第20話 準備 2

冒険者ギルドに向かう道を歩いていると、ほのかな木の香りが漂ってくる。

立て掛けられた木材や、石のブロックが積み上げられた倉庫兼店舗が増えてきた。


大工や家具職人と、建築に関係した店を多く構える通りに入ったようで、家具や日用品の木製の食器があるかと思えば、ブロックに加工した石を扱う店があったりと、ウインドショッピングして見たくなる通りだった。

残念なのは、人通りよりも行き来する建材を積んだ馬車の方が多かった。


「裏から入んないと、無理か」


目的の大工の工房の前に、馬車が止まっており、建材の運び出しの作業をしているせいか、かなり入りづらい。


店舗の裏に通じる横道に入ると、こっちは歩く人がかなり多かった。

裏口だが、店舗と通じるようにしているせいか、表通りから店に入るより知っている者は、裏口から入るようだ。


「こんにちわ。ガント棟梁いますか?」


建材の運び出しは、若手数人がしているようだ。

レアの呼びかけで、指示していた棟梁が近寄ってくる。


「おう。どうしたレア嬢ちゃん」


「こんにちわ棟梁。孤児院の温室に、工房で作ってもらったのと同じ生き餌の管理小屋作って欲しいので発注お願いします」


とりあえず希望を言う。


「レア嬢ちゃん。あの小屋の値段分かっていて言ってるのか?小屋とカウント魔法の魔道具付けて、最低金貨10枚するぞ」


元々、工房には蜘蛛部屋があったので生き餌の管理小屋は、ルシアスが全額出していた。

自分の工房の職人が、テイムしている生き餌しか食べなくなった蜘蛛がいたから、生き餌の管理小屋を設置させたのだ。

きっかけはレアだったが、必要にかられてである。


「蜘蛛部屋だけなら、銀貨5枚だな。そこに生き餌管理小屋を合わせると、こっちはカウント魔法の魔道具の値段含めて金貨10枚だが、小屋に使う材木の種類で値段が変わる」


魔道具込みで値段が高くなっているのだ。


「なるべく劣化しにく材木を、使った場合だと幾らになりますか?」


「そうだな。この黒墨樹を使えば、かなり長く保つな。蜘蛛部屋、生き餌管理小屋と魔道具を合わせて金貨15枚になるぞ」


黒墨樹は、森の中腹よりに生えている木で、切ると木の年輪が、始めから真っ黒になっている不思議な木で、この黒さが長持ちする理由らしい。


「全額、前払いします。ギルド振り込みの方が安全だけど、金貨直接見せないと冷やかしだと思われそうだから、はい確認お願いします。忘れず領収書ください」


値引きをして、欲しいとは言わない。

何度も利用しているお得意様ではないし、工房に生き餌管理小屋の設置では、レアの意見を中心に、設置してもらった関係で棟梁と顔見知りで会話した程度の関係だからだ。


「レア嬢ちゃん。この金どうした?」


「疚しいお金じゃないです。わたしが似顔絵描けるの、棟梁知ってますよね?12歳から成人するまでに似顔絵描きで稼いだ分と、製紙スキルの紙を売って稼いだ分です」


信じられないなら、ギルドの振り込み記録も見せるつもりだったし、ルシアスに確認して貰っても構わないと考えている。


成人してそんなに経ってない子が、そうそう稼げる金額ではない。

自分の年齢から、付き合いが短い人に説明出来るように、普段から用意を怠らないようにしている。


1日最低3時間の似顔絵描きで、10人前後描いて大体3年分でも、金貨15枚には届かないのだが、画材スキルで、サイズ調整が出来るようになったので、溜め込んでいたハガキサイズの一部の紙を、ルシアスに売ってみたら、思ったよりも高く買い取ってくれたので、その分も含んでいる。


何でも、売っている紙よりもレアがスキルで出した紙の方が、質が良く破けにくいらしい。

前世の、色んな種類の紙を知っていたことが、紙の質に影響したようだ。


「わかった。ちょっと待ってろ。ロアナ仕事入ったぞ。レア嬢ちゃん発注書渡すから、あっちで書いてくれ」


来客が来たら、対応出来るようテーブルと椅子を設置した一角に移動する。

待っていると、ロアナと呼ばれた女の子が書類片手にお茶持って近づいてくる。


若いなと、つい鑑定してしまったが、ハーフドワーフ17歳となっていた。

外見だけじゃ分からないが、レアよりも年上とは驚いた。

どう見ても、小学生くらいにしか見えない。

棟梁が、ドワーフでここに居ない奥さんが、他の種族のようだ。


「お客様、いらっしゃいませ〜」


どうぞと、発注書を渡される。


「はじめまして。私レア、これ書いたら全額前払いするから、金額教えて下さい」


「了解です。父ちゃんに確認してもらうね」


必要項目を記入して、工房と同じ様に管理小屋と蜘蛛部屋が繋がって、蜘蛛が自由に行き来出来るようにして欲しい事も記入する。


あらかた必要事項を書いてから、棟梁に確認してもらう。


「レア嬢ちゃん、本当に金貨15枚で良いんだな」


「構いません。棟梁、あの隅にある輪切りになってる端材も、売ってもらえませんか?」


木皿に加工するには薄く、焚き付け用にしかならない端材のようだ。


「あんなんで良いなら、いくらでもやるぞ」


「ちょっとだけ、加工してもらえませんか?」


アイテムポーチからメモ用の紙を出して、真ん中を3センチくらいの穴を開け、輪切りの外側に一定間隔の切り込みを、グルッと入れて欲しいと告げる。


「変な注文だな。それくらいなら、弟子でも出来るな」


建材を積み終えた弟子を呼び、レアが言う注文を指示する。


「あの輪切り、何枚ありますか?」


10枚以上は、ありそうだ。


「14枚だな。これ全部にするか?加工途中で、割れることもあるぞ」


こんな物で、何すんだと?不思議そうに思われているようだ。


「割れたら諦めるので、お願いします。1人銀貨1枚払います」


人件費は必要だろう。

頼んだことは単純ではあるが、面倒だ。


「レア嬢ちゃん!普通は、こんなんで銀貨1枚もかかるか!」


金の価値を分かっているのかと、レアに言いたいようだ。


「ササクレになってる箇所は、ヤスって貰えますか?簡単でも、数があるし手間賃は必要かと思います」


レアの要望通りに、加工出来たのは12枚だった。2枚は、加工途中で割れてしまった。

スキルを使ったせいか、加工に時間はそうかからなかった。


「長持ちするよう、サービスしてやる」


オイルのような物を、吹き付けてスキル乾燥で綺麗に乾いた。

鑑定で確認すれば、オイルと染料を混ぜて作った物のようだ。


前世の、木に塗る劣化をしないようにするオイルステインと同じ効果の物のようだ。


「ありがとうございます。これ手間賃です」


作業してくれた弟子5人に、銀貨1枚を渡していく。

臨時収入に、かなり嬉しそうに笑っている。


「棟梁もどうぞ」


受け取ろうとしないので、娘さんのロアナに銀貨1枚渡すレアだ。



「わーい。まいどー」


「んで、こっちが金貨15枚。確認して」


棟梁の確認が終わると、領収書をロアナから受け取る。


「教会のシスターには、許可取っているのでいつからやってもらえますか?」


「明日からやる。材料は、貴族からも注文ありそだと見越して用意していた物を使うが、完成は今カウント魔法の魔道具が、手元にないからな。それが届くの待ちだろうから、大体10〜12日後辺りだな」


工房を中心に、生き餌の管理小屋の製作を最近頼まれるようになったことで、準備はしていたようだ。

魔道具が、王都からの取り寄せで時間がかかるのは仕方ない。

小屋だけなら、1〜2日あれば作れてしまうらしい。

魔道具は、作る手間と王都から取り寄せ手続きで時間がかかるのは仕方ない。


「この依頼の後しばらくは、依頼こないかもしれないですが、孤児院の生き餌が安定すれば、顧客増えるかもしれないです」


ちょっとだけ情報を、流す。


「分かった」


生き餌を食べた蜘蛛の方が、レベルが上がりやすいと、棟梁も気づいていたようだ。

棟梁の蜘蛛は、地蜘蛛で今はロアナが世話を中心にしているようだ。


「後は、危なくないのなら孤児の子が、見学する許可お願いしたいです。1人木工好きな子がいるので、もしかしたら勝手に、見に行く可能性高いので」


タナトの事を、棟梁に話す。

後に、レアが話していた事でタナトが、棟梁の知り合いの工房に出入りするようになるのは、もう少し先の事である。


さて孤児院の発注を済ませ、棟梁にまた来ると告げて、レアは冒険者ギルドに向かうことにする。


それにしてもこの世界、楽しいことも多いが面倒に思うことも多い。

魔法があり、前世よりも文明として発展が低いし、王制だ。

この世界と比べる前世は、自分の自由があった。

身分制度といった厄介な制度は、貴族のちょっとした機嫌1つで、平民が犠牲なる事も珍しくはない。

貴族と関わる事になって、前世感覚で対応しないようにはしているが、ついボロっとやってしまうことがある。

オーナーのルシアス様は、かなり寛容なのと平民が貴族と関わる時の注意点を教えてくれるので大変助かる。


「歩きにくい」


棟梁のとこから出て表通りを歩いていたが、馬車が多く、やはりウインドショッピングしながらは危ないので、また近くの建物の横道に入って裏通りを歩くことにする。

裏通りは、大型馬車禁止なのか、たまに馬車の絵にバツが書かれた標識のような物が、大通りと繋がった道に立てられいる。


「商店街っぽいかな」


食品、衣類、冒険者用と種類多く、この通りはとくに統一されていないようだ。


「やっぱり、お店してみたいな」


画材スキルと鑑定に、似顔絵描きがあれば店が出来るはずだ。

登録手続き中の染料が、本格的に売れていけば定期的な収入になるだろうし、自分の店なら色々融通が利く。


「要望通るかだけ、ルシアス様に確認しょう」


レアの思い通りに行くなら、今の工房に定期的に必要な時だけ通うもありかと考える。

もし可能なら、やってみたかった事がいくつか出来るかなと思う。

時折、気になった店の前で止まってみたり、知り合いとたまたますれ違って挨拶したりしながら、レアは冒険者ギルドに向かう。


冒険者ギルドの前は、どこよりも大きな広場になっている。

元々、雲の森から大型の魔物を運び込めるだけの広さが必要で、かなり広い広場になっていた。


ただ三代前から、アイテムポーチが作製されるようになり、広い広場に直接運び込む必要がなくなったせいか、ここの無駄に広場を活用する為に、冒険者が扱う物を中心にすることにした。


その結果ここは飲食の屋台だけでなく、素材、防具、武器、薬と言った自分の店や工房を持てない若手の見習い職人が出店している。


そしてダンジョン発生からしばらく経ったせいか、屋台で扱う物にダンジョン産が増えていた。


レア自身、ここで有料の似顔絵描きをしたことはない。

屋台で売っている物の中に、たまに掘り出し物が手に入る話を、噂で聞くことはあった。


屋台の間を人にぶつからないように、縫うように歩きながら、中央にある冒険者ギルドに向かう。

冒険者ギルド関係の建物は3つあり、中央の本部と、右側が素材や魔物解体場、左側が冒険者向け施設になる。

この左側の施設は、訓練所から資料室、交流の場や依頼受付窓口になっている。

ちなみに採取会の時の集合場所は、左側の建物を利用した。


レアが本部に向かったのは、冒険者に手紙を出したい時に、本部に一定料金を支払って配達して欲しい冒険者に、手紙を届けてもらう為だった。


冒険者ギルドがある所なら、必ず手紙の転送装置が置かれている。

入って直ぐに見える売店へ向かい、手紙セットを銅貨30枚で購入する。

これは売られている冒険者のギルドによって、封筒に何処から送られたか分かるよう、魔法がかかっている。専用のセットになる。


鑑定したが、意味不明の数字が読み取れるだけで、レアにはよく分からなかった。

多分、転送装置に必要な魔法がかかっているんだろう。


空いているテーブルをみつけると、挨拶文から始まり、必要事項と簡単な工房までの地図を描き、この町に来て欲しい理由を記入する。


封筒に書き終わった手紙を入れ、封をするのだが、封筒自体に組み込まれた魔法で糊も必要なく封される。

毎回これを見る度に、不思議に思う。


封筒に送る冒険者のチーム名と、リーダー名を記入し、裏にこの町の名前と自分の名前を記入する。

これを受付に渡し、料金を払うだけだ。


「こんにちわ。手紙お願いします」


配達受付の、窓口で手紙を渡す。


「チーム大地の道標宛ですね。少々お待ち下さい」


受付嬢が、奥に行き現在どこのギルドにチーム大地の道標がいるか調べに行ったようだ。


冒険者登録をしてから知ったのだが、別の国や都に冒険者が移動した時は、必ずその場所にある冒険者ギルドに、報告する義務がある。


理由の1つに、今回のような手紙の受取りをスムーズに行う為だ。

他にも、生存報告の確認の必要もあるからになる。


「お待たせしました。料金は、銅貨80枚になります」


言われた料金を、レアは渡す。

前回、手紙を送った時より料金が安くなっていたのは、この町に近づいているからだろう。

送り先と、受取先のギルドの距離で手紙の料金が決まっている。


用事が終わったので、屋台に惹かれるモノはあったが、今回は見ないで早めに工房に戻る事にしたレアだった。





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