陣を消してしまうと、効果も消えるとの事だった。

天井に彫り込んでいるため、めったなことでは消えないとの事だった。


「来たら、このどっちか選んでもらえ。買取はお前で、しばらく借金だな」


染料が流通し出せば、レアならそう時間かからず返せるだろう。


「あの〜これいくらになるんですか?」


この町で、家を買うのはかなり大変なのだ。

先祖伝来でこの町に住み、家を持っている者もいるが、大抵の家族連れでも部屋を借りている者ばかりだ。

安く住む裏技は、この町の空間拡張されている部屋を、多数の者で借りる。

一部屋に30人も余裕に入っても、まだ広いと若手の冒険者が屋台で話していたのを聞いたこともある。


「お前が見つけた染料で染めた布が、流行れば1年くらいで支払い終わるくらいか」


金額言ったところで、驚くだけなのであいまいにする。


「それって、最悪売れなかったら借金じゃないですか!」


まだ本当に、売れるかも分からないのに10代で多額の借金持ちってどうなのと思う。


「不安なら、他にも探してくれば良いぞ。あの変な色の実だが、布が黒灰色に染まるそうだ。まだ布の種類別に、検証中だからはっきりしないがな」


元が黒っぽいし、かなり地味な色になるのは仕方ないかと思う。

借金となると、かなり痛いからレアはなるべくダンジョン産を扱っている屋台を回って探そうと考える。


「素材じゃないんですが、コレは売れますか?」


孤児院の子に渡そうと思った一部を、ルシアスに渡す。大工に加工してもらったあの板だ。


「なんだこの板は?」


「これで紐織れます。織るのに時間少しかかるので、仕事の続きしてて、下さい。


アイテムポーチから、やや太めの色糸を3色取り出して、纏めて縛ってから真ん中の穴にいれ色糸は溝に引っ掛ける。

あとはひたすら決めた外側の切り込みに、色糸を引っ掛けていくだけだ。


5センチほど出来上がってから、ララーザに渡す。ずっとレアの手さばきをみていたのか、ララーザも簡単に続きが出来た。


「糸に、何か通してから織ることもできるので、簡易な飾り紐も作れる筈です。色糸が足りなくなっても、継ぎ足して行けばいい。この切り込みに入れる幅を変えることで、多少違った紐にも出来ます。後は、糸の数増やせば更に違う模様も作れるかと」


レアが組紐を知っていたのは、前世で祖母が組紐をやっていたからだ。

祖母がしていたのは、組紐台を使った本格的な物で、手の動きが不思議でジッと見ていた記憶があった。


子供でも出来るようにと、組紐プレートをもらって作った記憶を思い出したのだ。

リリアン編みでもよかったが、たまたま棟梁の所でみた丸太の端材が、組紐を作るプレートに出来そうと気付いたので、こっちを先に作ってもらった。


「蜘蛛のリボンと、違い編み込む手間はありますが、どこでも持ち運びも出来、糸の数が少なければ子供でも直ぐに覚えるはずでしょうな」


これは使えると、そう思ってくれたようだ。


「この板、売るのは禁止だからな。まだ持ってるならだせ」


ほら寄越せと、ルシアスが意地悪く笑う。


「孤児院の子に、渡すのでダメです!」


「なら、この建物どちらか決めたら、お前にやる。借金無くなるぞ」


こんな板で、建物が手に入るなどあり得ない。


「そう言って、借金漬けに」


「するかアホウ。お前、自分の価値分かってないな。必要なら契約書書いて、神殿の神の前で許可を得るのでもかまわない」


ララーザも、反対する様子がない。


「これ作ったのは、12枚ですが自分で個人的に使いたいのと、エミリーに渡す分抜いて10枚だけで良いですか?」


「分かった。ただし、外でやるなよ。構造が単純だから、見られたらすぐ真似されるなコレは」


ルシアスがそう言うなら、そうなのだろう。


「作って貰ったガント棟梁には、何も話してはいませんが、そっちからばれる可能性もなくはないと思います。これ渡す代わりに孤児院は、別の方法を教えることにします」


道具がなくても、糸があれば出来る方法を思い出した。これなら道具を必要しないし、取り上げられることもない。


「全くムキになるから、レアの反撃をくらうんですよ。レア、ルシアス様は身内と認定した者にはかなり甘いです。だが、こんなのでも貴族の端くれなので、それなりに接してあげなさい」


何気に、庇ってあげているのか微妙な言い方をするララーザだった。


「ちょっと待て。まだ、あるのか?」


「編み方は種族の違いや、文化の違いで色々ありますよね?アイデアだけなら、いくつもありますよ」


今更、何を言うんだと思う。


「渡したソレとは、全く違うので心配しなくても大丈夫です」


だてに、前世で祖母から編み物や組紐を、習っていた訳ではない。絵に熱中するまでは、それなりに作れたと自負している。


「教える気はあるのか?」


「半端でいいので、余った糸を定期的に孤児院に寄付してほしいです」


子供達の誰かが蜘蛛のテイム出来れば、なお良いが今は出来る事からだろう。


「分かった」


「ありがとうございます。以前、太すぎて素材のまま売るしかないと言ってた太糸ありますよね?あれこの手を使って編めますよ」


自分の手や、腕を使うだけと話す。道具は自前なので、かかるのは太糸くらいだ。


太糸とは、フェルトを糸状にした見た目がもこもこした糸で、スレバの町はそう寒くなることがない立地にある為か、寒冷地向けのこの太糸は人気が全く無かった。


「貴族向けには無理かもですが、庶民向けに活用できる方法があります」


馬車に乗ったときの、クッションとして編んだり、ブランケットを編めると話す。


「となると、ギルド長に売り付けたいところだが、現物ないと信用されないな」


「エミリー借りて良いですか?糸を用意してくれるなら、エミリーに教えるので、1週間あれば小さいのならいくつか完成するかな」


前世ぶりの腕編みになるが、急ぎでする事は今の所ないので、蜘蛛と生き餌小屋管理をしっかりしておけば問題ない。

巻き込む形になってしまうエミリーは、悪いと思うがただで、技術が手に入るなら安い物だろう。



「で、私がレアにそれが理由で、教わる訳だ」


ちょっとそこに正座と、床の上に直接正座したレアは怒っている様子のエミリーを、上目遣いで見ながら頷く。


「後これ、賄賂」


木の組紐編み用の、プレートだった。


「これあれば、可愛い紐つくれるよ」


ルシアスには、基本の編み方しか教えなかった。エミリーには憶えている事は全部教えようと思っている。


「しょうがないなぁ。レアには色々して貰ってるし」


「材料はララーザ親方に言えば、補充してくれるはずだから、編み終わって完成品をまず確認したいんだって」


最初は、膝掛けになる大きさで慣らしていけば良いかと考えていたので、多少の根気と腕が疲れるがその後のレアとエミリーは、言われた期間内に、何枚かの膝掛けとクッションを完成品させた。

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